47話 開示と暗示
アレスとオリビアが、互いに武器を構えながらしばらく睨み合っていた
そして、お互い同時に向かっていった、剣と斧が至近距離でしばらくぶつかり合っていた
アレスが僅かな隙をみてオリビアを剣で弾いた
しかし、ここでオリビアが突然アレスを指差しながらこう言った
「2秒動くな」
その瞬間、俺は身体が一切動かなくなった
オリビアか真っ直ぐこちらへ向かってくる
なんだ?何をした!?
奴の斧が俺の頭に降りかかる直前、突然身体が動かせるようになった
「!?」
俺はすぐに剣を動かして攻撃を防いだ
その後しばらく、三度剣と斧の攻防が繰り広げられたが、その最中にオリビアが「3秒息を止めろ」と口にした
その瞬間、今度は呼吸が突然出来なくなった
当然思うように身体が動かなくなり、しばらく防戦一方になった末、奴に頬を少し切られたところで一旦奴との距離を空けた
「ぶはああああ」
その瞬間、ようやく息ができるようになった、ゼーハーと身体を下に向ける
けど、これでなんとなくわかってきた…
恐らく奴のスキルは、対象に暗示を掛けるスキルだろう、それで俺に動きを止めたり息を止めたりしていた
だが、それならもっと強力な暗示を掛ける事もできるんじゃないか?自傷しろとか、洗脳とか、死ねとか…
いや、これは単純に考えていいな
恐らく、強すぎる暗示はその分奴に負担を強いるのだろう、だからそういった暗示は掛けてこない
とはいえ俺も似たような代償のスキルを持っているからわかるが、こういうのは使う時は負担がほとんどない程度に普段は使い、ここぞというタイミングで負担の大きい使い方をするのが基本だ
つまりまだ油断はできない、その内強力な暗示を掛けてくるかもしれない…さてどうするか
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「今お主の攻撃を防いだのは[虚構手腕群集断]といって、これはお主との間にバリアを作り出すアビリティだ、ちなみにこれを破壊すれば魔力で作られた魔人が出現する、注意するがいい」
ソンがノア達にそう言って、魔力が増加した
という事は今言った事に偽りはないという事…しかし
「デストロイ!!!」
私は奴に向けてデストロイを発動した、だが奴の前でキンという音がしただけで効果はなにもなかった、奴が言ったバリアに防がれたのだろう
バリアは当然筋肉ではないから、デストロイの効果はないのは当然ではあるが…しかし、防がれた感覚があったという事は、物理的に破壊可能ではあるという事
魔人というのが気になるが今はひとまず考えないでおくのが正解だろうか
「ノア様、大丈夫ですか?」
エルナがノアに駆け寄る
「あぁ、大丈夫だ、しかしバリアか…」
(開示のスキルも相まって…かなり手強いな)
「まぁ、そうそう私には近寄らせないがな、[蛇足数珠玉網縄]」
ソンが言って、蛇のように長い数珠玉が現れた
色は全て返り血を浴びたように赤く、そして長い
それを、ノア達目掛けて振り下ろしてきた
エルナはこの大きく細長い数珠玉を避け切る事に躍起になり、中々ソンに近づくことができない
それはノアであっても同様で、この数珠玉を相手に防戦一方になっていた
どうにか抜け道はないかと注意深く観察しているが、あみだくじのように梯子状に複雑に張り巡らされた数珠玉の網を突破する抜け道を、中々見つけられないでいた
エルナは完全に防戦一方になり、銃を構えているのに一度も引き金を引けていない
足手まといにはなりたくないと、少しでも皆の役にたとうと、一度、アレスの様子を見た
しかし、アレスもまた、苦戦していた
ただでさえ戦闘能力で僅かに劣っている上に、暗示で確実にこちらの動きを制限してくる
何気に下手に超越光速を使っても直前に斧で防ぐなどして対応してくる上に、僅かに攻撃を入れられても再生能力で回復される
悪魔を倒すには、バイア戦でのノア様のように、相手を即死させるような一撃を与える必要がある
その為にはどうにか超越光速を使う隙が欲しいところだが…
その時、オリビアが斧に体重を強く加えて攻撃し、俺を大きく吹き飛ばした
耐えきれず、体が仰向けになって地面に激突する
その瞬間、オリビアはスキルを発動させた
「5秒動くな」
このスキルに当てられた
俺は仰向けのまま5秒間動けなくなった
まずい…この大勢で5秒はまずい………
動けるようになっても立ち上がらないといけないから、実質的に6秒動きが封じられた事になる
オリビアはここぞとばかりに飛び上がり、一度だけ吐血をしながらも斧を振りかぶって俺に向かってきた
その目は、心の無いように冷たかった
「アレス!!!!!」
それを見ていたエルナが、数珠玉にわざと当たって吹き飛ばされてソンの攻撃範囲から逃れ、その後すぐに封印を発動してオリビアに鎖を差し向けた
鎖がオリビアの目のすぐそばまで高速で近づき、それに気づいたオリビアはすぐに手に持っていた斧を足で蹴ってその場から離れた
オリビアが着地するまで、鎖はオリビア目掛けて進んでいる
だがやがて着地し、そこから鎖を避けて走り回り、やがて封印を維持する限界を迎え、鎖はエルナの元に戻っていった
「アレス!!!」
エルナがアレスへ駆け寄る
「大丈夫!?」
「あぁ…大丈夫、」5秒が経過して起き上がりながらそう答えた
「すみませんノア様!私、アレスの援護をします!」と、大きな声で言うエルナ
「ああ!私は大丈夫だ!頼んだぞ!」
数珠玉を避けながら答えた
「妙な魔力が込められた鎖だった、けど、関係ない」
オリビアは改めて、斧を俺たちに向けてきた
「エルナ、奴のスキルは、恐らく暗示。奴の命令に強制的に従わせるスキルだ、けど強力な暗示は奴の負担が大きいのかあまり使ってはこない、そこをどうするか…」
エルナに、可能な限り奴の能力を伝えた
「わかったわ、暗示ね…」
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こちらを包囲するように広げられた数珠玉の網
だがこれを突破する方法が…ようやくわかった
1、まず振り下ろしてきた数珠玉を避けた後、その数珠玉に飛び乗って駆け上がる
2、やがて振り落とされ、私は地面に投げ出される
3、そして私に更に追い討ちをかけようと迫ってきた数珠玉を剣でいなし、逆にその数珠玉を掴む
4、掴んだままその数珠玉を勢いよく蹴り上げる
5、蹴り上げた勢いで宙を移動し、蹴り上げられた数珠玉を動かす為に生じた網の穴をそのまま潜り抜ける
6、これで数珠玉の網を突破できた
私は剣を構え、ソンの元へと駆けた、だが当然、私を自分の元へいかせまいと後ろから数珠玉が迫ってきた
「言っておくが、これだけではないぞ。[障害咆哮撃音波]」
更に追い討ちをかけるように、鼓膜にまとわりつくような歪な音波を繰り出してきた
不覚にもそれによって私の動きは止まってしまった、この音をまともに聞けば、鼓膜どころか体全体に悪影響を及ぼすような気がしたからだ
だから私は、敢えて後ろに戻って迫り来る数珠玉の元へと駆け抜けた
そして足先に魔力を込め、その足で数珠玉を蹴り上げた
その勢いで一気にソンの元へと距離を詰められた
鼓膜が破壊される前に、奴を倒せばいいだけの事だからだ
私はその勢いが衰えぬまま、アビリティ、[残像斬]を発動した
これは私の剣の先にもう一つ、刃の残像を作りだすアビリティ
だがこの残像はただの残像ではない、この残像には実態がある、よって!2回攻撃が可能となる!
私は残念に勢いと体重を重ねながらバイアに斬りかかった
バイアに、少しだけ亀裂が生じた。だが同時に残像も消える…
しかし、残像が消えてもまだ本物の刃が残っている!
私は残った本物の刃をひび割れた部分に強く斬り込み、そしてそのまま、バリアを完全に破壊させた
パリーンという乾いた音が響き渡った
これに同様したのか、ソンは数珠玉と音波を消した
今が、絶好の機会だ…ここで仕留める!
「デストロイ!!!」
デストロイを発動し、ソンの右腕を破壊させた…筈だった
デストロイを発動させたと同時に、全身が水のように青い、奇抜な服を着た男性のような存在が、「アハっ!」と言いながら突然目の前に現れた
私はその存在に驚き、思わず視線を逸らしてしまった
そのおかげで破壊したのはソンの左脚の筋肉になってしまった
私はその存在に蹴り上げられ、奥の壁まで吹き飛ばされた、ドンという鈍い音と共に、私は壁に激突した
「じゃアネ!」人差し指を頭から上げてそう言いながら、その存在は消えていった
「言っただろう、バイアを壊すと魔人が出ると」
ソンは左脚を気にしながらも、ノアにそう言った
(とはいえこの痛み、左脚の筋肉を破壊された?あの亜人、かなりの手だれだな)
ノアはゆっくりと起き上がりながら、ソンを睨みつける
(なるほど、下手にバイアを破壊するとあぁなるわけか、とは言え、今ので大体は理解できた)
ノアは冷静に、また、剣を構えた
「!!」その時突然に、ソンがなにかに気づいたように、顔を上げた
「だがまぁいい、ようやくマーキングが終わったからな」
ソンはそう言った後、掌を何度もすり合わせ始めた
ノアは慎重に、その様子をじっと観察している
「[磁力集中中端空界円環結界投喰]」
ソンはそう言った後、強く掌同士を叩いた
その瞬間、アレス、エルナ、ノアの3人が、突然宙に浮かび上がってこの部屋の中央に集まっていき、3人が集まると、アレス達を閉じ込めるように、丸いリングが3人の周りに出現した
「な…なんだこれ!?突然………」
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