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54話 決着

心臓をもぎ取られたにも関わらず、オリビアはゆっくりと起き上がり始めた


「な…なんで!?なんで生きてるの!?」


エルナが声に出して驚く、アレスは、理解が追いつかない衝撃に言葉を失っている


それに、アイラが答える


「…心臓をもぎ取られたのに生きてるんじゃない、あの娘は…もう死んでいるのよ」


アイラが語ったそれに、2人とも動揺を隠さなかった


その言葉が本当なら何故オリビアは今動いているのか、もし嘘だとしても、やはり何故心臓をもぎ取られたのに生きているのかがわからなかったから


「一応言っとくけど、実は心臓が本体でした〜なんてないわよ、だからこうやっても意味はない」


アイラは手に持っていたオリビアの心臓を握り潰した


だが当然のように、オリビアは立って動いている


「どういう状況なんだ…」


アレスが思わず呟く


「最初から変だとは思ってた、どうして魔力を感じないのに動いているのか…けど、ケインのスターボムを連続で喰らったのに、何事もないかのように攻撃を再開してきた時点で理解したわ」


「どういう事?」エルナが質問する


「……あの娘は池に反射した自分を見て、限界を超えろと暗示をかけた。けどオリビアはその暗示の効果の大きさの代償に、暗示をかけた時点で死亡していた、本来ならそうなるはずだったのよ、けど…そうはならなかった。何故なら暗示をかけた時、彼女は()()の効果で痛感を失っていたから。これは推測だけど、本来自分にはかけられないタイプのスキルを自分にかけた場合、例えその代償で死亡したとしても、スキルの効果自体は発動すると思うの。だって本来ならばあり得ない状況だし、一部のスキルに代償があるのは自らの身体を痛めつけるためではなくて、大きすぎる負担をわかりやすく実感させるための一種の防衛本能でもあるから、万が一死亡する状況になってもスキル自体は発動しているものだから。でも何故歴史上暗示のスキルを持った者は何人もいたはずなのに、一度もこういう状況にならなかったのかというと、恐らくこれをしようとした者全員が、代償で死亡させる過程で発生する痛みでショック死していたからだと思うの、だから今まで一度もこの状況にはならなかった、少なくとも記録の上ではね」


オリビアが足を引きずらせながらアイラに迫っていく中、アイラは気にする事なく説明を続けている


「だけど、今回は違った。その娘は、痛覚が一時的に消える暴走を発動している状態で自分自身に限界を超えろと暗示をかけた…だから痛みによるショック死は起こらず、スキルの効果によりかけられた暗示だけを原動力に動き続けているのよ、さっきから一言も喋らないのは一度死んで心を失っているから」


空気がしーんと静まり返った


「……それじゃあ、もうオリビアは倒せないのか…?一度死んでるんじゃどうしようも…」


アレスが改めて質問した


「オリビアっていうのねこの娘。いいえ、倒す方法はあるわ」


「それは…私の封印って事?」エルナが尋ねる


「いいえ、封印はしないわ」


「ならどうやって!」アレスが少し詰め気味に質問する


「見てもらったらわかると思うけど、心がないとはいえ、ダメージは感じているのね、つまり感覚はあるって事。生物学的には死んでいるけど、あの娘の身体そのものの状態はまだ()()()()()と言えばわかるかしら?要するに今ならまだ生き返られせる事ができるかもしれないって事、既に死んで絶対に倒せないのなら、一度生き返らせてその後に殺せば問題ないでしょ?まぁ、心臓はもう握り潰してるから、生き返った直後に彼女死んじゃうけどね」


アイラはチェーンテールを発動し、発生した鎖でオリビアの足元に鎖を巻き、歩けなくさせて地面に倒れさせた


「でも、生き返らせるってどうやって?」またもアレスが質問する


「簡単よ、いや簡単ではないか…」アイラはそう言いながらオリビアの背中に回った


「見て、この娘の背中を、今この娘の背中は、私がさっき心臓を抜き取る過程で抉り抜いたから穴が空いてる。でも、心臓の方はともかく、背中の穴くらいならさっき話している間に再生されているはずなの、でも再生されていない」


「どう…して?身体は生きてるんでしょ?」


「そう、だから再生能力も僅かだけどまだ残っているはず、それを今から復活させる」


「だからどうやって回復させるんだよ?」


何度も繰り返してくるアレスの質問に、アイラはそれを実践しながらようやく答えた


「今から、私が抉り取ったこの背中に、大量の魔力を注ぎ込む、そうすればそれを排除しようとこの娘の蘇生能力が一時的に活性化する、その反動で生き返るはずよ」


アイラはそう説明した後、自らがオリビアに空けた背中の穴に、魔力を注ぎ始めた


体内に直接魔力を送り込もうとしているのだ


しばらく流していく内に、オリビアの身体が一瞬激しく揺れ動いた


「「!!!」」


「いい感じ、この加減で続けるわ」


アイラはそのまま魔力を流し続けた


やがて、オリビアは小さく何かを発し始め、その後も魔力を流し続けると、オリビアは突然叫ぶように痙攣を起こした


それを確認したアイラは、そっと足元の鎖を解除する


オリビアはゆっくりと起き上がり始めた


「どうして鎖を消したの!?もしかして成功したの!?でも動いて…」エルナが不安そうに聞き詰めた


「私の魔力を注いだ影響よ、すぐに命の蝋燭が溶けるわ」


オリビアはじっと、アイラを見つめる


「…なんで、なんで…そこの女の鎖のスキルで封印しなかった…」


オリビアは静かに、アイラに聞きつける


「……この手で貴方を殺したかった…っていうのは嘘よ」


アイラは無防備な笑顔でそう答えた


「!?だったらなんで!!!」


「…私が他の2体を殺した時、貴方は私の事を本気で憎んでいた…」


「それは今も変わらない!!!」オリビアは切り裂くようにアイラの言葉に被せた


「その時私は、同族思いの悪魔もいるんだなと思った。けどおじいちゃんも、その悪魔に殺されたのだから、私だって同じ思いだった。今私がこうしてここに立っていられるのは、おじいちゃんのお陰…だからそのおじいちゃんを殺した事が許せなかったし、今だって許すつもりはない…けど」


一度、言葉を詰まらせて喋る


「私が、四天王を殺したほんにんだと言った時、貴方は特になにも言わなかった、それで気がついたの…貴方は別に同族思いってわけじゃない、私と同じなんだなって。貴方も私と同じ、仲間を想って私を憎んだんだなって」


「当たり前でしょ!!!!!!!!!」


オリビアの怒りを詰まらせた言葉が、夜の池に反射する


「仲間を殺されて…殺した奴を憎まないはずがない!!!」


「……そう、よね…だから私は、貴方に憎しみの矛を向けられなくなった。私と同じだってわかったから、これ以上戦うのは間違いだと思った、でも一度始まった戦いは、もう終わらせる事はできないから、だからせめて封印でなく、しっかりと死んで欲しいと思った…」


しーんとした静寂が辺りを包み込んだ


「…なによそれ…そんなの、お前のただの自己満足だろ…お前が何を考えたって!!!お前がどう行動したって!!!殺されたみんなは帰ってこない!!!お前達に殺された事実は変わらないんだよ!!!」


吹き荒れる風が、4人の顔を痛々しく打ち付ける


「私は…全てを奪われた。私が…幹部だったから、私が他と違うかったから、全部に見捨てられたの…友達にも、家族にも、村の人たちみんなにも……でも、ソン様達は違った…ソン様達はそんな私を拾ってくれた、救ってくれた!見捨てる事だって出来たはずなのに…」


オリビアは身体を震わせ、ボロボロと涙を零した


「私たちも…お前達も…もう殺してしまったんだよ……もう…手遅れなんだよ…」


その時、オリビアの体内に残留していたアイラの魔力が底をつき、少女は何の音も立たずただ静かに倒れた


「………アイラ」


アレスがか細く、アイラに声をかけた


アイラは一度だけ大きく深呼吸をして、こう言った


「これで、任務は完了。街に戻りましょう…」

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