171話 レオネドライオン捜索開始
「その話、詳しく訊かせてもらえないかしら?」
私は少女に優しく接した。
「え!ほんとう!?レオを探してくれるの!?」
少女の表情はたちまち明るくなり、両手を顔の前で握って喜んでいる。
「ええ、もちろん!」
三度笑顔でそう返した。
「テメェ、勝手に!!!」
その時、後ろから私の慈愛に満ちた素晴らしい行動を咎めるキルの声が聞こえたので、私はそいつにウインクを返してやった。
キルは歯を食いしばりながらその場で硬直する。
ここでこの少女の話に乗ってあげる事で、さっきのいざこざをなあなあにしようと考えたのだ。
だがその前に一つ、この子の話に乗ってあげていいか、ソナちゃんとレイ君に確認しておく必要がある。
「ソナちゃんもレイ君も、いいよね?」
「え、うん…まぁ」
「僕も構いませんが…」
レイ君は恐る恐るキルの方を向いた。
その時____
「おおい、サラーーーーー」
同じく先ほどの草むらから、少し高くも重圧感のある落ち着いた声が聞こえてきた。
直後、草むらから声の主と思われる、1人の男性と、それに付随するように女性が現れた。
「大丈夫?サラちゃん?」
女性の方が少女をサラと呼んで話しかける。
「うん!大丈夫だよ!お母さん!!!」
少女も返事する。どうやらこの2人がこの少女の両親又は保護者であるようだ。
同時に少女の名がサラである事も判明する。
「あの、貴方方は?」
女性…母親と思われる方がそう訊いた。
ここからの流れは、大方想像通りだった。
母親にそう尋ねられた後、私たちはそれぞれ彼らに名前を名乗った。
それをすると少女が母親に抱きついて、「ねぇねぇお母さん、レオがいなくなっちゃったの、でもこのヒトたちが探してくれるんだって、よかったよかった!」と言った。
母親は迷惑かけて申し訳ないと謝ってきたが、私は「全然構わない、寧ろ積極的に協力させて欲しい」という旨を笑顔で伝えた。
なにがなんでもキルの気を逸らしたかったのだ。
その後もう2、3回の悶着があった後、遂にサラの飼いモンスター探しに協力してもらえる事になった。
そればかりか私たちを一晩このヒトたちの家に泊めてもらうことにもなった。
私は喜んで、このヒトたちについていく。
そのままこの家族の住んでいる村まで案内してもらった。
村は山の中にある平地を利用したオーソドックスなもので、小さな木製の民家がそこかしこに建っていた。
中には一際大きめの建物もあったが、そこにこの村の村長でもいるのだろうか。
そんな村のほぼ真ん中付近に位置する所に、この家族の家がありそこに案内された。
その家の中の、真ん中にあるダイニングルームにある長方形の細長い机の、それを取り囲むように置かれてある椅子に全員がそれぞれ座り、詳しい話を聞いた。
どうやらサラが夕方、森の中を散歩していて家に帰ろうとすると、突然白い人形のモンスターが草むらから飛び出してきて、それに驚いたレオがどこかへ走り去ってしまったという。
それを…探して欲しいとの事だった。
私は当然それを引き受けた。
更に少女の母親が「今日はもう遅いし、よかったら泊られてみては?」と提案してきた。少女も大きく頷いている。
なので私はソナちゃんとレイ君以外の同意を得ずに、一晩その家でお暇させていただくことにした。
その夜、私はトイレのために一度ベットから起き上がって、それを済ませた途端、急に外の空気を吸いたくなったので外に出た。
裏口から家を出た瞬間、前方に沈むように夜空を見上げているキルの姿がみえた。
「………」
私はゆっくりとそれに近づく。
そして彼に話しかけた。
「なにしてんの?こんな所で」
キルは何も発さず振り返る。
そして私を見ながらしばらく間を置いた後、沈んだ声でこう言った。
「まぁよくも、上手く誤魔化したもんだな」
「どうするの?別に今ここでさっきの続きをしたり、逃げ出すなりしてもいいのよ?」
私は少し嘲笑しながら答える。
やはり風が通り過ぎていく。
「別に今からああいう事はやらねぇよ、レオ?だったか?それを助けてくれなくなるんじゃないかってあの娘も不安になるだろうからな」
キルはそう言ってのっと立ち上がり、そのまま少女の家族の家に戻っていった。
「…あっそ」
一晩明け、見知った太陽が私たちを迎えた。
有難いことに朝食まで食べさせてもらい、私たちはこの家族の団欒に少しだけお邪魔させていただくことになった。
その後、早速レオを探し始める。
とはいえどこに向かったかの見当がつかなかったため、取り敢えず空を飛んで探すことにした。
だが地平線が見られるほど空高い位置から1匹のモンスターを探したところで、それは高層ビルの上の階から特定の個人を見つけるのと同じようなもので、当然はっきりと見つかることはなかった。
ただなんとなく、東の方にそれらしい黒い動く物体が見えたので、その方向に向かってみることにした。
「でも簡単に見つかるかしら?レオくん」
「中々難しいでしょうね、なにせ森は広いですから。今日中に終わるといいんですけど」
そんな話をしていると、しばらくして私たち全員の視界に、黒いライオンのようなモンスターが遠くで突っ立っているのがみえた。
「……………」
それは紛れもなく、昨日私たちの間を通り過ぎたモンスター…即ちレオネドライオンそのものだった。
「………」
「「「「いたーーーーーーーーー」」」」
思わず全員一斉に大声をだしてしまった。
しかしレオネドライオンがそれに驚いて、走り去っていこうとしている。
「ねぇ、あれレオだよね!?別のレオネドライオンっていうこともなく」ソナちゃんがレイ君に訊いた。
「たぶんそうだと思います、この辺りにレオネドは生息していないはずですし」
そんな話をしてる間に、レオがどんどん視界から離れていく。
「てか、早く追いかけないと!」
小さくなっていくレオに気づいて私がそう叫んだとほぼ同時に、キルが飛び出してレオを追いかけていった。
「キル!?」
キルは素早くレオの元まで近づいていった、レオは結構なスピードで駆け逃げているはずだが、まるで以前にも同じ経験をしたかのように、キルは驚くほど早くレオに追いついた。
「ああああああああ」
更にこれもまるで慣れた手つきで、レオの背中に飛び乗った。
そのままレオの背中をさすってなんとか宥めようと試みているが、暴れ回られるのみであまり効果はなさそうである。
「アイラちゃん」ソナちゃんは勢いよく呼んだ。
「…仕方ないわね、助けるわよ」
私は翼を展開し、先ずレオの元へと近づいた。
その際、遠くから「違う!そうじゃなくて!…」というソナちゃんの声が聞こえた気がするが、気のせいだと思い特に気に留めなかった。
そして、暴れ回るレオの背中に乗るキルの真後ろに座って着地した。
「アイラテメェなんできた」
「あんたを助けてやろうとしてんのよ、文句言わない」
私はレオの背中を見下ろし、マインドコントロールを発動しようと試みた。
これでレオの動きを操作してこの暴走を止め、そのままサラの元まで帰してやろうとしたのだ。
それの為に、マインドコントロールを発動する直前____
私たちは滝に落ちた。
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