52話 心の無い非常
オリビアは光を失った瞳で、不気味にアイラを見つめる
明らかに先程までとは様子が違っている
(…なに?何が起こったの?)
アイラは慎重に、オリビアの様子を確認しようとする
だがそれを行う隙を与えずに、オリビアが目に追いきれない速度で突っ込んできた
「!!!」
アイラはこれを、顔を斬られる直前に剣で受け止めて防いだ
それは…さっきまでのオリビアの力とはかけ離れた力とスピードだった
さっきかけていた暗示が事実なのだとすれば、自分の限界を超えた能力を引き出しているという事になるけど…
アイラは一度背中から翼を展開して飛び上がり、オリビアから距離をとった
(今のあの娘…まともにやり合うとかなり面倒くさいかも、自分の限界を無視している…か)
オリビアはアイラのいる高さまで跳ね上がり、その後空気を蹴ってアイラに迫ってきた
アイラはこれを剣で受け止め、その後オリビアと熾烈な空中戦を繰り広げる事になった
アイラの剣とオリビアの斧が、空中で何度も交差する
(さっきからずっと無表情だけど、理性が完全に消えているのかしら?それとも…いや、それ以上に)
そう、アイラはこの時気がついたのだ
オリビアは今、魔力を一切帯びていない事に
普通、如何なる生物も魔力が尽きれば死亡する…にも関わらず、今オリビアはこれまで以上に激しく過敏に、強力に攻撃してきている
これが本人が暗示していた魔力すらも超越するという事なのだろうか、だとしても生物学的に説明がつかない
アイラは疑問に思いながらも、今のオリビアは考えごとをしながら戦えるような相手ではないため、一旦気にせずに戦いを続行する事にした
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アレス達は永遠と増え続ける影達に完全に足止めされていた
「このままだとその内バテてやられちゃうよ、アレス!」
エルナが銃で応戦しながらアレスに呼びかける
だがそこにアレスが、「……一応、考えがないこともないんだけど…」と意味深に返してきた
「え?何か打開策あるの?」
「…あるにはある、ノア様が最期に放った全神斬の余波がまだ残っている内は…けど成功できる保証もないしなによりそれの成功率はエルナに依存し過ぎてる、相当な責任を押し付ける事になってしまう」
と、アレスはいった。だが、アレスにここまで言われて断るエルナではない
「…だったら尚更…やってやるわよ!アレス!!貴方の言う事ならなんだってやるし、それに…今のアレス、いつものアレスに戻ってくれたから、だから、絶対上手くいくよ」
「エルナ、ありがとう…じゃあ、俺のいう通りに動いてくれないか」
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アイラとオリビアが、空中で何度も剣と斧をぶつけ合っている
ガンガンと、金属同士を打ち付けるような音が辺りに響き渡る
だがやがてアイラが力負けして、斧で遠くにある地上の岩まで体ごと弾き飛ばされた
その岩に強く激突する、だが休む暇なく、オリビアは空気を蹴り上げて位置を調整しながら、アイラ目掛けて急降下してきた
アイラへ、オリビアの斧が振り翳される
だがアイラはそれを、[サンドシチュエーション]で肉体を砂に変化させて防ぎ、そのまま風にのって上空へと移動した
戸惑うオリビアに、アイラはすかさず火炎放射を発射する
だが、オリビアは一度炎に包まれながらも斧でそれを全て吹き飛ばし、また風を蹴ってアイラへと迫って斧を差し向けた
アイラはこれを防いで、一度更にオリビアから距離を空ける
「…なるほど、確かにこれは凄いわ、どういう状態なのか知らないけど、さっきとは比にならないくらい強い。ならどうするか…」
アイラは引き締めていた体を起こして、少し楽な姿勢になった
「せっかくだし、さっき覚えたばかりのアビリティ、使っちゃおうかな♪」
アイラは徴発するように、右手を前に突き出してそう言った
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エルナはこの部屋全体を見る事ができる、1番高い位置にあるパイプの上に立った
下の地面には既に50はいるであろう影達がうじゃうじゃと湧いて出ていて、アレスがそれを1人でなんとか対処している
エルナは今一度、アレスに伝えられた作戦を再確認し……実行に移った
1、封印を発動し、鎖を部屋の端から中央へ迫っていくように動かす
2、それにかかった影達を全員巻きつけ、その影全てを封印する
よし、思った以上に上手くいった
7体ほど影は残っているが、これで充分だ
俺はまだ全神斬の余波が残ってるノア様の剣の元へと走った
あの影は、おそらくソンの身体がある限り永遠に増え続ける
だからあの身体を、完全に破壊しなくちゃならない…そのために!
俺はノア様の剣を掴み、そのままソンの死体を切り裂いた
全神斬としては僅かに残った余波ではあるが、それでもその絶大な破壊力によって、ソンの身体を原型を止める事なく粉々にする事ができた
この攻撃で全神斬の余波が完全に消え、封印し損ねた影達も全員消えた
「アレス〜〜〜〜〜」
エルナがパイプから飛び降りて俺の元へ走ってきた
「やったね!」
「あぁ…エルナのお陰だ」
「そ、そんな///じゃあ結婚する?」
「なんでだよ」
それと、ノア様の…お陰だ
俺は、ノア様の形見の剣を天井に向けながら、そう、感謝した
「………よし、これは終わらせたし、アイラの方へ行かないと」
俺たちは破壊された壁跡の通路を走り、アイラの元へ急いだ
そこで見た光景は、信じ難い光景だった
アイラの右手が、オリビアに斧で切断されている光景は
アイラの右手が…まぁこういう終わり方する時って、大抵次回に引き留めるためのある種の詐欺なんですけどね
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