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158話 新たな起

鬱蒼と木々が生い茂るジャングルの中を、()()()に追われているマーシャルタイガーが死に物狂いで駆け回っていた。


その上に、そのマーシャルタイガーを狙う翼を持った影が迫っていた。


マーシャルタイガーは息を切らして必至に駆ける、だがその影はぐんぐんと首筋へと迫っていき、そして______


マーシャルタイガーの首根を切り裂いた。


マーシャルタイガーは音を立てて倒れ、その上に翼を閉じた()()が降り立った。


「はあ~~~、まぁ、今日はこんなもんかしら」


アイラ…即ち私だ。


私は陰った眼でマーシャルタイガーの死体を見下ろしながら、生成したナイフでその皮をじっくりと剥ぎ、焚き火をくべてその中に投げ込み、軽く串を作ってから突き刺して出来上がったその焼き肉を思いっきりほおばって食べた。


「うん、美味い」


全て食べ終えてふと空を見上げて見ると、いつの間にか太陽が真上に登っていた。


「もうこんな時間か」


私は焚き火を消してからすっと立ち上がり、服についた土をぱんぱんとはたき落とした。


「………」


そして、私は()()()()()()()()()()()()()()()()背後を尻目に呟いた。


「こう思うと、2年って早いものね」


ケルシアでの一件からは、既に2年の月日が経過していた。


あの後私は、これ以上ケルシアに滞在するのは不可能と考え、すぐにあの街から出ていった。


当然だろう、あの街は私を売ろうとした奴らの仲間があと何人潜んでいるのか分からないような街だ。


それに、奴らがどの程度の規模のグループなのかも分からない。


あのままあの街に住んでいれば、仮に就く職が見つかったとしても、常に奴らの追っ手に怯える毎日を過ごす事になることは容易に想像できる。


それは、あの森に住んでいる時に常に危惧していた日々と何ら変わらない毎日だ。


そんなの私は嫌だ。


__いや、それは自分自身を守るために作った表面的な理由だ。


本当は、それ以上に、自分のやった事が恐ろしくなったのだ。


あの日、私は確かに人を殺した。


例えそいつがどんな奴だったとしても、それを私がこの手で終わらせたのなら私だってそのどんな奴と何ら相違ない。


どんな奴に成り下がった私があの街でのうのうと生きていていいのだろうか、


そう考えた途端に途轍もない罪悪感に苛まれて、あの街にいる事自体が耐えられなくなっていった。


だから私はあの街から逃げた、人里離れて、一生森の中で静かに暮らしていこうと思ったのだ。


そう考えてからは早かった、私は服だけでも人間でいようと服屋により、そこで青いオーバーサイズニットに白いミニスカート、それと黒い長靴下を購入して履いたら、その後すぐにケルシアから出ていった。


そのまま更に歩を進めていき、何の目的もなくただひたすらに人里を避け森の中を進みつつモンスターを狩って野宿するという生活を2年間続けた。


その結果、いつの間にか私のレベルは63にまで上がり、もう大抵のモンスターは余裕を持って狩る事ができるというような体になった。


つまり死ぬ心配がほとんど無くなったのだ、お陰で私は、ほぼ安全に森の中で生活する事ができている。


だが同時に、変わってしまった事は2つ程ある。


一つは単純に見た目の話だ。


当たり前だが、2年も経てばこちらの世界でも見た目は成長する。


アイラとしての肉体年齢は16歳になって、顔つきは少し大人び、それに合わせて髪も少し伸ばした。


そしてもう一つは精神的な話だ。


肉体が成長しても前世の記憶や人格は引き継いでいる以上、精神的な変化はないのではないかと考えるかもしれない。


もちろん、成長…という意味ではその通りだ、では何が変わったのかと言うと、それは…経験による()()だ。


その時、私の背後から一本のナイフが飛んできた。


それが背中に当たる直前にサンドシチュエーションで体を砂に変えて躱した。


更にその砂を空気中に細かく散らばらせて、背後の木の影に潜んでいるナイフを投げた張本人の男に近づいていった。


そしてそいつの背後にたどり着いたと同時に実体化し、奴が気づいて後ろを振り向くより前に男の首を瞬時に生成した剣で切り飛ばした。


私は音もなく倒れたその男の死体を、蔑んだ眼で見下ろした。


_____そう、私がこの2年間で精神的に変わった事というのは、人を殺す事に躊躇が無くなったということである。


確かに初めは、人を殺した罪悪感から逃げるように森の中での生活を始めた。


だがどれだけ人を避けて生きていても、結局人殺しの罪悪感からは逃げられないという事に気がついた。


いつまでも追っ手のように、心から私を削ぎ落とそうと執拗に狙ってくるのだ。


だから私は思った、この罪悪感からは逃れられるものではないと、


いや、寧ろ逃れようとする事こそが罪なのだと、


そう決心してからは早かった。


私は罪悪感を全面から受け止め、人殺しも必要であれば作業のように実行しようという気になれた。


私は今、おそらく犯罪者集団のアジトか何かが近くにある地点に迷い込んでいる。


そのせいかさっきのように、余所者の私を殺すか捕えようかで私を狙う輩が頻繁に現れる。


私はその度に、受け入れた決心と共に、そいつらを、殺していっていた。


勘違いして欲しくないのが、別に殺しに快感を覚えた訳でも、罪の意識が完全に消え去った訳でもない。


人を殺す事自体は本来禁忌に当たる事だという認識はあるし、なるべくしてはならないという了解もある。


ただ、恐る理由が無くなったのだ。


戦士が戦争で人を殺せるのと同じ。


私の中にある、暴力行為の最終手段が、新たに殺しになった…という事なのだ。

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