166話 来る者拒む
今日も変わらず森の中を4人で歩いていると、ソナちゃんが私にか細く訪ねてきた。
「ねぇ、ずっと野生のモンスターってわけにもいかないし、そろそろどこか村で食べ物買わない?」
それを聞き、私はしばらく考え込んだ。
そりゃあそうであろう、やはりこの頃の私は人里に近づく事にすらも抵抗があった。
しかしいくらなんでも私の一存で2人の意志を捻じ曲げる訳にはいかないし、それに実際問題まともな食料がそろそろ胃に届いて欲しいところでもあった。
「…そうね。ねぇ、近くに村があるかどうかって分かる?」
尋ねるとレイ君が、「この辺りならまだぎりぎり組織の管轄内でしたので分かります。確かこの道を少しした先に小規模な集落があったはずです」と答えた。
「おっけーありがとう。じゃあそこに向かいましょうか」
私たちはレイ君の案内で、その小規模な集落の入り口へと向かっていった。
しばらく歩いているとそれらしき門とその奥に人の姿が見えたので、私たちは歩む足を急がせて村人たちに声をかけた。
「おーい、あのすみませーん。あなた方の村、少しだけお暇させてはいただけないでしょうかーーー」
そう、まだ距離の遠い彼らに聞こえる声で声をかけた。
その時、数人の村人たちの「あ、駄目だ!」「こっちに来ちゃあ!」という声が聞こえた気がしたが、気のせいだと思いあまり気には留めなかった。
それが間違いだった。
村の門を潜った瞬間、即ち村の敷地内に入った瞬間、足元がぶわっという音と共に一瞬光った。
同時に、地面から薄桃色に発光する鎖が出現し、ピンポイントでみるみると私の体に巻きついていった。
そのまま鎖は地面から突き上がるように伸びていき、私を完全に縛り上げた。
「は!?ちょっとどういう事よ、助けなさいよ村の人ーーー」
私は烏合のように叫んだが徒労だった。
「あーあ」「そうなっちゃったのね」「ってことはあの人強いのか」「関係ないだろ、俺たちには」
私が鎖で縛られる瞬間を見ていた数人の村人たちは下に流すような会話と共に去っていったのだ、
「あ、ち、ちょっと…は!?」
私は意味もなく空気へ不平をぶつけてしまった。
ソナちゃんたちも私を口元がほっと上がったまま見上げ、唖然としている。
「これは…何者かのアビリティ、を複製した物か?一体誰が何故?」
レイ君がそう呟いた直後、村の奥の方からリーゼントの髪型に鋭い目つき、臍の辺りに包帯を巻きつけて上裸といういかにも不良然とした容姿の男性と、上裸の代わりに下部は極端なロングスカートにストレートヘアーの髪型をした、これまた不良然とした女性が合計20人以上迫ってきた。
その全員が手に釘バットを持っている。
「なに!?あいつら」
ソナちゃんがそう言ったのを合図にしたかのように、3人は端末なら武器を取り出して向かってくる男女たちに対して構えた。
そして男女たちが私たちの前で立ち止まり、同時に釘バットを構える。
その中で一番前に立っていた男が声を荒げてこう言った。
「貴様ら、よくもまぁこの村に入ってきたものだな。だがそれもここまで、我らが尊敬する[デュフゴ様]の理想の邪魔はさせんぞ、さぁ!かかってこい!!!」
男のそのかけ声の終了と同時に他の男女たちも一斉に鬨のような声をあげた。
「うっさいわね、なんなのこいつら…ん?」
その時、ソナちゃんたちの魔力の流れが一瞬だけ大きく揺らいだのを私は見逃さなかった。
それも3人ほぼ同時にである。
まるで遺伝子が敵を前にした猫の毛の毛のように逆立ったとでもいうような反応だった。
変だと思った私は「ねぇ、なんか今すごいビクついてたみたいだったけどどうかしたの?」と尋ねるとレイ君が「アイラさんは分からなかったんですか!?あいつら全員悪魔なんですよ!!!」と凄まじい剣幕で答えた。
悪魔…というものがどういったものなのか分からなかったので、サーチエンジンとエコノミーカウンターを使って調べた。
そこに書かれてあった悪魔というカテゴライズの概要を読んで、事態の大凡の客観視ができた。
____これは相当に異質な状態である。
何故悪魔が人の住む村に、これだけ大勢、村人は全員平然としていた、そもそもこの鎖はなに、浮かぶ疑問は耐えない。
ソナちゃんたちが彼らを見た途端に表情が険しくなったのも、ヒト…いや、亜人の遺伝子が悪魔との闘争本能を掻き立てたのだろう。
今まさにソナちゃんたちと悪魔たちは一触即発の状態である。
「かかれーーー!!!」
そして中央にいる男性の悪魔の指示を合図に全員が一斉にかかってきた。
ソナちゃんたちも応戦し、悪魔たちに武器を向けている。
どうやら見たところ、数では悪魔に場があるが、実力はソナちゃんたちが上のようだ。
3人は的確に悪魔が叩きつける釘バットを受け止め、隙を見て悪魔の腹部を攻撃する事で一体一体確実に処理していっている。
それも当然だ、どうやらあの彼らは悪魔といってもその中で最も弱い部類である並であるようだからだ。
このまま戦局が進めばソナちゃんたちが勝てそうである。
「パゴスさん、どうします?あいつら結構強いっすよ」
「しかし、それでもここで退く訳には…」
ソナちゃんたちは次々と悪魔たちを仕留めていっている。
始め20人近くいた並の悪魔たちも今やあと9体だ。
更にキルの剣が、新たに一体の悪魔の首を吹き飛ばそうとしていた。
その時だった。
「待て!!!」
その時、更に奥の方から野太い男性の声が聞こえた。
その声の主らしき、全身真っ黒な服と三角帽子をつけたふくよかな男性がゆっくりとこちらに迫ってきた。
すぐにエコノミーカウンターで見てみると、どうやらあいつだけは周りの奴らとは違う、幹部クラスの悪魔のようだ。
悪魔たちはそいつに見惚れているかのように動きを止め、ソナちゃんたちもそれを警戒して動きを止めていた。
そしてある程度近づいたところで、見透かしたようにこう言った。
「止めよ、者ども。お前たちは何故私について来たのだ?こんなに、何人も死ぬまで争って、」
男性は倒れた悪魔たちの死体をまじまじと見つめた。
「とにかく戻ってこい」
男性が振り返りながら右手を後ろに大きく回すと、悪魔たちは「デュフゴ様〜」と言いながらその男性に付いていった。
しかしそれを逃すまいと、ソナちゃんが「あ、待ちなさい!」と言うと、デュフゴと呼ばれる悪魔が「君たちも来い」と振り返って言ってきた。
ソナちゃんたちは一瞬迷ったが、「罠でも行くしかない」という旨の会話をした後悪魔たちへついて行った。
____私は一人縛られたまま取り残された訳である。
「…は?なんでよ、誰が助けてよ!!!…ん?」
私が独り大声でそう嘆いていると、近くを通りかかった23歳くらいの青年と目が合った。
その瞬間青年は化け物でも見たかのような目と共に村の奥へ向かって走り始めた。
私は貴重な話し相手を逃すまいとレベル63で手に入れたアビリティ、[タングウィップ]で青年を捕まえ無理矢理私のx軸状の真っ正面に連れてきた。
タングウィップは己の舌を鞭のように伸ばし、相手を拘束するアビリティである。
「さて、いろいろ私とお話ししましょう?」
青年は訝しげな眼で私を見つめている。
「とりあえずこの村について話してくれませんか?どうして悪魔がいるのかとか」
青年は口を閉じたままである。
私という存在を警戒しているような口ごもり様だ、まるで熊でもみているかのような…
「…仕方ないわね」
私はレベル62で手に入れたアビリティ、[セクシーイリュージョン]を発動した。
これは私の瞳がハート形に変化し、それで5秒間見つめると相手が♂だろうが♀だろうが問答無用で骨抜きにするというアビリティである。
今青年の眼には私は、可憐な容姿に豊満な胸、センシティブな服装に妖艶なオーラを兼ね備えた魅惑的な女性が、頬を赤らめながら鎖で縛られている姿に見えているだろう。
事実、青年の眼が明らかに浮ついている。
その状態青年へ、態々巻き抉るような高い声でこう言った。
「ねぇ〜♡オネガイがあるんだけど〜、いまこの村でナニがオキテいるのか〜、教えてくれませんか〜♡、はぁーん///」
側からみるとだいぶキツいな。
しかも青年はそれを見て何を思ったのか、突然どこか冷えきったものを見たような眼で後ずさり始めた。
「は!?なに引いたんのよあんた!こんなエロい女子が鎖で縛られてたら誰だって興奮するでしょ!?信じらんない!!!」
流石にイラついてそう怒鳴った。
しかしセクシーイリュージョンが発動されているまま青年を怒鳴った影響か、再び彼は私を熟した眼で見始めた。
「え?なに、こういうのが好みなの?じゃあ…」
私は目を瞑って大きく深呼吸をし、仕切り直してこう叫んだ。
「なにこんなので悦んじゃってんの変態!もういいからさっさとこの村の事教えなさいよね!!!」
不慣れな台詞回しで精一杯彼を怒鳴った。
流石にこんなのでは上手く彼を満足させられないだろうと思ったが、そこは流石アビリティで半ば洗脳されている状態。
そう言った途端面白いくらいあっさりと口を開き、丁寧に説明し始めた。
この村の実態を。
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