168話 先ずは鎖から脱出
____私はセクシーイリュージョンで洗脳した青年から全てを聞いた。
この村は今デュフゴという悪魔によって占領されているという事、
そしてそのデュフゴがどういう思想をしているのか、事実としてデュフゴが支配した後この村はどのように変化したのか、
それら全てを聞き、理解した上で、私は誰にともなくこう呟いた。
「馬鹿ね」
そして洗脳中の青年に理不尽にも締めつけるような眼を突きつけ、荒だった声でこう言った。
「もう分かった、分かったからあんた、この鎖を解きなさい!!!」
しかし青年は少し困った顔をして、「それは…無理です。その鎖は絶対に解けないように出来ているらしく…」と説明してきた。
「は!?…ち、めんどくさいわね、でも確かに…」
私は今一度その鎖をよくよく眺めてみた。
するとこの鎖、かなり強力な魔力を常に帯びていて、その上で物理的な衝撃を即座にほぼ全て吸収する素材で出来ているようである事が分かった。
少なくとも、今の私の力ではこれを物理的に破壊する事は無理そうである。
しかし、腕を広げようと力を込めれば鎖が軋む音が聞こえるので、衝撃の全てをいなせる訳ではなさそうである。
…だとすれば、この鎖から脱出する方法が無い訳でもない。
というより一つだけ、たった一つだけその方法が思い浮かんだのだ。
かなりリスクの高い方法ではあるが、それしか思いつかなかったのだから致し方あるまい。
「…オッケーオッケー、安心しなさい。私がそのデュフゴって悪魔を倒して、この村を元に戻してあげる!」
「え?本当ですか…?でもどうやって、、、」
「大丈夫任せて、私、少なくともあれよりは確実に強いから」
「でもその鎖からはどうやって!?」
その方法は、かなり危険な方法だ。
この鎖はほぼ全ての物理的衝撃を吸収してしまうようだが、その全てを完璧にいなせる訳ではない。
ならばなるべく強い衝撃をこの鎖に送って大きく横に広がらせ、その隙にサンドシチュエーションで砂になって脱出すればいい。
ではどうやってこの鎖にそこまでの衝撃を与えるかというとだが、そこが問題なのだ。
私が考えたのは…というより唯一思いつけた方法は、スターボムを自分の体に放ち、その爆発の反動で鎖を動かすというものだ。
鎖に直接打つ事も考えたが、5秒間見つめても爆発できる気がしなかった為恐らく不可能なのだろう。
だがもちろん、普通にそれをすると私は爆死してしまう。
だから爆発させる直前にサンドシチュエーションを発動し、自分の体を砂に変化させて爆発を防ぐ。
これで無傷でやり過ごせる上に、砂となって大気を漂うことでそのまま鎖から脱出する事もできるはずだ。
____しかし、これでもまだ問題がある。
砂となっている状態では通常時のように素早く移動する事はできない。
もし爆発で鎖を動かした後常識を絶せる速度で元の位置まで戻ったりすればどうなるだろうか。
鎖と体が密着している状態ではサンドシチュエーションは使えない、砂になった状態の私が鎖に触れるとどうなるのか予想ができない。
そのリスクを回避するには、動かした鎖を何かで固定する必要があるだろう。
それができるとすれば、レベル41で会得した[エアズシールド]しかない。
これを四方八方に展開して、爆発で動かし砂になって逃げている間の鎖を固定する。
この方法なら私は鎖から脱出する事ができるはずだ。
…しかし根本的な問題がある。
それは、私にこの芸当が果たして可能なのかという話だ。
恐らく文字にすると分かりやすいだろうが、この所作は途轍もなく難易度が高い。
3つのアビリティを同時に発動させなければならない上、特にスターボムの件で失敗すると確実に死ぬ。
絶対に失敗はできない、言い換えればチャンスは一度しかないということだ。
鎖で縛られている間サンドシチュエーションが発動できないのなら、その状態で鎖に触れるとどうなるのかわからないし、
____しかしやるしかない。この方法でしかこの鎖から抜け出す方法がわからない。
私は一度深く深呼吸をして、青年を見つめ、覚悟の代わりにこう言った。
「まぁ見てなさいって、どうにかなるから。ただ死んだらごめんなさいね」
「え?」
私はそう言った直後、スターボムとサンドシチュエーション、そしてエアズシールドを同時に発動する事を試みた。
その結果は____
____成功し、鎖は爆発と同時にエアズシールドによって動きを阻まれ、私は砂になって徐々に地面へと近づいていき、気づけば地面の上で仰向けになっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、怖っ、死ぬかと思った」
「大丈夫ですか」
青年が慌てて駆け寄る。
「うんうん、大丈夫。それより、そのデュフゴって奴、どこにいるか分かる?」
私はのっさりと起き上がりながら青年に確認した。
青年は左側を指差しながら「デュフゴは…恐らく村の南にいるかと」と言った。
「オッケー、今から行くわ」
私は指された方向へ向かっていく。
そして走ってからしばらくすると、遠くにデュフゴと思われるデブと、それを取り囲むように立っている6体の悪魔、そしてそれを前に立ちすくんでいるソナちゃんたちの姿が見えた。
「ん?あいつ…」
しかし皆の下に到着するより前に、デュフゴが私の存在に気づいたようだ。
「お前、あれから脱出できたのか」
「アイラちゃん…」
私はその場で立ち止まり、宣戦布告の代わりにこう言った。
「デュフゴ、あんたの思想やら話やら、粗方聞かせてもらったわよ」
しかしこの続きを話す前に、「アイツ、デュフゴ様に近づかせるな!!!かかれーーー!!!」と言って6体の並の悪魔が全員釘バット片手に襲いかかってきた。
「あんた達は邪魔」
私はすかさずセクシーイリュージョンを発動して並たち全員を洗脳し、こう命令した。
「自殺しなさい」
「「「「「「はい!!!ただいま!!!」」」」」」
そう言うと並たちは全員一斉にその口で釘バットを丸呑みし、やがて悶え苦しんで窒息した。
そのまま並たちを無視するように、ずかずかとデュフゴの座る玉座へと近づいていく。
「ちっ、だが…」
ここでデュフゴが突然立ち上がり、私へ右手を翳してきた。
「[ハイ・ハッキング]」
デュフゴがそう叫んだ直後、奴の右掌から黄色い電子状の光線が出現し、そして私はそれを避けられなかった。奴の脳内へ意識が一瞬の内に引き摺り込まれたような感覚と共に、私は数秒間意識を失った。
「…!!!」
気づけば私は辺り一面が真っ白で、黒くて四角い地面の上に立っていた。
そしてその地面、そして真っ白な天井は、地平線のように永遠に続いているのではないかと思わせる程、果てしなく真っ直ぐに伸びていた。
更には終始無音が響き渡り、息をしてもまるで呼吸をしている感覚がない程に全てが虚無の空間だった。
「ここは?」
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