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167話 スケープゴート

ソナたちはデュフゴと名乗る悪魔に言われた通り、彼について行って村の奥に向かっている。


もちろんただついて行っている訳ではなく、その道中デュフゴに聞こえない程度の声量で話し合いながら彼の様子を伺っていた。


3人とも相手が悪魔という事もあり、罠の警戒しているのだ。


「はは、君たち、随分と用心深いようだね」


「「「!!!???」」」


デュフゴはソナたちを横目に不敵に笑いながらそう言った。


3人の会話は当然の如くデュフゴに聞こえていたようである。


「俺は君たちと争うつもりはない、ただ本当に話しがしたいだけなんだ、この村について」


デュフゴは穏やかにそう言って立ち止まり、正面の方を向き始めた。


つられてソナたちもその方向を見ると、そこには玉座のような椅子が、村の土の上にポツンと置かれていた。


デュフゴはそれを指差しながら「あそこで話しをしよう」と言った。



デュフゴはおもむろに玉座に座り込み、尊大な顔で3人を見つめた。


デュフゴについてきた並の悪魔は、玉座に座る彼を取り囲むかのような布陣で立ち並び始めた。


ソナたちはその前で呆然とするように立たされている。


「さぁ、準備はいいだろう。これでゆっくり話しをしよう」


デュフゴは相変わらず穏やかな声でそう言った。


結局、3人とも幹部クラスの悪魔が放つ風格に怯えていたのだが、このセリフには何か返さないと自分たちの身が危うい可能性があると即時判断したレイがすぐさまそれとなく返事をした。


「そ、そうですね。何の、話しをしましょうか」


レイがそう答えると、デュフゴは更に不敵な笑みを浮かべて「それはもちろん、この村…いや、この世界そのものについてだ」と返した。


どういう事かと思い、またもレイが慎重に「へ、へぇ、世界の事…ですか。それは具体的にどういう…」と返す。


この質問に対しデュフゴは「君は、争いについてどう思う?」と逆に質問で返した。


「争い…ですか、それは…や、やはり。無くなるべきものであり、同時に永遠に無くなる目途がたたない生物の業…ではないでしょうか?」


レイは震えながらこう返した。


この状況、レイからしてみれば相手の質問に対し少しでも間違った回答をしようものならその瞬間、最悪3人まとめて首を飛ばされる…なんて事もあり得るような局面である。


そんな状況で飛んできた相手の質問がよりにもよって答えの存在しない、ご自分の意見を問うタイプの質問であったから、当然これまでの人生でも屈指の焦りが彼の脳を駆け巡った訳である。


しかもソナとキルでは正直なところ自分よりデュフゴと上手く会話を回せるとは思えなかった訳だから、ここは嫌でも自分がやるしかないという使命感までもが脳に走っていた。


その使命感からくるプレッシャーと、単純なデュフゴへの恐怖心に拘束される中で、やっとこさレイはあの答えを吐き出したのである。


そしてそれに対しデュフゴは、震える程大きな声で笑ったあと、「そうだ!正しく君の言う通りなのだ。争いとは誰もが無くなるべきであると思っていながら、結局誰もが争いをしてしまう」と言った。


さらにレイたちを指差しながら「だが、もしその争いを無くす事ができるのだとしたら、君はどうする?」と続けた。


「それは今この場という最も身近な所にいる者たちですら例外ではない。事実今君たちは悪魔である我々を見て、殺戮衝動を抑えられないでいるし、俺を含めた悪魔たちもそう考えている。それはヒトや悪魔の遺伝子がそうさせている事だが、そもそも我々がそんな作りになっているのも、歴史的にみれば争いが原因だ」


「その遺伝子を…変容させるというのですか?」


「いや、それは現実的に不可能だ。それにもし出来たところで、結局遺伝子とは関係ないところで両種が争うのは目に見えている。それに争い合っているのは亜人と悪魔だけではない」


「では、どうすると」


「それは…」


デュフゴはまたも不敵に笑った。


「その答えがこの村なのだよ。単純だが、力で圧迫すればいいのさ。数週間前、我々はこの村に侵入し、そして村長を殺した。突如現れた悪魔に権力者が殺されたという分かりやすい状況に村人全員が恐怖しただろう」


「それが…どうしたというのですか」


「どうした…だと」


デュフゴはぴりついた声でそう言った。


それを聞き、レイは半歩後ずさった。しくじった…と思ったのだ。


「君はこの村を始め見て、どのように感じた?平和に感じたか?それとも争いごとが絶えないように見えたか?」


キルはなるべくデュフゴの感情を刺激しないよう注意して、慎重に言葉を選び答えた。


「そ、それは…少なくとも、争っている様には…見えませんでした。それよりは寧ろ、平和と言えるような」


「そう!そうなのだよ!!!」


デュフゴはまたも揚々と笑って返した。


「俺はこの村のこの状況を見て、ある仮説が確かなものであると確信した。その仮説とは、力ある者がそうでない者を虐げた時、真の平和が訪れる…というものだ」


「しいた…げる?」


「そうだ、そうする事で力無き者は力持つ者の存在に怯え、圧迫感という感情を一つにする。その圧迫感が村人たちの心を埋め尽くし、その他一切の感情を感じられなくなるのだ、そのその他一切には当然、争いの原因となる憎しみや悲しみ、優しさも含まれている」


「それはつまり、恐怖で人々の心を支配すれば、平和が訪れる…と言いたいのですか?」


「まぁ、簡単に言えばそういう事だ。しかしこの方法で争いを無くそうと思えば、それは俺がこの世のあらゆる者よりも格上の存在であるという事が前提となってくる、しかし実際にはそういう訳にはいかない」


「ではどうして…」


レイのその質問を待っていたように、デュフゴは彼が言い終わるのを待たずにポケットから手のひらサイズの赤い液体が入った瓶を見せつけるように取り出した。


「この薬を地面に巻くとそこには強力な魔力が地下深くまで染み込む。その足場を俺よりも強い魔力を持つ者が触れるとその者の行動を完璧に制限する魔力の鎖が現れ、その者の行動を縛ることができるのだ」


デュフゴは小刻みにその薬の入った瓶を揺らしている。


「それは…まさか、アイラさんもそれで!?」


「アイラ?村の前で縛られていた少女か?そう、その通り。これは四天王ヒュドラ様を上手く騙して作っていただいた物だ。そしてこれがあれば、理論上俺よりも格上の存在の動きを全て封じられる、し、そうなればこの世には俺より格下の存在しか残らない訳だから、先程の理論で世界の争いを無くす事ができるだろう」


「それは…」


「できる…いや、上手くいかせるのだよ、この世の争いを無くすためにな。フフ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハ」


デュフゴは揚々と、そしてただただ高らかな声で盛大に笑った。


レイたちはその様子を見て、深く、固唾を呑んだ。

一方、その頃アイラは…


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