42話 国運天秤裁判第二審 1
裁判長が打ち鳴らすガベルが鳴り響き、第二審が始まった
相変わらず手足は椅子を介して鎖で拘束されて、裁判長が私を見下すような位置からこちらを見ている
どうにも気に入らない、私は何もしていないというのに
「では、被告人、改めて君が疑われている罪状を話してもらおうか」
裁判長が私に問いかけてきた
「私が、御国のスパイの容疑をかけられているからです」
「うむ、その通りだ、ではその真偽を問う裁判を始める。前回の第一審では被疑者の刑が確定したが、それに対し被疑者が控訴した為、その意思を尊重し開かれたものである。では検察官、被疑者の起訴理由の陳述をお願いする」
「はい」ネルガルが前に出た
また前回と同じようにネルガルの長ったらしい陳述が始まるようだ…
そう思っていたが、どうやら少し違うらしい
前回よりも明らかに私を本気で陥れてやろうという意志が、彼の切り込むような眼差しから感じ取れた、非常に嫌な予感がしてきた
「先ず、前回の第一審で判明した、被疑者の動向を纏めますと…被疑者は凶暴化事件と、ロックドラゴンが出現した日の同日に、自身の出身を話さないままに、ロックドラゴンを倒し我が国の英雄法を利用して戸籍の取得を求めてきた。これを不審に思った国王が被疑者を確保し、スパイ容疑で被疑者を前回の第一審にかけた…という事です。そして第一審にて、被疑者は凶暴化事件を引き起こしていたロックドラゴンの魔力と、同質のものに自身の魔力性質を変化させる事ができるという事、被疑者自身が無実である証拠と主張している、現在は滅亡した国家、シュメルン共和国の元首相、クレイム元総理が書いたというビザ…こちらが書かれた時期が、彼女の主張する時期と大きくズレていた事…」
「はいはーい、エルちゃんが暴きましたーーー」
ネルガルが話している所に、傍聴席からエルが無神経に立ち上がって割り込んできた、お前まだいんのかよ
「裁判中は、静かにして頂きたい」
裁判長がガベルを2回打ち付け、注意した
エルは「はーい」とかなり生意気めに返事して、席に再び座った、腹立つ。
ネルガルが再び陳述を始めた
「えー、更にロックドラゴンを召喚した疑いのある者が被疑者以外にいないという事、更に先日、被疑者が我が国に侵入する以前に根城にしていたと思われる魔力を帯びた不審な建物も発見された、これらの証拠から、私ネルガルは、被疑者をスパイであると、改めて主張する!」
ネルガルの陳述が終わった
内容事態は以前の裁判でも言いそうなものだったが、なんだろうか…以前よりも一つ一つの言葉に力が練り込まれているような気がしている
それにしても、今のネルガルの陳述
私がこの裁判に勝つには、今言われた事全てを覆す必要が最低条件になるでしょうね、だけど、たぶんそれだけじゃ勝てない
恐らく、奴らは国家絡みで私を陥れようとしている、思えば王の態度もなんか変だった気がするし
ただ無実を立証するだけじゃ駄目、国王達がそれを認めざるを得ないような状況にしないと
けど、ルキナさんならきっとやってくれる、普通に考えて無理ゲーかもしれないけど、ルキナさんならきっと
「被告人、間違ってはいないかね?」
「はい、問題ありません」
「では弁護人、弁論をお願いする」
「はい」
ルキナさんが一歩前へ出た、ようやくだ、今からきっと、ルキナさんが今度こそ私の無実を晴らしてくれる
私は今、それを疑ってなどいない
「先ず、先ほど検察官はロックドラゴンを召喚したのは被疑者だと主張しましたが……それは間違っております」
ルキナさんは切り込むようにそう言った、それを聞いて、傍聴席にいた半分以上の人がざわつき始めた
当然の反応だ、前提がひっくり返ったのだから
「そんなの嘘よ!証拠はあんのーーー???」
傍聴席から2度もちょっかいをかけるエル
「根拠はこれです」
エルを無視しながら、ルキナはいくつかの紙の資料と見覚えのあるカプセルを提示した
「前回の第一審にて、検察官が、被疑者と凶暴化の際の魔力は同質であるという事を証明する為に使用したこちらのカプセル…ですが、このカプセルに付着している魔力は、決して、被疑者が変化させた魔力ではありません、全く別の魔力です」
はっきりとそう言い切った、しかし、これだけだと「それがなんなのか見せてみろ」とネルガルが催促してきた
「それは…これです」ネルガルはとある端末を取り出し、その中にしまっていたバイアを取り出した
法廷中に、死んだ事で歯止めのなくなった悪魔の魔力の空気がが充満した
「こ…これは……………」
それと同時に、この場にいた全員がそれに目をやった
当然だ、ルキナの持ってきたそれは、紛れもなく悪魔なのだから
「ですが、それがなんだというんです?」
だがネルガルは動じず反論をする、しかし、ルキナはこれを簡単に払いのけてみせた
「はい、この悪魔の持つ魔力…即ち悪魔の魔力と、このカプセルに含まれている魔力が、完全に一致するのです」
ルキナさんはそういうと、バイアの身体になにやら注射のようなものを打ち込んだ
「これは特殊な注射針でして、魔力だけを吸い取る事ができます、今私はこれを使ってこの悪魔の魔力を吸い取りました。そしてこれで得た魔力を、このカプセルに垂らしこむ」
針の先から、魔力がカプセルに雫のように落ちていった
裁判長やネルガル、そして、エルも含めた全員が、一体どうなるのかと、その様子を見ていた
結果、魔力が付着した瞬間、カプセルがそれにすぐさま反応し、一瞬で、高さ7mの天井まで跳ね上がった
それを見ていた全員が、ただその様子をじっと見ていた
「お分かりいただけましたか?今の反応、明らかに被疑者の、悪魔に似た魔力を流した時よりも強く反応しておりました。それに魔力を流し込んだだけの反応で、5m以上反応するのは全く同質の魔力でしか起こり得ないという事は既に証明されております!よって、ロックドラゴンを召喚したのは被疑者ではない…この悪魔、いや先日発見された建物に住まう悪魔の仕業です!」
ルキナの鋭く決めやかな弁論が、ネルガルを突き刺した
でもこれ、前回の流れだとここから反撃されそうな雰囲気ですが…大丈夫な事を祈りましょう!評価・ブクマ、よろしくお願いします!