155話 最後の一撃
本当に突然の事だった。
アクアドラゴンに追い詰められ、もう駄目だと思ったその時に、イコウガが何かよく分からない力で助けてくれた。
しかもただ助けてくれただけでなく、アクアドラゴンを…聖龍の剣を十分使っていいだろうと判断できる状況まで持ち込んでくれた。
私はこれが最初で最後のチャンスだと思い、すぐさま聖龍の剣を装備してイコウガにこう言った。
「何か分かんないけどありがとう、私を助けてくれて、あそこまで奴を追い詰めてくれて…後は任せて」
その直後、私は地面を蹴り上げ一気にアクアドラゴンの元まで突っ込んだ。
私は既にケインを5回使い切っている、地面に落下した際のダメージはライフヒールである程度は回復させたけど、これも相まって今魔力はほとんど残っていない。
恐らく剣を持っていられる時間はせいぜい30秒程度だろう…
_____だが、この戦いが始まって約4分20秒、ようやく訪れた勝利のチャンス。
絶対に逃す訳にはいかなかった。
私は奴の間合いまで接近し、勢いよく剣を振りかぶった。
だが当然奴もそれに対抗し、両翼の翼を聖龍の剣にぶつけてきた。
両者はそのまま互いの斬撃を至近距離でぶつけ合うだけの状況が続いた。
時に私の攻撃がかわされ、時に奴の攻撃を私が受け止め、しばらく互いの一撃が互角に衝突しあった。
試合風に言えば「両者一歩も譲らない」の状況だが、しかし私には制限時間があった。
今奴とここまで互角に渡り合えているのはあくまでもこの剣のお陰、だがこの剣を持っていられる時間はもう30秒もない、
だから一刻も早く一撃を奴に喰らわせたいのに、イコウガがあそこまで追い詰めて尚、こいつは行手を阻む壁のように私を勝利という城へのこれ以上の侵入を許してくれなかった。
もどかしさと焦りに駆られそうになったが、何とか鎮ませた。
落ち着け、ここで冷静にならないと一瞬の隙を突かれてやられかねない。
そしてチャンスが訪れた。
奴もこの状態では埒が開かないと判断したのか、唐突に私から離れて少し上空に移動した後そのまま水流を放ってきた。
私はそれをアクアドラゴン目掛がけて飛び跳ねながらその水流を切り裂き、そのまま奴の腹部を全力で切りつける事に成功した。
奴はその衝撃で遥か後方まで吹き飛ばされた…
…かと思えばその直後に前方から奴が、全身に水を纏い自らを水流のように回転しながら私に突っ込んできた。
それを咄嗟に剣を縦に構えて受け止めたが衝撃までを完璧に殺し切る事はできず、地面まで斜めに叩き下ろされた。
だがどうにか踏み止まり、そのまま上空にいる奴の位置を確認した後すぐに再びアクアドラゴンの目がけて駆け込んだ。
___しかし、その間に奴は全身の水を一箇所に集めるような深呼吸を開始した。
…あれは、超巨大な水流を放つあの大技の構えだ。
「ちっ、使われる前に終わらせる!!!」
私は剣を背中に構えながらそう叫び、アクアドラゴン目がけて飛び込んだ。
奴があれを撃つ前に斬り伏せる、本気でそのつもりで奴を倒そうとした。
だが丁度奴との距離が4mを切った辺りで、恐らく完全に水流が溜まり切る前に奴があの大技を放ってきた。
「!!!アイラ殿!!!」
想定外の展開に遭いイコウガの私を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、しかしこの展開は私には予めていた。
だから剣を後ろに構えておいた、水流に向かってその剣を振りかぶり、切り裂こうと剣を振った。
「っ、、、」
だがその水流は想像以上に重たく、聖龍の剣でも押し切られそうになっている。
「っ、まだ…まだ…!!!」
だがそれでも、私はこの剣に全魔力と体重をかけて剣を進ませ続けた。
その時聖龍の剣が何かに反応したように紫に怪しく光り、その瞬間先端からもの凄く巨大な魔力の剣心が出現した。
「おおおおおおおおおおおおお」
この流れに身を乗せ、更に剣を前に進めた。
そして…
_____聖龍の剣が超巨大な水流を切り裂き、そのまま前に斬り進めて奴の右翼を切り飛ばした。
「ギリャアアアアアアアアアアアアア」
アクアドラゴンは凄まじい断末魔と共に斜め下までゆっくりと落下していき、同時に私も力尽きて地面へ直角に落下した。
土煙りも落ち着いた頃、私は手元から聖龍の剣を離した。
ギリギリだったからだ。
あと1秒でもこれを持っていれば、恐らくこれに魔力を吸い尽くされていただろう。
私には今、せいぜいアビリティを一回発動する程度の魔力しか残っていない。
魔力を全て使い切ればその瞬間私は死ぬ。
「…はぁ、はぁ、はぁ」
息がだんだん弱々しくなり、視界もぼやけていく。
…だが、これでも駄目な時は駄目なようだ。
足元の奥から、だんだんと巨大な足音が近づいてくる。
あれでも決めきれなかったのだろう。
10秒という時間をかけて、右翼を失ったアクアドラゴンはゆっくりと、倒れている私の真上まで近づてきた。
「アイラ…殿…」
イコウガは私を助けようとしてくれたようだが、体が思うように動かせないようだった。
奴は野生生物らしく、私の動きを警戒して5秒ほど首を左右に振って私を観察し始めた。
そんな事をしたところで、そこまで傷つけばすぐにでも死ぬだろうに、何がなんでも私だけは殺すつもりらしい。
そしてその時がきたようだ、意を決した奴が首を少し後ろに倒して私を捕食する体制に入った。
_____そう、遂にその時がきたようだ。
奴は私の動向を警戒していたつもりのようだったが、私の瞳が星型に変わっていた事には気がつかなかったようだった。
いや寧ろ逆か?この瞳だからこそ奴は5秒間も警戒していたのだろうか…
まぁそれはこの際どちらでもいい、奴が5秒も私を見つめていた事が私の勝因なのだから。
前回使用時から5分間を超過、更に予備発動時で5秒間奴を目視…
全ての条件は整った。
このアビリティを発動する、全ての条件が。
「スターボム」
私が目視した奴の首筋が即座に爆発し、そこから血潮が噴き出た。
それと同時に奴は巨大な断末魔を上げ、音を立てて地面に倒れた。
_____アクアドラゴンの動きが、完全に止まった。
「…やった、でござるか…?」
私の魔力は本当に僅かしか残っていない、正真正銘ぎりぎりの勝負だった、だが…
「えぇ、勝ったのよ、私たちが…」
私は、アクアドラゴンに勝った。
〔レベルが33になりました。新たなアビリティ、[ステルスボム]を会得します〕
アクアドラゴンに勝ったのだ。
ようやく…ですね!
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