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172話 逆襲の狭間

レオの踏みしめていた地面はいつの間にか無くなっており、気づけば私たちはまとめて滝から下に落下していた。


下へと引きつけられる圧力が上から無理矢理押し戻されているような感覚が唐突に襲ってくる。


気づけば谷底へ手を掴むように、縄で引き戻されるように、私たちはそこへ向かって落ち続けていた。


「「「うわあああああああああああああああ」」」


そして、谷底へ音を立てて思いっきり落ちた。


そのまま川の流れに身が攫われ始める。


「くそ、なんだよコレ」


どうやらキルも成す術がなく、強制的に体が動かされているようである。


一応、左側を見てみるとそこに地面があったのだが、いかんせん川の流れが早すぎてそこまで泳いでたどり着くなんて到底できそうな話ではなかった。


本当に、ここは海まであと1mなんですかと思わず叫びたくなってしまいそうなくらいの急流である。


実際には奥まで目を凝らしてみても、河口はその影一つ見えやしないのだが…


しかしそれ以上に心配な事が、一つあった。それは…


「バルルルル、バルルルル」


レオである。


レオはこの川の流れになんとか抗うよう、必死にいぬかきをしているが、それはいつか限界がくるだろう。


別に沈むほど深い川という訳ではないが、それでもレオが足を吊るなどしてしまえば、無差別に岩や木の枝にぶつかり続けるなんてことになるかもしれない。


____それはできれば避けたい、だってあのレオネドライオンはレオで間違いないのだから。


「マインドコントロール!!!」


即座にそれをレオにかけた。


レオの肉体の全操作権を私は手に入れる。


「ちょっとごめんね」


私はそれを使って、レオの体を無理矢理動かし、岸まで泳いで着かせた。


レオが足を地面に踏めたところで私はマインドコントロールを解除した。


これで、しばらくの間は大丈夫だろう。


だがこれに時間を費やしたせいで、私たちが滝から岸にどうにかたどり着く時間を確保することができず、私たちはそのまま河口へと流されていってしまった。


「「きゃ(うわ)ああああああああああああああ」」



その後、私たちは河口手前まで流されたが、どうにかがんばってその付近にあった岸まで逃げ延びる事ができた。


どうやってそこに脱出できたかは覚えていない、とにかく一瞬の判断ミスで身の危険が危ぶむような展開が秒単位で連続するような状況をなんとか切り抜けて、私とキルは岸に足をつけたという事は覚えている。


「はぁはぁ」


「はぁはぁ」


「くそ、なんでこうなったんだよ」


「こっちが聞きたいわよマジで」


レオに飛び乗る直前、ソナちゃんが何か言いかけていたような気がしたが、もしかしたら近くに滝がある事を伝えようとしていたのかもしれない。


…私は川から目を離し、奥へと広がる森の方を見つめた。


鬱蒼と茂った木々が奥へ奥へ淡々と続いており、その頭が陽光を遮っているため朝にも関わらず、葉っぱの生える地面は常に薄暗いといった感じだった。


更に地面は北に向かってやや登り坂になっているのも確認できた。


北とは、私たちが流されてきた方向である。


「まぁとりあえず急いで戻らないと、レオが野生のモンスターに食べられちゃうかもしれない」


「…あぁ、そうだな」


私はこの坂道を登ろうと、一歩足を進めた。


その時、後ろから氷のように冷たい影が背中に迫ってきたように感じた。


____!!!!!


それはキルが端末から生成した剣で、不意打ちで私の背中を突き刺そうとしていたのだ。


だがそれが私の皮膚に届く前に、サンドシチュエーションを発動して無効化した。


「っ、クソ」


キルは悔しがる素振りを溢したあと即座に私の至近距離から離れて、私に剣を構え始めた。


「絶対やると思った、懲りないわねぇ。今戦うとサラちゃんが悲しむから戦らないんじゃなかったの?」


「それはあの村の中で戦ったらって話だ、ここならどれだけ暴れても誰もみちゃいねぇ、なにがあっても誰もわかりやしねぇよ、別に殺すって訳じゃねぇんだから」


「あれ?殺しはしないんだ?あれだけ私に陵辱されておきながら?」


私が挑発の意をこめてそう言うと、キルはいつにも増して声を荒げながら「当たり前だろ!癪だがテメェを殺せb…」と言いかけたところで、詰まったように言葉が一瞬言葉が止まった。


だがすぐに、開き直ったようにその後に続く言葉を放ってきた。


「テメェを殺せば、ソナが悲しむ!!!」


キルはそう叫びながら私に再び突っ込んできた。


私はポケットウエポンで剣を生成し、それを片手で受け止める。


「へぇ〜、ソナちゃんのためにねぇ、へぇ〜、ソナちゃんのためにねぇ〜」


これまた煽るようにそう言った。


まるで隅っこのオタクがクラスのアイドルの事が好きだと朧げながら知って、本当かどうかの確証もないままにそれを嘲笑う陽キャギャルのように。


本当はキルの抱いている感情など、とっくに気づいているが…


私は片手でキルを少し遠くまで弾いた。


キルは地面を引き摺りながらもすぐに耐えて話を続ける。


「めんどくせぇな、本当は知ってんだろ、そのコト」


「まぁそうね。だからこそ、私を殺すといろいろと本末転倒になっちゃうから殺せないんでしょ?」


「…それもある、だがそれだけじゃねぇ。いやそれ以上に…」


キルは自分の胸を締めつけた。


私にはそれ以上にの次にくる文章がわからなかった。


「とにかく、俺はテメェを倒してテメェから放たれる!放たれるんだ!!!」


「あんたが私を倒す!?はっ、あんたまだそんなこと言ってんの!?」


また、心に風が通った。


「あぁ、言ってるさ!俺には()()があるからな…」


キルはそう言った瞬間、両手で胸を締めた前傾姿勢のまま、全身に魔力を溜め始めた。


そして…


「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!」


次の瞬間、その叫び声に呼応するように、キルの全身から膨大な量の()()魔力が放出され、更に両目の真下には紅に光る牙のような紋様が浮かび上がった。


だがそれ以上に、信じられないことに、キルの体内の魔力量が、さっきまでの彼の何十倍にも膨れ上がっているのだ。


どんどん、どんどん、どんどんと。


「アビリティ、[B(ビースト)M(モード)。ソナを護るために手に入れた力…これを使ってアイラ!テメェを…」


キルはギンと私の方を睨み、こう叫んだ。


「倒す!!!!!!!」

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