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157話 転

男は不気味にそう言って、ずんずんと私に近づいてきた。


「いや、ちょっと来ないd…きゃあ!」


私は抵抗したが男の力は思っていた以上に強く、そのままベッドに押し倒されてしまった。


「貴女のような世間知らずがですねぇ、戦士でないと生きていけないようなこの国で、そんな可憐な姿で、住む家がないと言わんばかりに不貞腐れながら、3日間も白昼同等と街を歩き回るなんてぇ」


男は私を押さえつけながらその甲高い声と共に衣服を脱ぎ捨て、更に私に迫ってきた。


「さて、茶番はここまでにして、早速本編に参りましょうか!!!」


そして、男が襲いかかってきた。


「いや!やめて!!おねがい…」


その時、私は無意識に右手に魔力を込め、その手を奴の右肩へ翳した。


「やめてええええええええええ」


そして、レベル27で得た[ファイアーウッド]を発動し、右掌から発生させた薪で男の右肩を貫通させた。


「ぐっ、あああああああああああ、アアアアアアアアアアアアアアアア」


男は痛みから悲鳴を挙げてその場に倒れこみ、地面の上で悶え始めた。


同時に奴の金縛りも解けたので、私はその隙に急いでベッドから離れて服を着直し、すぐにこのガレージから出て行こうとした。


「待…て…」


だがその時、男が何らかのアビリティを使って、仲間に私が逃げた事を伝える旨を報告する声が聞こえた。


しかし、だからと言って冷静に状況を分析できる余裕なんて無かったから、私は無視してガレージから飛び出た。


そしてそのまま、私は街中をひたすらに走った。


目的地はこの街の外、奴が仲間に連絡しようとしていたと言う事は、間違いなくこの街に彼奴と同じような事を私にしようとしてる連中がこの街に何人もいると言う事、


そんな所にいていればまた彼奴等にいつ襲われるかも分からない恐怖の中で生活をする事になる。


それを避けるためには一刻も早くこの街を出るしかないと考えたのだ。


「チッ、くそ、なんでいつもいつもこう不幸な目に合うのよ私は!!!」


走りながら怒りを一人でぶち撒けたが、よくよく考えればこれは当然の事だったと後になって気がついた。


何度も説明したように、この国では戦士という職業が非常に重要視されている。


戦士であれば最低限の生活は保証されるし、そうでなければある程度ぞんざいな扱いを受ける事も覚悟しなければならないとソナちゃんは言っていた。


ついさっきまでそれを、この国で生きていく上での常識、知恵としてしか捉えておらず、実態として捉えようなどとはその意識すら芽生えていなかった。


それが失態だったのだろう、今になって猛烈に後悔している。


よく考えれば分かる事だ、戦士であると言う事で優遇されるのなら、戦士であればそりゃあ幸せに生きていけるだろう、


では戦士でないヒトはどうなるのだ?


(外見上は)14歳でありながら保護者がいない為働くしかなく、だが大変重宝されている職には就けず第二次産業のようななけなしの生産職に就く事もできない、


そんな奴を見て、一般的なこの国の住民はどう思う?


「可哀そうな子」と憐れむだけで私に何か差し伸べてやろうとはならないだろう。


戦士である事が肝心要であるとするなら、言い換えれば戦士でなければ駄目だというバイアスが国民全員に蔓延していてもおかしくない、というか既にそうなってるのだろう。


だから私に仕事を与えようとするヒトは現れない、ますます私は仕事を手に入れられない。


今の私は村の貯蔵金があるからしばらくは大丈夫だが、普通であればこの時点で貧乏乞食ルートに直行する。


そんな小娘を、上手く愉悦の道具として利用しようと企てない男がいないはずがない。


「稼げる仕事がある」と安い売り文句で私を誘い、そして私のカラダを使って一人悦び、そして私の身体を使って金儲けをする。


_____そんな事になるのは、当然の帰結だ。



必死に門を潜り抜け、街の外までどうにか走ってきた。


だが後ろを振り返えると、何十人単位の黒スーツの男たちが拳銃らしきものを持って私を追いかけてきているのが見えた。


間違いなくあの男が呼んだ追っ手であろう、そしてこの世界に銃が存在している事をこの時初めて知った。


だが脳を冷静に処理する余裕など疾うに無くなっている私は、そんか事など気にも止めずひたすらに奴等から逃げ続けた。


やがて、曇り空から雨が降ってくる。


関係なく私は逃げた。


そして丘を登り切った先で全長20mを超えるような大木に行手を阻まれた。


後ろを振り返れば当然奴等は迫ってきている。


(どうする…どうする…)


私は必死で思考を巡らせた。


このまま丘を越えて逃げ続けたとしても、恐らく奴等は一生私を追ってくる。


もしかしたらいつかは撒けるかもしれないが、そんな保証はどこにもない。


対処するなら、今ここでどうにかしないといけない。


だがどうすればいい、どうすれば、どうすれば、


こんな事をしている間にも、奴等はじっくりと、だが確実に私の元へ迫ってきていた。


更に焦りもっと早く脳を回転させる、だが一向にこの状況を打破する案が浮かばなかった。


だが浮かばなければ私は終わる、何としても浮かばせないといけない。


何でもいい、何でもいいから何か、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、


考えろ、考えろ、考えろ、考…_____!


その時、突然私の頭に、一つだけ突破行が差し込んできた。


『〔レベルが29になりました。新たなアビリティ、[グランドファイアーウッド]を会得します〕』


その時脳裏に過った、たった一つの言葉。


それを聞いた瞬間、脊髄反射のようにそのアビリティを発動していた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


私はその剣幕と共に両手を地面に叩きつけた。


その瞬間、地面から大量の薪が突き出てきて、追ってきた男たち全員を真下から突き刺した。


一人は腹部を、一人は右足を、一人は心臓を、一人一人を凄まじい勢いで突き出た薪で下から上へと貫通させていった。


「ぅ…ぁ…ぁ…」


全員がか細い悲鳴のような声を数十秒発し続けた後、全員の声が段々と止まっていった。


_____全員の、息の根が止まった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


〔レベルが34になりました。新たなアビリティ、[サンドシチュエーション]を会得します〕


私はバタンとその場に倒れ込み、静かに雨の降る空を見上げた。


雨は更にひどくなった。


私は両目を隠すように右手を上げ、そのまま悔しさのような哀しさのような感情を額にぶつけた。


_____私はこれで、前世を含め生まれて初めて人を殺した。


私を襲おうと追ってきた男たちは、全員指先一つ動かさず私を追う事はなくなった。


奴等から逃げ延びた私は、この場を一歩も動かずただ雨に打たれ続けた。

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