26話 破壊された牢屋跡
「これは……」
大広間くらいの大きさの洞窟に遺されたように、中央に穴が空いたような鉄格子が置かれていた
鉄格子の横幅はかなり広く、縦にも洞窟の天井に届くほどに巨大な作りとなっていた
「鉄格子の跡…かしら?この感じだと誰かに破壊されたのかな?」
「一応言っておくけど、こんなのは前はなかったぞ」
「でしょうね」
よく見ると、鉄格子の一部に鈍器かなにかで何度も強く打ち付けられたかのように、表面が所々歪んでおり、更に僅かだが血痕のようなものまで付着されていた
そして檻の破片が地面に落ちずに浮かんでいるという事は、なんらかのアビリティかスキルがこの鉄格子に使用されているという事だろう
そしてこれが鉄格子なら、必然的に檻という事になるが…
檻という事はここに誰かを閉じ込めていた…のだとすれば、そいつによって破壊されたのだろうか
ではこの檻は一体誰が?いつ?どうやって?なんのために作ったのか…思考を巡らすアレスだったが、この檻の存在そのものの衝撃に脳が圧迫されていたという事もあり、満足のいく結論が思い浮かばずにいた
だがアイラは冷静に、事細かくこの檻を観察していた
鈍器かそれに匹敵する威力で破壊されたと考えられる鉄格子、閉じ込めるのにアビリティかスキルを使うほどの相手、人が壊したにしては妙に巨大な、穴の空いたような檻の跡…
これらの事実からアイラが推測した事…は
「ロックドラゴン…?」
アイラが零したように口にした、俺はそれを必死に聞き返す
「今なんて言った!?」
「…考えられない?」
アイラは鉄格子の跡を指差しながらそう言った
「檻を作る目的なんて、何かを閉じ込める以外普通あり得ない、だとすれば、それはこの大きさの檻を作らないといけないほどに巨大な者という事になる、まず人じゃない」
「けどそれがどうしてロックドラゴンだと言い切れるるんだよ」
ロックドラゴンであると断言できる理由がよく分からなかったから聞いてみた、だけど実際は、ロックドラゴンと聞いて一筋の希望が沸き、それを確かめたかっただけだ
「人じゃないとすればモンスター以外あり得ないわけだけど、魔力を使った檻を使っても閉じ込められないモンスターなんて、相当限られてくるわけじゃない。要所要所に血痕があるって事は閉じ込められてたモンスターが檻を壊す時についたものと考えるのが妥当でしょ?けど、この檻の存在に王国は気づいてないのよね?国の目を誤魔化す大掛かりな事をしてまで檻の中に閉じ込めるようなモンスター…なら、現状ロックドラゴンしか考えられないでしょ」
悠々と説明してきた、確かに、理にはかなっている、少しだけ、心底安堵をした
「まぁこの血痕を調べれば、ロックドラゴンかどうかなんてすぐにわかると思うけど」
「けど、なんのためにロックドラゴンを…」
俺が言い終わる前にアイラは言葉を綴った
「あのロックドラゴン、何者かに召喚されてこの森に現れたって事がもう確定してるんだけど、召喚した本人になってみたとしなさい、ロックドラゴンを召喚できたとして、ロックドラゴンが大人しくしていると思う?普通暴れるわよね?だから召喚したと同時にロックドラゴンの動きを封じておく必要があるわけなのね、つまり犯人はロックドラゴンをこの檻の中に召喚したのよ、そうすればロックドラゴンが暴れても問題ないし、この檻が作られた理由もわかるでしょ?」
それを聞いて、俺ははっと納得した
言われてみれば確かに、筋は通っている、だがそれだと1点だけ疑問点が残る事になる
「じゃあ、そもそもなんでロックドラゴンを召喚させたんだよ」
「モンスターを凶暴化させるためじゃないかな」
あっさりと、アイラはそう答えた
「ねぇ、ここは何処?川の上流、つまりここから、森全体に水が流れていくことになる。あのロックドラゴン、魔力の吐息みたいなの使ってきてたでしょ?普通の個体はあんな攻撃してこないんだけど…それはそれとして、あの吐息で放出される魔力は、凶暴化したモンスターが特有に持っている魔力とほとんど同じみたいなの、つまり凶暴化したモンスターは皆あれを直接か間接的に受けて凶暴化していたという事になる。そして、ここは川の上流。ここから森全体に、モンスターには飲める水が流れていく、檻の中で閉じ込めているロックドラゴンに、その場であの魔力を放出させて、それを川に流したとしたらどうなると思う?実際、この川にはかなり強力な魔力が含まれてる、さっき貴方があぁなったのもたぶんそれが原因、下流に沿って魔力は森全体に流れていき、その川の水を飲んだモンスターは間接的に吐息を浴びて、凶暴化する…どう?可能性のある話じゃない?」
今まで聞いた話では、一番まともで、確かに一番俺に都合のいい話しに聞こえた
けれども何故だか、話が都合よくなればなるほど、俺はそれを否定しようと矛盾点を探そうとした
否定しても否定しても矛盾点が見つからなくて、心から安心するために心へ止めを刺したかった
「け、けど誰が誰にも気づかれずにこんな檻を、それにそもそもなんのためにあのロックドラゴンはモンスターを凶暴化できるんだ」
「それを調べるのは貴方達の役目よ、じゃあ、これ見つけれたなら満足だから、後は頼んだわよ」
そう言ってアイラは洞窟の出口の方向へ歩き出した
「いやちょっと待て、何処へいく!?」
「これを報告するのは貴方の役目でしょ、私が言うわけにはいかないじゃない、分身とはいえ牢屋抜け出したのバレたら終わりだし」
「そうだけど…まさかあんた、自分を弁明する証拠を見つけるためにわざわざ分身を向かわせたのか?」
「そうよ、当たり前じゃない、最初は下手に動くのはまずいかな〜と思ったけど、一審で負けて、このままだとなにしても私負けるだろうなってわかったから、じゃあやるしかないでしょ!」
アイラの発言には一つ一つ一切の躊躇いがなく、自分で決めた判断に一切の迷いがないように聞こえた
……凄いなと、心から思った
「じゃ、この事伝えてね〜」
アイラはそう言いながら手を振って、洞窟から出て行った
「あ、そういえばアレス君」
かと思えば突然立ち止まって、俺にある言葉を言い残した
「あんまり悲観になりすぎても、良い事起きないわよ。一回だけ開き直ってみたら」
そう言った直後に、アイラの姿は水が地面に落ちるように崩れて消えていった
恐らくこの川に流れされ、どこかで着地してこっそり本体の元へ帰るつもりなのだろう
……証拠…か、確かにこの檻の跡は、アイラを無罪と主張する証拠になるだろう
少なくとも、普通の裁判ならばかなり有効なものかもしれない
けど、あれは国運天秤裁判だ、ナスカンが国を掲げて行なっている裁判
過去、国運天秤裁判において、最初にナスカンが主張した意見が覆された事は、一度もない
ナスカンが保身のため、権威のため、事実など考慮せずただ疑わしき者を定められたシナリオのように処刑するだけの、茶番劇…それが国運天秤裁判だ
なら、こんな証拠を見つけたところで、なにか意味はあるのか?いやない、なにをしたところで、結末は初めから決められている
国が決めた意見が覆されるのをどこかで期待していたが、それもいい加減にやめた方がいい
「はぁぁぁぁぁ」
不意に、大きなため息を吐いた
流石に疲れたな、さっき寝そびれた分、丁度いい、ここでひと眠りしよう
全て無意味なら、ただ目を瞑って、眠って、夢を見る。それが一番だ
何故これほどアレスはナスカン王国に懐疑的なのか、それは次回明かされます…!評価・ブクマ、よろしくお願いします!