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169話 所詮それが世界の生き方

「ここは俺の精神世界だ」


「!!!」


背後から流れた声へ振り返ると、そこには私と同じくこの空間の中に、何食わぬ顔で立っているデュフゴがいた。


「あんたの精神世界…そんな所にどうやって、、、」


「ハイ・ハッキングというアビリティだ」


デュフゴはそう言いながらさっきと同じく私に向けて右手を翳してきた。


「!!!」


私は警戒し、ポケットウエポンで剣を生成する。


「ははは、身構える必要はない。この空間でこれを使っても意味はないからな」


デュフゴは調子を弾ませ、余裕そうな口調で私を咎めた。


続けざまにハイ・ハッキングというアビリティについての説明を始める。


「ハイ・ハッキングは亜人や悪魔も含めた全ての生物を意のままに操るというアビリティなんだ、普通の[ハッキング]はモンスターや植物を操る効果しかないが、こっちは全カテゴリーの生物を操る事ができる」


「………」


亜人、カテゴリー____当時の私がまだ分かっていない単語がいくつか出てきたが、少なくとも前世の世界にあったハッキングとは意味が異なる事、そしてデュフゴは今私を洗脳しようとしているという事は理解できた。


「その割には、今私を洗脳できていないみたいだけど?」


「それは、今それをしている最中だからだ」


デュフゴは両手を上げて大きく伸びをし、少し憂鬱そうな顔をしてこう言った。


「普通のハッキングもそうだが、このアビリティはな、他の洗脳系のアビリティと違って対象を半永久的に操る事ができるんだ、成功すればな。ただし簡単にはできない、それをするには相手を自分の精神世界に連れ込んでそこで相手と対話する必要があるんだ」


「…つまりあんたは今から私を言いくるめようとしてるってわけ?わざわざ教えてくれるなんて余裕ね」


「ふっ、それは関係ないのだよ、ただ俺が成功できるか否かという話だ」


デュフゴはまたも平たくそう言った直後、突然右手でフィンガースナップをかまして音を鳴らした。


直後、私の脳裏に入り込むようにデュフゴとソナちゃんたちが会話をしている映像が見えた。


そこで話されている内容、それに対するデュフゴの想い、空気の匂いまでもが一瞬の内に伝わってきた。


これは…恐らく私が拘束されている間に行なわれていたであろうソナちゃんたちとデュフゴの光景だろう。


確かにあの青年が教えてくれたデュフゴの思想とこの村の実態に一致する内容の話が話されている。


「ちゃんと届いただろうか、これが俺の考えだ」


「…えぇ、態々こんな事しなくてもさっき村の青年を洗脳して教えてもらったわよ。あんたの思想諸々全部ね」


「洗脳…部下たちを自殺させたのと同じ手か…」


デュフゴは震える程の力で己の手を握り締めた。


「…まぁいい、ならば分かっているのだろう?これから俺が何を話そうとしているのか」


「えぇ、よく分かってるわよ、あの出来損ないの設計図みたいな思想をぺらぺらと説明し始めるんでしょ?」


デュフゴの体が少しピクついた。


「ははは、出来損ない…か。それは、自分でも痛い程理解している言葉だ」


私の瞳は少し鋭くなった。


「確かに、争いをなくすなんて幻想、どうやっても不可能なのかもしれない、少なくとも、現実的な話でないことくらい俺だって分かっている。だが…」


デュフゴは顔を暗く下に向けて続けた。


「そうだとしても、いつか誰かがやらなければならない程に、この世界は争いで満ち過ぎている。それは分かるだろう?心持つ者には皆感情がある、だが感情とは手に負えない程複雑で、単純だ。これのせいで、ある者は望み、ある者は厭々争いを繰り返してしまう。だが感情がなければそれは最早心とは言えない。八方塞がりという奴だ、亜人や悪魔が亜人や悪魔である以上絶対に争いというものは生まれてしまう。これはどうしようもない事なのだ、だが…いやだからこそ…この堂々巡りから亜人も悪魔も関係なく解放してやりたいと、俺は想うのだ!!!だれもそれを成し得ないのなら、この俺が、そのいつかと誰かになるしかないんだと、俺は想うのだ!!!!!」


デュフゴは叫ぶような声で私に訴えてきた。


それと同時に、デュフゴの思想のようなものが、電波のように私の中に入り込んできた。


それに怯み、思わず右手で頭を支えながら後ずさってしまった。


…なるほど、この空間で奴が何か演説をするとそこに込められた信念が脳内に直接入り込んでくるらしい。


その際にまるで頭を内部から揺さぶられたような気持ち悪さを覚えた。


確かにこれは、精神力の弱い人ならすぐにでも奴の言葉に言いくるめられてしまうかもしれない。


まるで、言葉にマリオネットで操られそうになったような感覚に陥ったのだ。


「まぁ、あんたの言いたい事は分かるわよ。確かにこの世界は争いに満ちている。たぶん、誰もが気持ち悪いくらい例外なく心が抱える愛や恐怖に脅されて…でもそれはこの世界に限った話ではなくて、多分どの世界においても変わらず同じなのかもしれない。だからあんたの言う通り、心が心である限り争いというのはなくならないんでしょうね。でも…」


私は顔を上げ、睨むようにデュフゴを見つめた。


「…だからなに?」


私は体内にある半分以上の魔力をその場で放出し、それで全身を包む膜を作った。


デュフゴの言葉が私の脳内にまで直接語りかけてくるような感覚になるあれは恐らく奴の魔力によるもの、ならば…特に頭を中心に全身を自分の魔力で包んでしまえばある程度はそれを阻止できるはずだ。


私は、この魔力に一瞬怯み僅かに後ずさりしたデュフゴへ更に追い討ちをかけるべく、このままゆっくりとデュフゴに歩み寄っていく。


「世界は争いだらけ、その通り。だけどそれは仕方のない事なのよ、あんただって分かってるでしょ?どうしようもないことなの。だからその原因を考える行為も、それをなくそうと葛藤する事も、全て時間の無駄なのよ」


私はデュフゴへゆっくりと迫っていく。


「だったらもう、ただただ大人しく生きていくしかない…そう思わない?抗いようもない理不尽に抗うために、ただそれに流されて生きていくの、何もしないとの同じようにね。全ては無駄、無意味だって」


私はずかずかとデュフゴの間合いに近づいていく。


「そ、それは…それじゃあ意味がないだろう!?何も変わりはしない、永遠に結果が変わらない!永遠に争いは無くならない!」


「そうね、その通りよ、でも何したって結果は変わらないんだから、だから私は怠惰であり続けるの」


私とデュフゴの距離はどんどんと縮まっていく。


「で、でもそれじゃあ!!!」


「なら一つ聞くけど、あんたと私は今なにしてる?」


「え?」


私はデュフゴの眼前に入り込んだ。


「今あんたと私のしている事って、要は言い()()よね?そういう事なのよ」


「違う!これは!」


「違わない」


私はデュフゴの口を二度と喋れぬよう塞ぐように、彼が言葉を言い終える前に私が言葉を全て挟み込んだ。


「同じことよ、争いは争い。争いを止めようと誰よりも奮闘しているあんたでさえ、結局争いを行ってしまう」


「だから違う、これは…」


「仕方のない事だって言うの?ならあんたがなくそうとしている争いのほぼ全てが仕方ないってことになっちゃうけど?」


「それは…」


私は顔を奴の耳元まで近づけ、囁くようにこう言った。


「別にあんたが間違ってるって言いたい訳じゃないわ、寧ろ正解を放棄しているのは私の方。でもね…」


私は剣で奴の首筋の左端から右端までを一直線にすっと描いた。


「全てに絶望して打ちひしがれるよりは、ずっとマシだと思わない?」



____気がつけば空間は元に戻っていた。


振り返ると、顔を切り飛ばされ、口のような首元から赤い鮮血が垂れ出ているデュフゴと、それを見て唖然としているソナちゃんたちの姿が見えた。


私は顔が青ざめているソナちゃんとレイ君を安心させるため、剣をしまって撫でるような笑顔で、こう言った。


「さぁ、村で買い物しましょうか!」

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