31話 グリフォン
私、アイラが地下牢へ囚われてから、もう何日が経っただろう
さっき看守から聞いた話によると、第二審もまた、すぐに開かれるとの事だった
はぁ〜、それまでにおじいちゃんや私の分身が、なにか私の無罪を証明する切り札が見つからないとまた負けるだけ
「無実の罪を課せられた悲劇の少女を、少しは哀れだと思わないんですかね〜」
看守達に聞こえるように大きな声で、わざとらしく愚痴をこぼしてみたが、見事なほどにそれが無視された
本当にムカつく連中だ
と、思っていたら、突然看守達の動きが止まった
「お待たせ〜」なんだろうと前を見てみたら、そこからなんとも浅はかな声が聞こえてきた
私の分身だ、看守達は分身が
「いっとくけどここまで見つからずにやって来るのクソだるいんだからね」
「はいはい、それで?何か手掛かりは見つかった?」
分身は少しだけ躊躇ってから答えた
「見つけたわよ、ただ…それが使えるかどうかはなんとも言えないわね」
どういう意味かと分身に聞いた
確かに、分身が上手くその証拠が機能すると言い切れなかったのも納得がいく答えを口にした
例え証拠を見つけられたとしても、私がそれを提示する事はできない、協力者の存在が必要不可欠になる
だけど、私に味方してくれているおじいちゃんが、国にどこまでの忠誠があるのかわからない以上、分身とはいえ牢屋を抜け出した事をバラすわけにはいかない
自分の意思で私に協力してくれているおじいちゃんだからこそ、それには警戒する必要がある
けどその協力者がアレス君っていうのは少し問題かもしれない
彼が思うように証拠を摘発してくれるかどうか…かけるしかないわね
分身が私の体に吸い込まれるように戻っていった
それに、檻だけじゃあ革新的な証拠にはならない、もっと決定的なものでないと…
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上空を飛び回っていて、攻撃を当てづらい飛行系のモンスター
だがこれに攻撃する方法は、ロックドラゴンとの戦いを経て一つだけ考えついている
ただ問題なのは、この策は超越光速を使うことが前提である事だ
だが、緩やかに疲弊しているこの状態を考えて、スキルが使えるのはと5回だろう
それ以上使うと身体に大きな負担がかかる、なるべく節約して確実に奴を仕留めたい
俺はグリフォンの様子に注意しながら、奴を倒すのに充分なはずの魔力を体内に溜め込み始めた
必要な魔力を溜め終えたと同時に、超越光速の勢いで雲を突き抜けるほどの高さ…グリフォンが飛んでいる位置よりも高い距離まで飛び跳ねた
俺が一瞬で自分より高く飛んだと気づいたのな、グリフォンは真っ直ぐ俺の方を見上げた
だがその程度の威嚇に意味はない、俺は空中でダークボールを50発作り出し、地上へと落下してゆく中、ダークボールをグリフォンへ向けて打ち続けた
何発もダークボールを喰らい続け、グリフォンは反撃に出ようと俺へ突進してくるが、構わずに絶え間なく攻撃を繰り返したことで奴も攻撃の手を押さえ、ただ受け身を取る事しかできなくなった
落下によって、アレスも徐々に地上へ近づいていき、グリフォンよりも低い位置まで到達したが、関係ないかのごとく攻撃の手を一切緩めず、グリフォンを一方的に攻撃し続けた
そして、50発全て打ち終えると同時に、アレスは地上に着地した
アレスはすぐにグリフォンの様子を確認したが、ダークボールの余波で出来た煙により、すぐには状況を確認できなかった
「やったか?おっと、これはフラグか」
煙が晴れ、グリフォンの姿が顕になった
案の定、全体的にすり傷が広がっていたが、問題なく俺を睨みながら翼を羽ばたかせていた
今ので倒せないのか…どうする?飛行型のモンスターを確実に倒せそうなのは今の方法しかない
どうする?何か方法はあるのだろうか、これまでの戦闘経験を組み合わせるように繋ぎ合わせてみる
そうすればなにか新しい案が思い浮かぶはずだから
だけど、いくら考えても、有益なものは何一つとして思い浮かばなかった
なにかないのか?方法は…唯一考えられたのは、奴の急所を貫く事、全てのモンスターに共通して存在する急所…頚を斬る事!
だが確実に頚を斬れる術なんて俺は持っていない、それができるなら最初にやっている
俺への怒りか、かつてないスピードで急降下して来ているグリフォンを見て、決意が湧いた
「……やるか」
俺はこの突進を左に横揺れて、右腕に僅かな傷を負ったがかわした
グリフォンが再び上空へ飛び上がっていく、俺はその様子をしっかりと観察し、上昇が落ち着いたと同時に超越光速を使い、グリフォンの背中に移動した
ク
ラッ
その瞬間、目眩が突然と襲ってきた
超越光速が原因だ、俺は気にする事なく端末から剣を取り出しながらグリフォンの背中を駆け抜け、頚へと向かった
その勢いのまま、俺は奴の頚に剣を突き刺した
だが………硬かった!!!
頚の周りに広がる肉が鎧のように剣を遮っている、貫けられない…
その上、中途半端に剣を突き刺した事でグリフォンが血眼になって俺を背中から振り下ろそうとするようになり、俺は自分で突き刺した剣にしがみつきどうにか振り下ろされないようしばらく粘っていたが、グリフォンが体の旋回を交えた反撃に押し破られ、とうとう上空に吹っ飛ばされた
摂理であるように、地上への落下が始まってゆく
このままなにもしなければ、地面へと叩きつけられるだろう
けど、まだ間に合う…まだギリギリ俺の真下をグリフォンが飛んでいる、今一瞬だけ超越光速を使えば奴の背中に戻る事ができる、剣も頚に突き刺さったままだ、今降りられればまだ勝機はある
少しでもずれたら終わりだ、正確に超越光速を使って落下する
ガシッ
超越光速を発動し、奴の脚をなんとか掴む事が出来た
だがグリフォンもそれにすぐ気がついて再び振り下ろそうとしてきた
俺は再び振り落とされかけながらもどうにか背中によじ登る事に成功し、この勢いのまま頚に突き刺さっている剣まで飛び込もうとした
だがその瞬間に重い頭痛がした
これも…超越光速の代償だ、だかまだやれる
ここで終わらせられればまだやれる、ここでやる!
俺は突き刺さっている剣まで勢いよく突っ込み、剣を掴んで全力で押し込んだ
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
俺は一切力を緩める事なく剣で奴の頚を突き刺した先にある脊髄へ剣を目指させた
しかしグリフォンももう一度俺を振り下ろそうと空中を激しく旋回し出した
それでも俺はなにも起きていないかの幼稚剣を脊髄へ突き刺し続けた
その行動が、彼のある衝動を加速させていった
「……………は、ハハハハハハ、中々暴れ回んじゃねぇかー!?グリフォン!!!」
アレスは一瞬狂気とも思える笑みを浮かべた
この戦いを経て、アレスにはだんだんと快楽心が生まれていった
アレスは腕に可能な限りの魔力を込め、更に強い力で剣を突き刺した
「グリフォン、俺がさっさと、殺してやっから…俺が殺しなよーーー」
そして遂に、アレスの剣がグリフォンの脊髄を貫き、その瞬間グリフォンが心臓が止まった
「ついでだ!」
アレスが剣を引き抜いて多量に出血させた後、味付けをするようにわざわざ右翼を切り裂き、グリフォンを地上に落下させた
俺はそれと同時に一気に疲れが込み上げてきて、腑抜けた声を発しながらその場で倒れついた
アレスには戦士として生きていく中で、一つだけ幸せを感瞬間がある
それは倒すのに苦戦したモンスターを、その手で倒す瞬間である
俺は疲れてその場に寝転がった
これでこの任務も終わり、疑いようもないくらいにそう確信して、街に戻ろうとしたその時だった
一瞬、俺の真上で、木から木へ飛び移るなにかが現れた
俺はそれをみた瞬間、まるで操られたように、いつの間にか、その存在を追っていた
なんだ?この感じは、まるで本能的にあれを消したいと願うような感覚…まさか、あれは……悪魔、なのか?
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