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159話 雨宿りに舞い込む

突然大型の雨が降ってきた。


私は偶然拾った大きめの葉っぱを傘にしつつ、急いで雨宿りできる場所を探した。


「はぁはぁ、どこか…なんで急にこんな降り出すの!?」


10分程走り回っていると、視界の奥に雨宿りができそうな小さなほら穴を見つけた。


「あそこがいいわ」


私はそこに駆け込み、そそくさとその中へ入っていった。


「あぁ〜〜、最悪、こんな急に降り出すなんて聞いてないわよ」


訊く相手などいないのだから、それは当然の事なのだが…


私は全身を震わせて体中にこびりついた雨水を出来る限り払い除け、その後焚き火を焚いて体を温めた。


炎の近くまで手を当てて、はぁと大きなため息を吐く。


「まぁ、こんな事今に始まったことではないけども」


雨で濡れて体温が下がったのか、全身が少し震えている。


このままだと風邪を引くかもしれないという疑惑が脳裏を過った。


不意に外の様子を確認したその時、小鳥がほら穴の中に入ってきて、私の肩に止まった。


「………」


私は小鳥が驚かないよう気をつけながら、その小鳥をじっと見つめた。


小鳥は呑気にも両目を思いっきり瞑り、かと思うとぱっと両目を開いて辺りを見回し始めた。


「………」


私はそれを、ただじっと眺めていた。


その時、ほら穴の外からオラウータンのようなモンスターが入り込んできた。


激昂した様子でこちらを睨んできている、


あの様子からして、本来ここはオラウータンの巣であるようである。


…しかし、外は未だ雨模様、今お人好しのようにこの巣を譲ると損をするのはこの私だ。


だからオラウータンには悪いが、私はここをどく訳にはいかない、その意思を伝えようと私はオラウータンを冷たく睨みつけた。


オラウータンは一瞬それに怯んだが、負けじと私への威嚇を強めてくる。


しかし私は変わらずにこの冷徹な瞳を浴びせ続けた。


その結果、オラウータンは何かを感じ取ったのか、徐々に私への恐怖が膨らんできて、最終的に一目散に逃げ去っていった。


「………」


更にしばらくぼーっと前を眺めていると、遠くから誰かの足音が聞こえてきた。


それも忍ぶような音の遅さと弱さではなく、明らかに誰かに追われている時のような速さと強さである。


それがだんだんこちらに近づいてきた。


そして___ずぶ濡れになりながら一人の男性がほら穴を一瞬過ぎ去っていった。


だがその一瞬で私の存在に気づいたのか、男性はすぐにこちらに引き返し、ほら穴の入り口の前で立ち止まった。


その男性はよく見ると全身に真っ黒なコートを羽織っている。


「お願いします!!!どうか助けてください!!!」


そして、男性はそう言いながら突然土下座を始めた。


「…は?急に何?」


「突然申し訳ありません、あなた、2週間程前からこの森にいる余所者の女ですよね!?」


「余所者?」


「失礼しました!!!いえ、私はこの森に根城を構える反グレ組織のメンバーなのですが、あなたの事は当然知ってます!!!余所者を追い出そうとして差し向けられた何人もの刺客を、全て返り討ちにされた方ですよね!?」


男性は切羽詰まった表情で私を見つめてきた。


彼の話からして、その反グレ組織というのが最近私を襲っている犯罪者集団なのだろう、そして彼はそのメンバーであると。


確かに今まで私を襲ってきた奴らは皆黒いフードを纏っていたが、やはりあれが制服だったのか。


だがそんな彼が、何故私に助けを求めるのかという話である。


「そうだけど、それが何?どうして私に助けを求めるの?」


「あ、はい!実は本日、今日の夕食を探そうと2部隊に別れてモンスターを狩りに向かったのですが、その際に両部隊とも本来の討伐対象ではない、強力なモンスターに襲われまして、今2部隊とも半壊滅状態なのです!!!」


「はいはい、それでそれで?」


「そこで、両部隊の隊長は合同して余所者の女に救助を要請しようという判断を下されました、余所者の女とは、あなたの事です!これまで何人もの刺客たちを一人残らず葬り去ったあなたの力ならば、必ずこの危機的状況をも打破できるはずだと!!だからお願いします!!!これまでの事は全て謝罪いたしますから、どうか、我々をお救いください!!!!!」


そう言って、反グレの男はまた深く頭を下げた。


_____さて、どうしようか。


ここまで必死に懇願してきた男の正体は、これまで私の命を狙ってきた連中の仲間だ。


私が助ける道理など何もない。


もしかすると2年前の、まだ精神的に余裕があった頃の私ならそれでも助けていたかもしれないが、今となってはそんな余裕があるとは思えない。


だからこいつを見捨てたところで何ら問題はない訳なのだ。


だが…


一方で、この男を助けなかったところで何のメリットもデメリットも恐らくないが、助かる事で発生するメリットがあるのは事実だ。


この男は今まで連中がやってきた事を謝罪すると言っている。


その言葉をどれだけ信用していいのかは分からないし、仮に信用できたとしても、それが連中の親玉を抜きに勝手に進められた話だというのなら結果は都合良くはいかないかもしれないのだ。


だが、一縷の望みに賭けてみるというのは悪い話ではないかもしれない。


正直、連中の襲撃にはそろそろ鬱陶しく感じてきていたところなのだ。


もし、今からこの男を助けて、そこから連中の親玉に会って二度と私を襲撃しないという協定か何かを結ぶ事ができれば…


_____それができる可能性があるのが、この話という訳だ。


「………」


私は深いため息を吐き、そのままこの男を見つめてこう言った。


「まぁ、乗りかかった船だと捉えましょう、いいわ。助けてあげる」


「!!!本当ですか!?!?」


男は雨上がりのような表情を持って顔を上げた。


「えぇ、で?どこに行けばいいの?」


「はいこちらです!付いてきてください」


男はそう言って西の方に走っていった。


私もその後を追う。


未だ雨が止まない中、私たちは走って男の部隊が襲われている場所に向かった。


その道中、男は具体的にどんなモンスターに襲われているのか説明を始めた。


「我々の部隊が襲撃を許したのは[ラッドバード]というモンスターです!鋭い鉤爪と歯に加えて翼を併せ持つモンスターです!」


「ふぅん」


私はそっけなくそう返した。


「もう片方の部隊を襲ったモンスターは何なのか分かるの?」


「はい、それが…ゴルファング…なようなのです」


男は険しい声でそう言った。


この感じから察するに、ラッドバードというのは知らなくても無理はないが、ゴルファングというのは一般常識として認知しているものという感じなのだろう。


しかし私はそれを知らなかったので、エコロジーカウンターを発動した後レベル51で手に入れたアビリティ、[サーチエンジン]でその名前を検索し、概要を確認した。


それによるとそいつはゴリラのようなモンスターで、現在この世に生息しているモンスターの中ではドラゴンを除いて最強格の一角に数えられる程強力なモンスターらしい。


これは確かに厄介そうだと考えている内に、男は立ち止まった。


どうやら目的地にたどり着いたようだ、


だが、そこで私たちは衝撃的な光景を目にした。


全身を噛み砕かれ血まみれになって倒れた人たちの群れの中、始祖鳥のような姿をしたモンスターが一人の男性の死体の腹を突っついて貪り食っている光景だ。


恐らくあのモンスターが、この男の言うラッドバードなのだろう。


「そ、そんな…リーダー…」


男が青ざめた顔で言った。


「そ、そんな…うあーーーーーーーーーー」


男は尻尾を巻くように逃げていった。


「ちっ、これじゃあ取引できないじゃない。まぁいいか、明日の飯が見つかったと思えば」


私は一つため息を吐きつつ、ラッドバードに向き合った。


「グルルルル、アアア」


ラッドバードはその瞬間、勢いよく私目掛けて突進してきた。


私はそれに対し右手を翳して、レベル42で手に入れたアビリティ、[火炎放射]を発動した。


雨水では鎮火されないその炎が、前から迫ってくるラッドバードを蒸し焼きにしていく。


やがてラッドバードは音もなく崩れ、息の根を止めた。


「大したことなかったわね、それはさておき」


私は倒れた男たちの死体を冷めた眼で見つめ、その後それらを物色し始めた。


この中に一人でも何か金目のものがあるのではと思ったからだ。


今の私とて何も人との関わりを完全に遮断した訳ではない。


道中にある小さな村や町に立ち寄ってはそこで飲食店や宿を利用したりしている、その時に使えそうなものを探しているのだ。


「!」


その中の、あの男がリーダーと言った男性の死体が持っていた一枚の白い紙が目に留まった。


特に意味はなく、ただ何となくその紙を眺めたのだ。


その紙は恐らく、あの男の言っていた2部隊のメンバーの名前が記載されたものだった。


私はそこに書かれてある、こことはもう一つの部隊に所属しているメンバー欄を見て唖然とした。


その紙に、確かにこの名前が記載されてあったからだ。


『キル、ソナ、レイ』


確かにその名が、その紙には記載されてあったのだ。

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