23話 不在の証拠
「アレスさん、次の任務です」
ギルベルトから、本日2度目の任務が言い渡された
まったく、今日は何回任務を言い渡されるのやら
一番多かった日は5回だったな…今日は計何回になるのか
とはいえ、説明されたのを聞いた限り、任務の内容自体は比較的楽そうだ
任務は凶暴化したゴブリンの群れを全滅させる事、そして、その内の何体かを研究や素材のため捕獲するというものだった
捕獲といっても、生きたままの捕獲は望まれていない、俺にはそんな事ができる知識も技術もないけどな
ノア様は先日凶暴化したゴルファングを生きたまま捕獲していたみたいだが、あれはノア様だから出来た芸当だ
普通なら絶対できない
だからいつも通り、狩り終えたモンスターを端末に収納して、捕獲する。凶暴化したモンスターといえど、やはり何体かは国の資源にしないといけないらしい
要するに、いつも通りモンスターを狩るだけだ
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アイラの敗訴、その事実が国民中に知れ渡り、国民達の意見の二極化が更に加速する一途を辿っていた
ある男性3人が、別のある1人の男性を人気のない場所に追い詰めて、その人を背中から蹴り飛ばした
「聞けよこいつ、アイラをナスカンの英雄だと思ってるらしいぜwww」
「マジかw馬鹿だろこいつww」
「いや、こいつもスパイの一味なのかもしれねぇぞw」
「だなwww」
3人は蹴飛ばされてみぐるまった男性の背中を一方的に蹴り始めた
「や…め…」
アイラをスパイだと主張する人の数は国民の半数以上を占めており、逆に英雄だと主張する人物を批判し、迫害するようになっていった
対して英雄だと主張する人の一部は、門番の静止を張り切って宮殿の前に立ち塞がっていた
「アイラ様は英雄ーーー!(アイラ様は英雄ーーー)裁判の中止ーーーー!(裁判の中止ーーーー)」
彼らはアイラ様を一審で敗訴させたのは、他所から来た者を英雄と認められない時代遅れの王が犯した愚策として、抗議デモを行い、それに呼応するように暴力事件が各地でいくつか発生していた
その様子をプライム国王とミニッツ大臣は、嘆かわしむようにそれを見つめていた
「やはり…こうなったか…」
「はい…恐れていた事態が起こりましたね…」
「無理もないな…戦士の士気を高めて我が国の軍事力を高めるのと、昨今の人権への配慮から7年前に導入したこの英雄法…だが当然それを受け入れられない者もいるだろう…変わりゆくものに適応するのは、難しいものだ。それに、受け入れられたとしても、結果として半端な政策となってしまっている私たちに不満が募るのもまた、自然の摂理だ…」
プライムは自身の無力さを呪うように、1人、強く拳を握りしめた
「……国王、もしアイラをスパイに出来たとしても、国民からの相当の反乱が考えられます、如何お考えでしょうか」
大臣の言葉に被さるように、プライムは語った
「わかっている…正直なところ、アイラがスパイかどうかなど、本当の意味では疑っていない。だが、あれをこの国に置くのは…リスクが高すぎる、ロックドラゴンを容易く葬り去るほどの力を持つ彼女は、確かに我が国にとって貴重な戦力になるだろう…だが、もし彼女がそれを拒んだ場合はどうか…軍事契約国である我が国にとって、軍事力の損失は避けなければならない、だが彼女がその気になれば、こんな小国など簡単に滅ぼせるだろう、もし彼女を我が国の戦力にする必要がなくなったとしても、我が国は常に彼女1人に滅ぼされるリスクを背負いながら存在する事になる…そのような状況だけは、王として絶対に防がなければならない。だから、なんとしてでも…アイラを必ず死刑とする!」
プライムが見つめるのは、王国の未来。その眼は間違いなく、国家を守るという責務をもつ、1人の国王そのものだった
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おじいちゃんが再び、私、アイラへ面会に来た
看守の2人に見張られながらも、第二審で勝つための計画を建てる
「うん?君、魔力が少し減ったか?」
「え?いえ、気のせいですよー」
驚いた、まさか気付かれるとは、やはり只者じゃない
誤魔化したはいいが、声が明らかに上の空になってしまった
「まぁよい、君に一つ聞いてもらいたい事がある、君が持っていたあのビザ、もといクレイム元総理の筆跡。更に詳しく調べてみたが、やはり別の筆跡は見つからなかった。かつて外交していた国の首長の筆跡ならば1つくらいはあると思ったのだが…まるで筆跡の方が私から逃げているようだ」
逃げている…か、やはり筆跡は見つからないのね
でも確かに、首長の筆跡が1つも残っていないだなんておかしいわよね
それに裁判の時に感じたあの違和感…これを繋ぎ合わせれば、考えられるのは…
「ノアさん、これは可能性の話しなのですが…」
「ん?どうした」
一瞬話すか躊躇ったが、勝訴のためなら多少の犠牲のリスクは仕方がないと、心で改めて意を決した
「多分、王国は、スパイかどうかなんて考えなしに、私を始末しようと考えてます、私の力を…恐れて、いるからでしょうか…」
「…あぁ、それは私も考えた、だからこそ私は、君の味方をしようと決断出来たのだ」
「!!!」
それを聞いて、私はこの人が味方であると再認識した
この人は王国最強の戦士で、国からの待遇も相当上質だということは、この獄中での面会だけでも読みとれる
そうでなければ、そもそもこの面会事態あり得ないものだ
国への忠誠も間違いなくあるのだろう、事実、彼ほどのの権力があるのなら、私の死刑に疑問を持った時点で王へ直談判することくらいなら出来ただろう
けど、そうはしなかった、その上でこの人は、私の味方でいてくれている
なんの打算も策略もない。ただ善意で、自分がそうだと思うから、私の死刑が間違っていると思うから、高待遇を与えてくれている国へも反論している
この人は、心から私の味方でいてくれているんだ。
そうとわかった瞬間、ふと私は、この人の顔を見つめた、その時私は確かに…心から、安心できた
「…もしかしたら、どこかに隠されているのかもしれません、絶対に見つからないような場所に…クレイム総理の筆跡が」
これが、私の思いつく精一杯、だけどおじいちゃんは、なにかそれに心当たりがあるのか、僅かに微笑んで、私にこう言った
「ありがとう、必ず見つけてみせよう、君の無実を証明する、筆跡を」
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凶暴化したゴブリン9体、余裕だったな
その内5体の死体を端末に収納した、任務は達成だ
しかし、楽とはいえ疲れた事には疲れた
この辺りは前にも任務で来た事がある、確か正面にある林を少し超えた先に広びろとした場所があったはずだ
そこで10分ほど寝よう、周囲にダークボールを張っておけばモンスターにも襲われないだろう
俺は小さな林を抜け、草の広間に辿りついた
周りにダークボールをはって休もうとしたその時、俺はあり得ない物をみた
地下牢に閉じ込められているアイラが、俺の瞳に映ったのだ