29話 アレス〜奪われた過去〜
俺は戦士養成学校を卒業し、念願だった戦士となる事ができた
ここで夢を叶えてやる。初めは、馬鹿のように、自分たちの運命を知らない蝶のように、そう、作られた花畑で舞い上がっていた
戦士は普通、初めての任務に向かうようになる前は、先輩の戦士からこの職業について色々と聞かされる
けどそれが直接的なものではない、俺はその説明の内容と、周りであれこれと働いていた他の戦士の様子を見て、垣間見えたもの…
それに、俺の心は、少しずつ、毒のように侵されていった
任務内容は必ず忠実に遂行する事、基本的にセンターの最初の指示は絶対とする事、戦士全体の規律を重んじ、定められたマナーや規則には必ず従うこと…といったような事が説明された
確かに、言っていることは理解できるし、理にかなった事を発言であるのもわかる
だが、先輩達の言葉には、よくよく聞いていると、いくつか不気味に思える部分があった
言葉のどこを切り取っても、秩序を乱すな、規律を保て、全一であれ、全ての発言の裏にその意志が込められている気がしてならなかった
違う…だろ…?これは….本気なのか?
先輩個人が暴走しているだけではないのか?
この世に1人として同じ人間はいない、だからその違いを尊重し合い、多様に手をとり合う
それは紛れもなく綺麗事だ
だが、綺麗事は理想がなければ語られすらしないものだ
その理想を真空に描き、志すのが社会のあるべき姿だと、俺はずっと信じていた
そうでなければ、あの時俺が救われたのが、全くの無駄になってしまうから
そうであるはずだと、盲信したかった
だけど、それを信じ続けるには、あまりにも周りの人間の都合が悪かった
何故この先輩は、まるで戦士がそれぞれ持つ適正を無視し、縛りつけるように、掟の中で掌握させるのが適当であり、それが当然の事のように話を進めているのか
理解…したくなかった
そんな疑念を抱えつつも、俺は戦士としての初めて任務が始まる事になった
初めての任務としてはかなり良い成績だったようで、才能があると始めのうちはよく言われた
俺のスキルが超越光速だと気づいたのもこの初めての任務での事だ
俺が新米の戦士としては優れている。そう言われた事は、本来ならなによりも嬉しいはずなんだ
なのに、先輩からの説明を受けたあの日から抱え始めた纏わり付くような嫌悪感を、俺はずっと払えずにいた
秩序とは、それほど大切なものなのか?
統制とは、それほど必要なものなのか?
何故周りの人間達は皆、異質な存在を認めようとはしないんだ?
なぜ、自分と違う存在を受け入れられないんだ?
俺が信じてやまなかった希望は、全て間違っていたのか?
だんだんわからなくなってきた。なにが正しくて、なにが間違っているのか
間違っているのは俺なのか、こう考える事が間違っているのか
受け入れるしかないのだろうか、だけどそれは、俺は…
そんな時、任務先で偶然知ってしまった
5年前、ナスカン王国に住む最後のエルフの一族である少年が、一族の復興を掲げて戦士になったにも関わらず、他の戦士と比べてあまり任務の機会を与えられず、収益が見込めなくなり、他の職業と掛け持ちしようにも何故か楽な仕事に就か事ができず、中途半端な掛け持ちをしたせいで戦士業も更に覚束なくなり、結果として失業。失踪を装って森の中で樹勢するモンスターのような生活をせざるを得なくなったエルフの少年に、偶然出会った
そんな話は全く知らなかった、王国最後のエルフが失踪したというのは聞いた事があったけど
だけど俺は確信した
希望なんて、ないと思った
どれだけ時代が移ろいでも、結局なにも変わらない、変わろうとしないから変えられない
異なる者を認めず、全員が同性となるまで淘汰する
そんな古い風習が、それが正義であるかのようにこびりついている
一般とは異なる者を認めない、認めるのが怖いから。
そんな自己満足で、何人もの人が言葉を失っていく
当人の気持ちなど考えはしない
そしてこれは、恐らく永遠に曲がらない事なのだろうなと、俺は確かに断言できた
だからあの日、期待するのをやめたんだ
世界は永遠に変わらない、あの日希望を抱けた、優しい世界なんて、本当の意味で存在しない
だから………
妹も戦士になった
妹は戦士として、俺を遥かに上回る才能を有し、あっという間に俺を追い越してしまった
戦士として生きる目的の一つを失った、残ったのは、父と母への復讐心ともとれる心だけだ
だけど、諦めるのも嫌だから
散りゆくのも嫌だから
だから俺は、今日も全てを否定して生き続ける
全てを否定して…
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俺は目を覚ました
アイラが見つけた檻の跡が真後ろに聳え立つ
けどこれもどうせ意味はない
不都合なものとして、無かったことにされるだけだから