19話 国運天秤裁判 1
「これより!国運天秤裁判を開始する!!!」
裁判長が叩くガベルの音が、法廷中にこだまする
私の処遇を決める国運天秤裁判が開始された
中央には両手足を拘束された状態でアイラが座らされていて、それを囲むように左にアイラの担当弁護士であるルキナ、右には検察官であるネルガルという男がそれぞれ座っていて、更にその左右の上には、真横からアイラを監視するように大量の傍聴者が座っていて、その中にはノアの姿もあった
そしてアイラの正面には、裁判長が居座るように見下ろしている
「先ず被告人、君が何故このような状況になっているか、わかっているな」
裁判長が威圧するように尋ねてきた、こういう単純な質問には、基本的に素直に答えた方がいいらしい
「私が、御国のスパイの容疑をかけられているからです…」
「うむ、その通りだ…だが、同時にそれは全くの誤解で、それどころか君はロックドラゴンから国家を救った英雄である可能性も排除出来ない…これは、君がスパイなのか、英雄なのか、それを決定する裁判であると理解しているかね」
「………はい、重々理解しております」
「うむ、では検察官、彼女の具体的な容疑を話していただきたい」
「はい」よく聞こえる声でそう言って検察官のネルガルは前に出た
「先程裁判長がおっしゃっていた通り、やはり彼女はスパイであると主張します。彼女が我が国の南門に現れ、呑気にも我が国の入国を許可してくれと懇願してきた同日、何が起きたか覚えておりますか!?そう、発覚から6日が経過した現在でも解決できていない凶暴化現象が初めて確認された日、更にこの裁判の争点の1つでもあるロックドラゴンの出現、この2つの出来事が同時に起きた日、これは本当に偶然なのでしょうか?これらは全て、彼女が一連の騒動を解決し、我が国の英雄となって、国籍を得るための彼女のシナリオだったのではないですか?何故かって?英雄となった事で我が国の政界に深く干渉し、機密情報を他国に流出させるためです!被疑者はかつて存在した国家、シュメルン共和国の首長から直接ビザを貰ったと供述しておりますが、それも、現実的に考えてほぼあり得ませんよね?」
ネルガルのだらだらと長い陳述が終わった、よくそんなにも長い絵空事が思いつくものね、感心してしまうほどに
「なるほど…被告人、なにか意見はあるかね」
「ええ!山ほどありますね!そもそも検察官の述べた話は全て状況証拠であり、私がスパイであるという確固たる証明にはなりません!よって、憶測の域をでません」
完璧に論破したつもりだったが、その直後にネルガルから、今一番言われてほしくない、まさに図星といえる一言を突き刺された
「ですがそれは、あなたがスパイではないと言っているのも同じ事でしょう」
このひと言に傍聴者達も共感したのか、その大半がブーブーと豚のように野次を飛ばしてきた
その時、裁判長がガベルを2回強く打ちつけた後「静粛に」と発した
その、静かでぶ厚い一言に、傍観者達全員を黙りこむ
「裁判中は静かにしていただきたい、次に弁護人、弁論はあるかね」
「はい」ルキナさんが勇ましく前に出た
「先程被疑者の申していた通り、検察官の述べた事は、全て状況証拠であり、確信性を欠いていると論せざるを得ません。それに、こちらには、被疑者の無罪を証明する証拠がございます!」
そう言って、ルキナさんはゴルファングの研究資料とロックドラゴンの研究資料、そして、凶暴化したモンスターの研究資料をいくつかネルガルに見せつけた
「こちらは、先日ノア様が生け捕りにしたゴルファングの研究資料です。この資料によると、このゴルファングは間違いなく凶暴化している事が分かるのですが、このゴルファングの持つ魔力…即ち凶暴化したモンスターの持つ魔力は、通常持つ魔力に加えて、明らかに別種のモンスターの魔力が、侵食するような形で体内に存在している事がわかったのです!そしてその魔力は…ロックドラゴンの魔力と酷似していたのです!!!」
まだ公開されていないこの情報を聞き、騒然とする傍観者たち、ルキナさんは一切構う事なく、弁論を続ける
「しかし、これだけでは偶然だと思うかもしれません、しかし、この魔力と更に酷似しているもの…いえ、ほぼ同一と言えるものが1つあるのです!それは…街を襲撃したというロックドラゴン、あのロックドラゴンが使用したという、魔力の吐息…あの吐息に含まれる魔力と、この凶暴化したゴルファングに含まれる魔力が、ほぼ完全に一致したのです!つまり、このゴルファンを始め、全ての凶暴化したモンスターはあのロックドラゴンの吐息による攻撃、又はそれに準ずる物を受けて、凶暴化したものだと考えられます!実際に攻撃を受けた戦士達も、受けた瞬間闘争心が高まったとの供述もありますしね、モンスターの凶暴化の原因はロックドラゴン…では、このロックドラゴンはどこから来たのか…存じている通り、この国にロックドラゴンは生息しておりません、再度調査隊が作られましたが、やはり生息されていないという結論に辿りつきました。となると、やはり、このロックドラゴンは何者かに召喚されたという事になります、それが何者なのかが、今回の裁判の争点でもありますしね…しかし、それが被疑者ではないとは、はっきりと断言できます!!!他者に召喚されたモンスターは、脳にその者の魔力が僅かに残留しているのですが…あのロックドラゴンの脳には、被疑者の者とは全く別の魔力が残留しておりました!!つまり!被疑者がロックドラゴンを召喚したとするには、明らかな矛盾があります!そして、ロックドラゴンを召喚していないのなら、モンスターを凶暴化する事は不可能…私、ルキナは!被疑者の無罪を主張いたします!!!」
強く切り込むように、この場にいる全員にルキナさんは、私への弁論を叩きつけた
あれは完璧のはずだ、凶暴化の件と、ロックドラゴンの件両方を同時に弁護してくれた、付け入る隙なんてない、この裁判、私たちの勝ち…
「お待ち下さい」
ネルガルは突然、付け入るように異議を申し立てた
「今の弁論は、不十分なものでございます。こちらには証拠がある、ロックドラゴンを被疑者が召喚可能であるという、証拠をね」




