49話 トラわれる
アレス達を閉じ込めるように、突然、丸いリングが3人の周りに現れた
「な…なんだこれ!?突然………」
アレス達は困惑したまま、ソン達の方を向く
「どうやら成功したみたいだね」
オリビアがゆっくりソンの元へ近寄っている
「どういう事だ」と質問するノア様
それに対し、ソンがさり気なくこう説明した
「これまで我々がお主らと戦っている間、私はずっとお主らに私の魔力をマーキングしていた」と
「「「!?」」」
そう言って、またソンの魔力が増加した
「今お主達を拘束しているのは、磁力集中中端空界円環結界投喰というアビリティだ、僅かでも体内に私の魔力を仕込ませた相手を任意の場所に、磁力で引き寄せたように集め、その周りに魔力を帯びた輪を出現させて閉じ込めるというものだ」
また更にソンの魔力が増加した
「全神斬」
ノア様が全神斬を繰り出してこの輪を破壊しようとした
だが輪が壊れるどころか、キンという鈍い音が響いただけで、衝撃を受けたという雰囲気すら印象させなかった
全神斬はノア様の持つアビリティの中でも最高威力の技、つまりは王国最強のアビリティ、それで破壊できないのだ
「無駄だ、それでも輪は破壊できない」
ソンが挑発するように言ってきた、同時に魔力が増加する
赤裸々の基準って結構緩いんだな
「無駄、お前達はそこから抜け出せない。全ては自分の内、お前たちは初めからこうなる予定だった」
オリビアが冷酷にアレス達にただ事実を告げてきた
「ノア様、どうしますか、これ」
「………この手の結界には、必ずどこかに魔力が一切込められていない穴があるはずだ、ほんの僅かに一点魔力を帯びさせない部分を作る事で、それ以外の箇所を安定させる為にな…」
「なら、逆にそこを壊せば…」
エルナが希望を持ったようにそう言った
「先程からそれを探しているのだが、一向に見つからないのだ、どこにあるのか…」
溜め込んだようにノア様は言った
確かに、この輪にそんな魔力の穴のようなものがあるようには感じられない
それほど完璧な結界なのだろうか
だが、冷静に考えると妙な状況だと気づいた
奴らは俺たちを拘束して何をするつもりなのか、今のところ大きなアクションは起こしていないようだが…
ノア様が穴を見つけるまで、探りを入れつつ時間を稼ぐ事にした
「お前ら、俺たちを拘束してなにをする気だ」
「まぁ少し待てい」
ソンは右手のひらを俺に突き出して静止した後、空間拒絶破壊魔と呟いた
「よし、これでバリアは貼り直せた。して、質問の答えだが、別に捕まえてどうこうするつもりはない、ゆくゆくは殺すつもりだかな」
よし、意外にも自然な流れで会話ができそうなムードだ、慎重にいけば、このまま奴らの情報を聞き出せるかもしれない
「お前らがロックドラゴンを召喚して、森中のモンスターを凶暴化させたんだろ?」
「結果的にな」
「何故そんな事をした…答えろ」
強い口調で言ってみた、これでどうでるか見ておきたかったからだ
「何その言い草、お前自分の立場わかってんの?」
オリビアの方が俺に反応してきた、一方、ソンが「まぁ待ちなさい」と言ってオリビアを宥めている
この2体には、主従関係のようなものがあるのだろうか…
「この地にロックドラゴンを召喚した理由、それをお主達に話す事はできない…だが全ては、[プロジェクト・フェニックス]にのためだ」
「プロジェクト・フェニックス?」
聞いた事のない用語だった、更にどういう意味だと続けてソンに問い詰めた
「さて、ここまで話せば、もう赤裸々も充分だろう」
「!!!」
突然ソンがそう言った
今冷静に、ソンの方をみる
確かにいつの間にか、ついさっきよりも遥かに魔力が増加している
そうだよ、普通に考えたらわかるだろ?奴に凶暴化の件や悪魔について聞くことは、奴に魔力を増幅させる機会を与えるだけだという事くらい…
だけど、ここで自分自身の弱さを呪っている時間なんてない
今はこの状態をどうするかを考えろよ、俺はまんまと乗せられていた、そう開き直れよ
ノア様は剣を縦に、地面につけて目を閉じている、集中しているんだろう
エルナも両手に銃を構え、ソン達に威嚇している
ソンとオリビアはそんな俺たちを嘲笑するかのように、僅かに、頬を浮かべている…
なにか…俺に出来る事はないのか?この状況を打破出来る何かが…
……正直、目の前に森中のモンスターを凶暴化させて、我が国を混乱させた犯人が目の前にいるとか、そんな事俺はどうでもいい
もし、モンスター達に国が街が滅ぼされたとしても、俺とミアだけは、俺のスキルで逃げてやろうと考えてるくらいだ
でも今この状況は…ノア様も、エルナも、奴の策に嵌って、俺共々この輪に捕えられている
助けたい…2人を、どうにかして!
左拳を強く握りしめながら、アレスは自らを鼓舞した
その時、アレスの瞳が、カメリア色に輝いた
それと同時に起こったそれは、本人は気づいていないが、それ以外の、この場にいる全員が気づいた
アレスの体から、目にはっきりと見える、紫色の魔力が放出されていた
それに触れた輪が反応したように、赤黒く変色し始めた
「アレス…?なに、これ…」
心配気味にアレスをみるエルナと同様、ソンとオリビアも、明らかにこれに動揺していた
そしてこの時、ノアはある事に気がついた
(!輪の色が変わった途端、輪自体の魔力が急激に弱まった?今なら物理的に破壊出来るかもしれない、この輪を)
ノアは勢いよく剣を振り翳し、全神斬を発動した
先程はただ弾かれるだけだった輪が、明らかに剣に、強く、食い込まれている
徐々に剣による破壊が進行していっているのを感じた
「ヤバいんじゃない、ソン様」オリビアが一歩後ろに下がった
なんだろう、凄く妙な気分だ
さっきから、アレスは何か思考ができるような気分じゃなくなっていた
ただぼーっと、ソン達を睨み続けている
「おおおおおおおおおおおおおおおお…おお!!!!!」
ノアの全神斬が、輪を裂いた
パリーンという破裂音が部屋中を飛び回っている
「やった…」
それと同時に、アレスの体から放出されていた魔力が一瞬で止まり、目の色も元に戻った
「アレス…?大丈夫……?」
エルナは慎重にアレスに声をかけた、だが、アレスは何の事かよくわかっていない
「……」
ノアは気にしながらも、一度無視して、全神斬が残っているままソンの元へ一気に突っ込んでいった
(このまま、全神斬が残っている奴を攻撃する。その威力であのバリアを確実に破壊し、現れた魔人も全神斬の余波でそのまま倒す。今奴らは明らかに動揺している、あの悪魔を倒せるのは今しかない!)
ノアは飛び跳ね、剣をソンの首へと近づける
オリビアも、ソン自身も、完全に反応が遅れてしまった
既にノアの剣は、ソンの間合い手前まで近づいている…
「スキル、[スナイパー]」
この部屋右端にある狭い通気口から、音のない弾丸がノアの首元を直撃した
ノアの首が剥れ落ち、地面を勢いのままにバウンドする
ノアの体が、ソンのバリアまで滑って、止まった。
この光景が、突然アレスとエルナの視界に映った
「そう…だったな」
ソンが安心したように、大きく息を吐く
アレスも、エルナも、ただ目の前で起こった状況を受け止められず、ただ立ち尽くしていた
「………言い忘れていたが、お主達が戦っている相手は…私たち2人だけではない」
ソンがそう言ってきた
なんで?何故ノア様が、死んでいる???
今、何が起こっている、目の前で何故こうなっている
どうして今――――――ノア様が死んだんだ
「ちょっと横通るよー」
その時、肩から突然、女性の声が聞こえてきた
それは、聞き覚えのある声、何度か聞いた声
そして俺が、今望んでいるはずの声
アイラだ……
アイラが、俺の目の前に現れた
どうしてアイラがここにいるのか?その理由は次回の国運天秤裁判第二審 5で!
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