160話 邂逅
私はその3つの名前を見て唖然とした。
どうして…ここにこの3人の名が記載されているのか訳が分からないからだ。
キル、ソナ、レイ。
間違いなく2年前、私をパーティから追放し、ダンジョンの最深部で縛りつけたあの3人の名だ。
そして、奴らに復讐しようと洞窟から出た後街中を探したがその姿はどこにもなく、何故かギルドの記録からその存在が抹消されていた3人の名だ。
年齢、国籍までもが彼らと一致している。
そうだ、今私がこういう生活をしているのも、元を辿れば奴ら…いや、キルがあそこに私を追放したからだった。
忘れかけていた復讐心がふつふつと蘇る。
どうしてこの3人がここに書かれているのだ。
ここはケルシアからは遠く離れた森の中、距離的にも邂逅するような場所にないはずなのだ。
「ああ、何で!?何がどうなってんの!?」
私はその紙を持ったまま頭を抱え、しばらくその場で狼狽した。
___いや、待て。一旦落ち着いて考えよう。
これは単なる偶然という事もある、つまりは同姓同名。
たまたま3つの同じ名前、同じ年齢、同じ国籍が同時に並んであるだけで、実際には全くの赤の他人という可能性だってある。
なにせ世界は広いのだから、そういう事も中にはあるだろう。
それに、もし仮にこれがあの3人だったとして、何なのだという話だ。
私は元々、彼らへの復讐を企てていたのだ、それなのに彼らが見つからなかったから途方に暮れ、その結果あの詐欺師に捕まってその後…
つまり私はまだ復讐を果たせていない。
今の私のレベルなら100%それはできるだろうからあまり意味はない気がするが、それでもそれを果たせていないのは事実なのだ。
ならば、何も迷う必要はない。寧ろチャンスだと思いこめ。
この3人が彼らと関係ないのならそれまでだし、もし同一人物なら2年の時を経てようやく復讐を果たす事のできるチャンスが訪れてきたのだと。
私はリーダーの男の死体からもう一つ、別の部隊の現在地が記載された端末を取り出し、更に近くで倒れていた女性の死体から髪留めを奪って、それで自身のの髪をポニーテールに纏めた。
「とにかく、実際行って確かめてみますか」
私は端末から別部隊の位置を確認した後、レベル50で手に入れた[ブラックウイング]を発動し、その場所へ向けて飛び立っていった。
その途中、私はレベル37で手に入れた[ポケットウエポン]で剣を生成した。
このアビリティは便利だ。
これまでの武器生成系で使えたナイフ、槍、斧、剣の中から選択して武器を、これまでよりも断トツで少ない魔力で生成できる。
少しだけ魔力の節約ができるという訳である。
…と、いつの間にか目的地に着いた。
私は真下を見下ろし、現状を確認する。
あれに記載されていた3人は、本当にあの3人なのかを確認した。
_____そこには、間違いなくゴリラのような巨大なモンスターに苦戦する、あのキル、ソナ、レイの姿があった。
他の連中のメンバーと思しき人たちは皆その場で倒れている。
どうやらあの3人だけが生き残っているようだ。
エコノミーカウンターで一応調べてみたところ、やはりあのゴリラがゴルファングらしい。
キルがゴルファングの攻撃を間一髪で避け、遠くで構えているレイとソナの下に着地した。
「どうしますキル、このままでは僕たちも!」
「ウルセェ、ンなこと分かってる!」
「次がくるわよ!!!」
ゴルファングがまた拳を振り下ろした。
3人はこれもギリギリのところで避ける、本当にギリギリだ。
あの様子ではいつ拳が直撃して死んでもおかしくない。
…それは困る、あの3人が彼らだと確定した以上、私は彼らに復讐をしなければならない。
ゴルファングの拳が再びキルに迫っている。
私はそれが当たる前にサンダーブレードを発動し、そのまま拳に向かって急降下していった。
そして、その拳がキルにぶつかる寸前に、私がその拳を斬り払った。
「!?お前…アイラ!?!?」
「え!?なんだっ…いや、アイラさん!?」
「アイラちゃん!?どうしてここに!?」
3人は子どものように、突然現れた私に驚愕をそのまま出した声を浴びせた。
特にソナとレイの表情は、僅かな沈黙の後に一瞬で恐怖に塗りたくられた。
私はそれら全てを無視し、ゴルファングを見つめる。
ゴルファングは私の一撃に怯み、その場で少し後ずさった。
しかし拳を切断させる事はできず、せいぜい剣に付与した電気の影響で少し痺れている程度の効果しかなかった。
その上、その痺れもすぐに拳を振り払って掻き消された。
「流石最強クラスのモンスター、一筋縄ではいかなさそうね」
私は気を引き締め、すぐに向かってくるゴルファングの動きを注視した。
奴はお返しとばかりに私に拳を振り下ろしてきたがそれを躱し、逆に殴ってきた拳を剣で切りつけた。
だがあまり効果はなく、私はそのまま翼を使って奴の顔付近まで回り込んだ。
だが奴もすぐに反応し、私目がけて拳を振りかぶってきた。
私も剣を振ってそれを弾こうとしたが、思いの外両者の力は拮抗し、結果として互いに大きく後方まで引き摺られた。
「………」
その後、私は敢えて翼を閉じ、走って奴の元まで向かった。
ゴルファングもそれを迎え撃とうとこちら目がけて走ってくる。
やがて鉢合わせ、その瞬間奴は拳を振り下ろしてきた。
私はそれを剣で受け止め、奴の背後まで吹き飛ばされた。
___だがこれはワザとだ。
これで、『奴は正面を向いたまま私は奴の背後に回っている』という状況を作り出す事ができた。
奴もそれに気づいたのかすぐに振り向こうとした。
私はその前にレベル47で得たアビリティ、[チェーンテール]を使い奴の全身を縛り上げた。
そしてそのままスターボムを発動した。
奴の背中が突如爆発し、奴は巨大な悲鳴を上げる。
「ゴガアアアアアアアア」
私はふっと笑みを浮かべ、これで勝ったと思った。
しかし思ったよりも奴はしぶとく、全身の筋肉を震わせて鎖を破壊し、そのまま振り向いて私に拳を喰らわせようとしてきた。
これは想定外だ、正直スターボムをぶつけた時点で勝てると思っていた。
___だがそれでも奴は私には勝てない。
すぐに私は作戦を変更し、奴の拳をレベル36で得たアビリティ、[アクアシチュエーション]で躱して更に奴の背中まで周った。
「ケイン」
そして、ケインでそのまま奴の背中を貫通させた。
奴はこれで息の根が止まり、そのまま音を立てて地面に落下していった。
倒れてきた奴の背中はアクアシチュエーションですり抜けてやり過ごし、私はゴルファングの死体の上に着地した。
「………」
ゴルファングは動かない、完全に死亡したようだ。
それを確認してから、私は3人の方を見た。
「「「!?」」」
その瞬間、明らかに全員の顔が青ざめた。
「ふっ、さて。久しぶりね、ソナちゃん、レイ君、そして…キル」
剣を消さないまま、私は3人を睨みつける。
「本当に…アイラちゃんなの…」
最初にソナちゃんが歩み寄ってきた。
「えぇ、その通りよ」
私がそう言うと、ソナちゃんは「そう…無事で良かった」
と言った後、その場で深く頭を下げた。
「ごめんなさい!!!貴方をあんな所に置き去りにしてしまって…でも私、どうする事もできなくて…本当に!本当にごめんなさい!!!」
激しく響く雨音を覆うように、ソナちゃんは叫びながら私に土下座した。
「僕…僕も…」
続けてレイ君がそう言った。
「あの時僕…本当に、どうすればいいのか…分からなくて…」
レイ君は怯えながらソナちゃんの真横まで走り、「本当に、申し訳ございませんでしたあああああああああ」と、泣きながら同じく土下座した。
「………」
私はそれを、滲むような眼でただ見つめた。
「何で…何で、お前が…ここにいるんだよ…」
一方、キルは後ずさりながら、驚愕をそのまま表したような表情でそう言った。
「何で、何でお前g…」
言い終わる前に、私はレベル53で得たアビリティ、[サンダーロッド]をキルの頬スレスレの位置まで伸ばした。
これは右手、或いは左手を長さ最大30mの雷の棒に変化させるアビリティであり、キル程度の戦士が喰らえば感電死しかねないレベルの代物である。
キルもそれを本能で察知したのか、私がそれをした瞬間に怯え喉を動かさなくなった。
「さて、リーダーである貴方からゆっくりと訊かせてもらいましょうか。この2年間、貴方たちに何があって、そしてどうしてここにいるのかを」
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