170話 アイラvsキル
キルが23分費やして必死にラッドバードを追いかけ、遂にその剣を打ち込んだ。
ラッドバードは音を立てて倒れ、そのすぐ後に私たちが彼に近づいた。
「ご苦労さん、じゃあ、ご飯にしましょ」
キルには冷たく、ソナちゃんたちには暖かくそう言った後、早速4人で晩御飯の準備を始めた。
木の枝を集めて火を起こし、ラッドバードの肉を焼いてから、串等を刺し、食べるのである。
食べる前に、以前あの村で手に入れた塩コショウをこの焼き鳥串肉に振りかけた。
そして、私はその肉を頬張って食べた。
同時にサクサクという音が歯全体に伝わった、その食感は噛めば噛むほど深みを増していき、更に塩の塩っぱさがその深みを補助していた。やがてその香ばしさが気体へと変化していく前に喉の奥へそれを放り込んだ。
「美味しい、やっぱり人の作ったもんが一番飯を美味しくするっていうのが結論なのよね」
私がそう言うとそれに連れられたように、「美味しい…」とソナちゃんとレイ君が呟いた。
ガタッ____
その時、串肉を口に入れる寸前に、それを中断すると同時にキルが勢いよく立ち上がった。
「なに?どうかしたの?」
するとキルは荒々しい声で、「流石に…限界ってもんがあったんだな!!!」と言った。
直後、端末から剣を取り出して私に突きつけてきた。
「ち、ちょっと待って!!!」
「今ここでアイラさんと争っても意味がないですよ!!!」
2人は慌てて立ち上がり、急いでキルを静止しようとした。だがあまり効果はなかったようだ。
「わかってる、お前たちの気持ちは…わかってる、わかってる…」
キルは尚も私に剣を突きつけている。
一方の私は、串肉を食べる手こそ止まったものの依然座り込んだままであった。
「アイラ!今ここでテメェを倒して、俺たちを解放させてもらう!!!」
キルの視線はいつも以上に鋭利になっている。
そしてその宣言するようなセリフに呼応するように、焚べていた焚火の火が激しく揺れ動いた。
「…はぁぁ」
私はようやく立ち上がり、キルの方を見つめた。
「あんたが私と戦って、勝てると思ってる?」
「勝つ!でなきゃ意味がねぇ、」
キルはそう言った直後に剣を構えてそのまま私に突撃していった。
私はポケットウエポンでナイフを生成し、それを片手で持ってキルの剣が私の顔を掠める直前にその一撃を受け止めた。
「どうしたの?私大して力入れてないよ?」
乾いた声で彼を煽る。
「う…るせぇ…」
しかしキルは負けじと体中の全体重を込めて私のナイフを振り解き、そのまま私の腹部に剣を決め込んだ。
だがそれが当たる直前にサンドシチュエーションで斬撃を無効にし、砂となって空気中に散布した。
「ちっ、砂になりやがったか!出てこい!!!」
キルはそれしか言うことがないかのような剣幕でそう怒鳴る。
「無駄よ、あんたじゃ私に攻撃は当てられない」
そう言った後でキルの背後に実体化して姿を見せた。
「テメェ…」
キルは現れた私に気づくとすぐに振り返り剣を右腰に構えて地面を踏み締めこう叫んだ。
「神速斬!!!」
その瞬間キルは凄まじい速度で私に接近しそのまま一気に切りかかってきた。
「ああああああああああああああ」
激しき形相で私の首に剣を迫らせた、高速で突っ込めば体を砂に変化させられる前に攻撃できるとでも思っているのだろうか。
確かにその可能性はあるが、それをあの程度のスピードで成し遂げる事は不可能だ。
私は斬撃が当たる直前でサンドシチュエーションを発動させキルの真後ろに砂となって移動した。
その後、足元だけ実体化し、そこで奴の足元へ回し蹴りをしてキルを地面から倒れさせる。
その後全身実体化してキルに改めてナイフを突きつけた。
「私の勝ちね」
短く私はそう言うと、キルはそう言われる事を見越していたかのように「ウルセェ、まだだ!!!」と喚いてきた。
だから私はキルがもう対抗できないように倒れ込んでいる彼の背中を思いっきり踏みつけた。
「があああああああ」
キルが痛みと憎しみが混じったような叫び声を上げる。
心に風が通り抜けたような気分がした。
「言ったでしょ、あんたじゃ私には勝てない。あんたは私の気が済むまで、ずっと私に隷属してなきゃいけないの」
緑色の眼が、黒い。
____ガサッ
その時、後ろから何者かが草むらを通り抜けた音が聞こえた。
なにと思って後ろの草むらを振り返ってみると、同時に全身が真っ黒なライオンのようなモンスターがいきなり飛び出してきて、私たちの間を素早く横切っていった。
ライオンはそのままどこかへ走って行く。
その際に思わずキルの背中から足を退けてしまった。
「なんだったの?今の、、、」
「くそ…」
その時、キルが体を起こし、ゆっくりと立ち上がってきた。
「まだ….分からないか」
私も改めて彼にナイフを突きつける。
その時____
「おーーーーい、レオーーーーーーーー」
さっきと同じ草むらから、甲高くも幼い、走る声が聞こえてきた。
そのまま、草むらから少女が飛び出してきた。
「もう、どこ行っちゃったんだろう?だめだ、完全に見失っちゃった…」
私たちはキルも含め、不思議な眼でその少女を見ている。
少女も私たちに気がついたようだ。
「あ、あの…すみません、さっきこの辺りで[レオネドレイオン]を見ませんでしたか?」
少女は人差し指でそのレオネドレイオンと思われる存在を空中に描きながら尋ねてきた。
レオネドレイオン…サーチエンジンとエコノミーカウンターを使って調べてみると、それはさっき私たちの間を通り過ぎたあのライオンのことのようだった。
「あの子、モンスターに襲われて逃げちゃって…しってる?」
少女は握った手を顎の先辺りに置き、弱った顔をみせている。
するとキルが「悪いが、今俺たちは人の探し物に付き合ってる場合じゃ…」と喋った。
だから彼がそれを最後まで言い切る前に、私は少女の両手を強引に掴んでこう言った。
「その話、よければ詳しく訊かせてもらえないかな?」
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