43話 物語の真相
俺たちは、魔力を帯びている正体不明の建物の扉の前に立っている
やたら大きく、城のような外見をしているが、本当にいつ建てられたのか分からない
場所的に、この奥にはやや大きめの池があるはずなのだが、その池のすぐ側に建てたのだろうか
考えても仕方ないか、俺たちはそのまま、建物の中に入っていった
「……これは」
建物の中は、一面が鉄パイプや金網、溶鉱炉が敷き詰められている工場のような姿をしていた
だが何よりも奇妙だったのが、あれだけ大きな外見をしていたのに関わらず、どうやら俺たちが今立っている位置がこの建物の最上階らしく、頭上もあるにはあったが、そこにはただ鉄パイプが無造作に設置されているだけだった
変わりに、通路は下へと続いていっている
「どういう作りなのよ、これ」
エルナが思わず口を溢す
「だが、これによりこの建物がただのいたずらであるという線は一層消えたともいえる、そんな事を考えや輩に、このような技術も発想もあるとは思えんからの」
ノア様、結構辛辣だった
「一応上も見ておきますか?」
「いや、上からは魔力は一切感じられないからやめておこう。それよりも下、ここの遥か下から強い魔力を感じる」
ノア様は右奥に見える、下へと繋がる螺旋階段を指差していった
確かに下の方から魔力を感じるのは間違いない、それは、エルナも感じている事だろう
けど、もし下に悪魔がいるのだとして、何故見張りのような者が今のところ現れていないんだ?何かの罠か?それとも悪魔は個体数が少ないから見張りの並を用意できるほどの余裕がないのか?
悪魔が無作為にロックドラゴンを召喚するとは思えない、絶対に計画的な事のはずだ、だとすればまだ他に、幹部クラスの悪魔が複数いてもおかしくないはずなのに…
考えても仕方がないか、俺とエルナはノア様を先頭にして、螺旋階段を降りていった
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アレス達が目指して歩いているこの建物、その最深部には、3体の悪魔が潜んでいた
最深部はベッドや机が1つだけ置かれた、少し大きめの四角い部屋
そこに全身に法衣を纏ったお坊さんのような外見をした悪魔と、両手がルーズフィットに調整され、手首のみが締められたように施されて白い色をし、その他の面を真っ黒に塗料されたワンピースを着用した無表情な14歳くらいの外見をした少女のような悪魔と、全身黒いスーツ姿をした、スナイパーを片手に持った20代くらいの男性の姿をした悪魔の3体が潜んでいた
「ねぇ、亜人達が入ってきたみたいだよ、ソン様。とうとう気づかれたね」
少女がお坊さんのような悪魔に、アレス達が建物内に侵入した事を報告した
「そうだな、オリビア」
「どうするの?」
「ここにおびき寄せましょう、現れた所を確実に殺す…」
スーツを着た悪魔がオリビアに話した
「なんで?オリバーさん、あいつらをさっさと追い出さないの?ソン様ならそれができるよ、ねぇソン様」
オリビアがソンに確認する
「確かに、私ならそれは可能だろう…しかし、連絡の途絶えたバイアの行方、彼らなら知っているかもしれないだろう、だからここまで一度連れ込んでおく」
「どういう意味?それ。なんでアイツらがバイア君の居場所を知ってると思うの?もしかして、亜人に殺されたっていいたいの?」
オリビアは静かに、それでいて感情的にソンに問いただした
「落ち着いて下さいオリビアさん、念のための確認という意味ですよ」
オリバーが補足した
「そうなの?まぁ、バイア君が簡単にやられるわけないか」
(だけど、もし入ってきた亜人共がバイア君を殺したのなら、私が絶対仇、とるからね)
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悪魔は、亜人達の考える通り、確かに組織化されている
だけど完璧に統制が取れているわけじゃない
悪魔は数が少ないながらも世界各地に人間でいう集落のような形で生活していて、基本的に並の多い地域、幹部クラスが多く住まう地域とに、格付けされている
だけど、稀に手違いは起こる、私もその例の1つだった
私は、幹部クラスの能力があるにも関わらず、並の住む地域に生まれてしまった
初めは誰もその事に気づかずに、私も問題なく過ごせていたけど、段々みんな、私が他とは違うという事に気づき始めた
それがわかった途端、みんな手のひらを返したように、私を忌み嫌い始めた。両親でさえも
始めは、周りの大人が、私の友達に私は悪い悪魔なんだよと言いふらし始めた、始めは誰も信じていなかったけど、大人達が何度もそう言い聞かせ続ける内にみんな段々それを本気にし始めて、気がつけば私は友達がいなくなっていた
もう少し時が経つと、親から悪口や、殴られるのが当たり前のようになってきた、食べ物なんて楽に与えられる日も少なっていって、だったら自分で作ろうと思っても、何故かそれをさせてもらえなかった
だから最後の方は、食べ物は近くにいる小型のモンスターで済ます日も増えてきた
そんな日々がただただ重なって、何一つよくならないまま、私はとうとう集落を追い出された
最後に親が私にしてくれた事は、私の代わりにするために産んだ子どもを、それを私に説明して見せつけてきた事ぐらいだった
私は完全に1人になった
森の中でモンスターに紛れて生きる毎日
こうなって困ったのは、食べ物
住む場所はその日適当に決めた場所で眠ればよかったけど、食べ物だけはどうやって選べばいいのかが分からなかった
野生のモンスターを食べる事自体は、最後の方からしていたから抵抗はなかったけど、その時と今は違う
その時は食べられる食べ物を作ってくれる日も偶にはあった、だからそれをどこかで盾にして、ある程度安心した上で食べていた
けど今は違う、もうどんな食べ物でも作ってくれる事なんて絶対にない
そのプレッシャーが、食べ物の厳選を躊躇させた
とはいえある程度慣れてくると、厳選のコツが感覚で分かってはくるけど
でもそもそも、自給自足でモンスターを狩るの事態が大変だし、返り討ちにあって殺されかけた事も何度もある
だから時々この森に人間の子どもが迷い込んできた時は、嬉しかったな
何度も思った、なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないのか、これも全て、上の存在がいるからいけないんだと
幹部なんて、大嫌い。そんな誰にぶつけたらいいのかも分からない、底のない不満を、ただ募らせていった
そんな時、ソン様達が、私を訪ねてきてくれた
「やぁ、君がオリビアちゃんだね?」
優しく、私に話しかけてくれた
だけど当時の私は、幹部の事が本当に嫌いだった
「……帰って、あなた達幹部でしょ?幹部は嫌い…」
「ほう、それは何故かな?」
「オリビアは、幹部がいるからみんなにいじわるされた、オリビアが…幹部だから、…幹部なんてそもそもいなかったら、いじわるなんてされなかったはずなんだ………だから幹部なんて嫌い!!!大嫌い!!!!!!!!!!!!!!」
泣きながら、叫ぶように、私はソン様に怒鳴り上げた
だけどこんな生意気な私を、ソン様は優しく、包み込むようにこう言ってくれた
「そうかい、ではオリビアちゃんにとっての我々は、きっと、忌々しい敵のように見えてあるのだろう、あぁ、それで構わないさ。私たちは君に感謝されたくてここに来たんじゃない、私たちはただ、君の味方になりたかったからここにきたのじゃ」
ソン様はそう言いながら、ゆっくりと私に近づいてきた
「!!!くるな、くる…」
私が言い終わる前に、ソン様はそっと私を抱きしめた
「私の言葉を信じなくてもいい、ただこれだけ、お願いさせてくれ。私に、君を救わせてほしい」
不思議と、その言葉に嘘は感じられなかった
それどころか、包み込むような優しさが、その言葉からは感じられた、いや、私はその時、その優しさを受け止めたんだ、無意識に
気がつけば私は、泣いていた。いつぶりだろう、こんなのにも誰かからの愛情を感じとる事ができたのは
愛情に触れる事ができたのは…あまりにも素直に、でも当然のように、私はソン様の後を追っていた
私は、ソン様に一生着いていく決めた
そんな中、ある日オリバーさんが支配者からソン様への命令が記された手紙が送られてきた事を報告してきた
その命令の内容は、[プロジェクト・フェニックス]の達成の為、支配者の魔力をドラゴンに直接流し込むとどうなるのかを実験しろというものだった
支配者の魔力は、他の悪魔の魔力と濃度は同じだが、性質的には全く違うもの
それをソン様が読み終えると同時に、手紙から支配者の魔力が入れられた注射針が出てきた
ソン様は早速、小規模な国の近くという最も人目につかないこの場所に、アビリティで拠点を作り、続いてそこから少し離れた小さな洞窟に同じアビリティで檻を一瞬で作り上げた
そしてその檻の中に、予め専用の刻印を刻むしておいたロックドラゴンを檻の中に、これもソン様のアビリティで召喚し、口から支配者の魔力を流し込んだ
結果、ロックドラゴンは魔力を流し込まれた直後に凶暴化し、しかもそれと全く同じ魔力を、周囲に霧のように放出し始め、その魔力が川を通して森中に流れていった
「これは、この川はロックドラゴンを凶暴化させた魔力が染み込んでいくという事ですよね。では、この川の水を飲んだモンスターも同じく凶暴化するのかも、合わせて実験する必要がありそうですね」
オリバーさんがなにやらソン様と話しているのが聞こえた事があるけど、私にはよく分からなかった
だけど、しばらく時間が経っても、モンスターが凶暴化したという情報は入ってこなかったらしい
という事は、あの魔力はロックドラゴン以外には特に影響はなかったという事、実際余った魔力を直接他のモンスターに流し込んでも影響はなかったし…
ではこれにて、念の為もう少し時間を置いたら実験は終了と思っていた時______
事件が起きた
ロックドラゴンが、檻から脱走したらしい
ソン様に命じられて、バイア君が慌ててロックドラゴンを探しにいった
その翌日、凶暴化したモンスターが現れたという情報が入ってきた
実験としてはこれで終了したと言っていい、後はバイア君の帰りを待つだけ
そう思ってずっと待っているけど、未だにバイア君も、ロックドラゴンも帰ってこない
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1時間後、アレス達は建物の最下層までたどり着いた
だがそこには、ただ一枚の魔法陣が置かれてあるだけだった
「なにこれー?行き止まり?」
「いや、この魔法陣は、恐らくワープタイプの魔法陣だろう、触れたら特定の位置に移動できるやつだ。恐らくその先に、悪魔がいる…!」
ノア様は俺たちの気を引き締める為なのか、やや脅すような物言いでそう言った
「大丈夫ですよ、ノア様。いきましょう!」
アレスたちは3人とも魔法陣を踏み、この建物の最上階まで移動した
「……!!」
そこにいたのは、お坊さんのような格好をした坊主頭の男性と、ロリータ調のワンピースを着た少女の2人…いや、2体だった
こいつらから、とてつもない魔力を感じる
わかる、今目の前にいるのは…悪魔だ、それも2体とも幹部クラス
ソンが、アレス達に語りかける
「ほう、ようやく来おったか、亜人ども。尤も、せっかく来られて言うのもなんだが、お前達はもう帰る事はできないがな」
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