20話 国運天秤裁判 2
「こちらには証拠があります!被疑者がロックドラゴンを召喚可能だという、証拠をね」
ネルガルは手元から私を貶める証拠とやらを取り出し、それをこの場にいる全員に示しつけた
それは、複数の研究資料、遠目からでも私にはわかる、あれは私の魔力について調べた資料だ
地下牢に閉じ込められていた時、私の尋問に来たのは、おじいちゃんやルキナさんだけじゃない、検察官であるネルガルも私の尋問に何度か訪れ、その度に私の体の何かを調べていた
あれがその結果をまとめた資料だとすれば、それにうっすらと魔力という文字が見えるという事は…あれは私の魔力について調べられていたという事になる、もしそうだとすれば、少し、いや…かなりまずいかもしれない…
「こちらは、被疑者が本当にロックドラゴンを召喚したのか、それを確かめるため、被疑者の魔力について調べたものをを纏めた資料です!これによると、確かに被疑者の魔力と、ロックドラゴンの脳に付着していた魔力とは、一致しておりませんでした」
ネルガルは手に持つ資料を小続きに軽く叩きながら、監視するように私を見つめた
「しかし!更に詳しく調べたところ、ある事実がわかりました。それは…被疑者は自身の魔力を、意図的に変化させる事ができるという事です!!!」
その力強い陳述に、おじいちゃんも含めた傍観者達は皆、ネルガルに目と耳を傾けた
ネルガルは続けざまに、資料を片手に陳述を叩き込む
「傍観者の方の中に、被疑者がロックドラゴンと戦闘していたのを目撃した方もいる事でしょう、思い出してみてください!目撃証言によると、被疑者はロックドラゴンの魔力の吐息を、バリアのようなもので防いでいたといいます!あれは[エアズシールド]というアビリティで、相手が魔力を介して行った攻撃を物理的に拒絶する魔力を作り出し、攻撃を防ぐアビリティ…しかし!これは魔力を消費して作った盾の魔力を後から変化させて初めて成り立つアビリティであり、これを応用すれば自身の持つ魔力の性質を変化させ、その状態のままロックドラゴンを召喚するアビリティを使用する事は…可能です」
はっきりと断言するネルガル、それを軽々と受け入れ、流されるまま疑いの目を私に向ける傍観者達
状況が一気に悪くなった、垂れ流れる汗が緊張感を刺激する
ここでなにか大きな反論をしてくれないと勝てない、ロックドラゴン召喚が可能か否かはこの裁判において最も重要な争点、ここを踏み外しては絶対にならないと、私は危機感と覚悟を奮い立たせる
「ですが!エアズシールドでもあらゆる魔力に変化させられるわけではありません!ロックドラゴンの脳に付着している魔力と同質の魔力を、被疑者は作り出せるというのですか!?」
ルキナさんが即座に弁論を放ってくれた、けどあれじゃ弱い…確実な反論とは言えない
「もちろん!既にその証拠となる記録はここにあります」
その資料と、それとは別の、円形のカプセルを持ち上げながら、ネルガルは突如立ち上がって法廷を真っ直ぐ歩いていき、私の目の前にそっとそのカプセルを置いて定位置に戻っていった
「そのカプセルの中には、ロックドラゴンの脳に付着している魔力が含まれております。そして皆さんご存知の通り、魔力は同質の魔力に反応します」
傍観者達がざわざわとネルガルのやろうとしている事に盛り上がっているところに、ネルガルは大きく両手を広げ、この場にいる全員に向けて放った
「今この場でそれを見せていただきましょう!!被疑者自ら!!自身がカプセルに含まれているのと同じ魔力を作り出す事が出来ると!!今この場で!!!」
ルキナさんに弁論の余地を一切与えない、隙のない発言。
いつの間にか、私は後がないほどに追い詰められていた、ルキナさんも言葉に詰まっている様子だった
だけどここで嘘をつくと、後々更に不利になる事は、説明されなくてもなんとなく体で理解していた
裁判とはそう言うものだ、発言の一つ一つが武器にも命取りにもなる….だから、嘘だけは絶対に吐いてはいけない
私はルキナさんを信じて、素直に従う事にした
「分かりました、今から可能な限り、この中に含まれる魔力に近い性質に魔力を変化させてそれを魅せます、全ての魔力を使って」
合図の代わりにそう言った後、私はカプセルの中に感じる魔力に限りなく近い性質に変化させた魔力を、この場の全員に、披露するように引き出してみせた
私の魔力の圧力に耐えかねているのか、法廷中がみしみしと音を立て、全員が手元で顔を隠して吹き飛ばされるのを防いでいた
1人の例外なく驚き、そして恐怖しているように見えた、そして私の目の前のカプセルは、私のこの魔力に反応し、ゆっくりと宙に浮かび上がった
魔力同士が、反応しているのだ
私はそれを全員が確認したのを見た後、魔力の放出をやめた
「………ご、ご覧いただけたでしょうか!!!今!確かにカプセルは反応していた!そうです!今の魔力は、ロックドラゴンの脳に付着している魔力と、98%一致したのです!!!」
ネルガルは証拠となる資料を勢いよく机に叩きつけた
「つまり!被疑者はロックドラゴンを召喚可能であるという事であります!!!」
ネルガルの主張が、法廷中に木霊する、傍観者達は皆ネルガルの主張に耳を傾けて、裁判長も一瞬だけ、ネルガルの方を見たのを見逃さなかった
非常に…まずい、首の皮一枚、残っているのは本当にこれだけ、けどこのままだと、それすらも剥がされかねない
それほどまでに追い詰められている…
けどなに?この違和感は、まるで、初めからこうなるシナリオが決定されていたかのような…この変な違和感は
「そして更なる証拠も掴んでおります、被疑者がスパイであるという更なる証拠が」
皆が目と耳をネルガルへ集中させる、陳述のナイフが、私の首筋へと、一刻と迫ってきていた