55話 愛奏シ雨ノ中
「!戻ってきた!英雄が戻ってきたぞーーー!!」
1人の男性が皆にそう呼びかけると、まだ日の出を迎えた直後というにも関わらず、街の人たち全員が呼びかけに応えて北門の前に集まっていった
アイラ達が街に帰ってきたのだ
「英雄ー」「英雄だー」「すまない、俺あんたのこと誤解してたよ…」「冤罪だったのね」「あんた達こそ本当の英雄だー」
アイラが建物に向かっている間に、凶暴化事件の真相が国王直々に国民全員に伝えられていた
それを聞いたほとんどの国民が、掌を返したようにアイラ達を悪魔を倒した英雄と祭り上げている
建物に悪魔がいると確定したわけではないと逆張りしている人も何人かはいた
だが、その全ての歓声が聞こえていないかのように、アイラ達は何も言わず歩き続けていた
国民達もそれを無視して歓声を送り続けていたが、ある光景を1人目撃した瞬間、連鎖するように歓声の雨が止まった
アレスが抱き抱えるように、ノアの首を持っていたのが見えたから
アイラは、凶暴化事件の解決に大きく貢献したとして、英雄法によりナスカン王国の永住権が認められ、ようやく戸籍を手に入れる事ができた
「これでようやく約束を果たせる」と、意味深な言葉を1人呟いていたのを俺は偶然目撃したけど、どういう意味なのだろうか…
そして翌日、ノア様の国葬が執り行われた
「親愛なるノアよ、今我々は、君を失った事への深い悲しみと、我が国の発展のため死を迎える直前まで生き抜いてくれた事への感謝を抱え、この場に参列させてもらっている…」
国王自らがノア様へ、追悼の言葉を読み上げている
この国葬について「そんな事をする時間と金があるなら、今すぐに凶暴化事件の終息に向けて動くべきだ」とか、そんな風に批判する者は誰1人としていなかった
それどころか、国民の全員がこの国葬の式に参列し、ノア様の死を崩れるように嘆いていた
それは妹もそうで、俺の横でさっきからずっと涙を流している…
かくいう俺も、泣きたいのは同じだ
今でも思う、どうしてノア様は殺されたのか
アイラはあの部屋の右奥の通気口に悪魔がもう1体隠れていて、そいつに殺されたと言っていたけど、そんな事が知りたいんじゃない
こんな時に限って考える、どうして世界は上手くいかないんだろうって
親共が死んで、兄妹2人だけになった俺たちに、充分すぎるくらいに手を差し伸べてくれたノア様…
どれだけ手厚くされようとも関係ない、己の信念を曲げず、ただナスカンの平和のためを想って生き続けたノア様…
俺にもう一度、生きる希望を与えてくれたノア様…
どうしていつも、そんな人ばかりが死んでいく
なぜ、死んではならない人から先に死なないといけないんだ…
見たくもない絶望だけを約束されたように見せつけてくる世界
希望なんてほとんど見せてくれない癖に
ただでさえ世界は残酷なのに、運命からも見放されている
だからせめてここよりましの、他の国に行ってみたいとずっと思っていた
アイラは言った、自分は異世界から転生してきたと
もし、それが紛れもない真実なのだとしたら、それが俺にも可能なのだとしたら
早くこんな世界から逃げ出して、こことは違う異世界に、いつか転生したいと、顔を暗くしながら、アレスは想った
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能力様の国葬が終わってからの流れは早かった
悪魔の魔力に汚染された川を浄化する煙を発生させる装置が開発され、それを川全体に流して凶暴化の発生元を断った
更にこの装置には凶暴化したモンスターを元に戻す効果があるため、クラウドのスキルで量産したその装置を巨大化させてから、雨の降った日に装置を起動させ、雨水に紛れて煙を森中に拡散させた
これによってほとんどのモンスターの凶暴化は解け、僅かに残った、凶暴化が解けなかったモンスターはアイラを中心に全て倒され、また地面に放置されていた凶暴化したモンスターの死体も、念のため全て回収された
これで、凶暴化事件は全て解決したと思う
アイラの無罪も確定したし、もし、ノア様が生きていたなら本当に良かったのにと、しがみつくように心から想った
その2日後、国王直々に、凶暴化事件の終息宣言がなされた
終息宣言を出した日の夕方、プライムは1人、王室の中に入った
険しい顔で王室の電気をつけ、玉座に座ろうと前を見る
その目に映った玉座を見て、国王は思わず目を見開いた
その玉座にどこから入ってきたのかもわからないほどいつの間にか座っていたのだ
アイラが
次回、国運天秤裁判編、最終話です!
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