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154話 応答望マヌ拙者ノ記憶

突然すまない、今お主がどういう状態にあるのかは分からないが、恐らく…まるで物語を途中で遮られたような気持ちを抱かせてしまったかもしれぬ。


それについては本当にすまない、今の拙者にはお主の事情を考える余裕も、またそれをする手段も持ち合わせていないのだ。


要するに今拙者は、お主の如何なる状況を無視して一方的に自分の話をしようとしている最低野郎でござる。


だが、そうしてでもこの話を誰かに伝えたくなった。そうするだけの事情があるのだという事を頭の片隅だけにでもおいてくれると嬉しいでござる。


案ずるな、そう長くはならん、というか出来ぬ。


そこは安心して欲しい。


_____では本題に入ろう。


拙者の名はイコウガ、元フェルマーノ最終帝国の戦士でござる。


フェルマーノ最終帝国というは拙者の住む世界の中で最も軍事力の強い国でござる、長いからこれ以降はその国と言い回すが了承願う。


戦士というのは読んで字の通り、お主の住む世界にも同様のものがあるかは分らぬが…


兎に角拙者はこういう経歴なのでござる、ここまで話して、もしかしたら()という文言に引っ掛かったかもしれぬな。


それも文字通り、拙者がその国を追放されたからである。


拙者は生まれも育ちもその国でござった。


その中でもこの国において長年、戦士においては最強の地位に君臨する一族の次男として生まれたのだ。


家族構成は長男、長女、そして次男である拙者の3人構成。


親については父も母も病死しているため現在はおらず、一応非戦士である世話係はいるが基本的には24歳の兄、[アダマス]が一族を支配している状態である。


最強の一族の家系というだけあり、拙者のきょうだいは皆信じられないほど戦士の才能に恵まれていた。


姉の[ヴァネッサ]はその国のNO2とも呼ばれる実力者で、世界全体でも3本指に入るとすら言われている。


だがそれ以上に凄いのが兄のアダマスでござる。


アダマスはスキル、アビリティ、純粋な戦闘力、魔力量、全てにおいて究極点に到達しており、間違いなくその国…いや、世界最強の戦士、世界最強のヒトと呼べる存在でござった。


しかし拙者の方は…お世辞にもその2人とは到底肩を並べられない程度の実力しかなかったのでござる。


理由は主に2つ、一つは純粋に弱かったこと、


二つは、拙者のスキルは[印結び]といって、通常よりも強力なアビリティを使える代わりに、それを発動する度に手で印を結ぶ必要が出るスキルなのだ。


この印を結ぶという動作が戦闘において非常に邪魔となり、それが故に弱いと判断されていたのだ。


一族に仕える者たちからは「一族失格」と罵るような視線を浴びせられ、拙者自身そうであるという自覚があっただけに何も言い返す事が出来ず、ずっと劣等感に苛まれ続けながら生きてきた。


それはきょうだい達からも同様だった。


直接言われることこそ少なかったものの、常にそれを暗に伝えるような空気感を感じ続けていた。


しかし、それでも拙者は、いつか2人と並ぶくらい強くなれる日がくる…


そう信じて日々鍛錬をし続けた。


別にそれは、家族である2人に自分を認めて欲しかったとか、そんな滑稽な理由ではない。


ただ信じたかった、信じたかったのだ。


劣等感で当たり前が完成されていたこんな拙者を、いつか変えられると信じて。


そして、あの日が訪れたのでござる。


ある日、拙者は兄上と姉上に呼び出され、こう告げられた。


「お前を一族から追放する」と。


あまりに唐突すぎて一瞬言葉が止まったのを今でも覚えているでござる。


続けて兄上はその理由を淡々と説明してきた。


と言ってもその理由は何となく察せられるだろう、要は拙者が弱すぎたのが原因でござる。


そして拙者はそれに逆上した。


兄上に直接そう言われて、これまでの自分全てを否定されたような気持ちになって腹が立ったし、そんな理由で家族と離れ離れになるのが漠然と悔しかった。


だが、たかが個人の感情如きで決定事項を覆せられるはずもなく、実際どうすることも出来なかった。


そしてアダマスは拙者の体に[導]を植え付けた。


これを使えばアダマスのスキル…[レナトス]と、アダマス自身の力を部分的に使うことができるという。


一族が普通は持っている程度の力を身をもって体感し、如何に自分が劣っているのかを自覚しながら生きていけと告げてきた。


ふざけんなと、思ったでござる。


何故貴様如きに拙者の感情を決められないといけないのか、何故貴様如きに拙者の人生を奪われないといけないのか。


理屈とか正しいとか関係なしに、ただただ憎悪が煮えたぎったでござる。


拙者は言った。「誰がそんな力使うか」と、


拙者は言った。「よろこんで消えてやるよ」と、


それから拙者は、一族どころかその国からも脱出し、独りで盗っ人として生きたでござる。


そこからの拙者の行動は、今思うと本当に馬鹿でござった。


一族に対して恨みを持ちながらも、その復讐をしよう等とは考えず、


しかし恨みも確実にあるから、時として何十人…下手すれば何百人ものヒトたちに影響を与えるようなものを盗んで八つ当たりをしたり、


弱い癖に一族の一員ぶってのうのうと生きてきた自分が悪なのだと思い込み、「盗っ人のイコウガ」という外受けの自分を創作して安全圏から嫌われてみたり、


その癖してこんな自分を…今やってるこれもそうでござるな、無条件に理解して欲しいと密かに吠え続けたり、


しかもそんな自分を愉悦するように受け入れて、まんまと平然を保っていた。


そんな風にして生きていた時、あるヒトに出逢った。


そのヒトはアイラという女性で、盗っ人のイコウガを始めて倒した存在でござった。


そんな彼女は、妙な包容力を感じるヒトだった。


何か、光も闇も全て見てきた上で、本心から光を見つめているような。


自分が信じる確固たる道を歩んでいて、そこを絶対に踏み外さない安心感というような。


とにかく妙な包容力があったのだ、このヒトなら自分の全てを受け入れてくれるんじゃないかと感じさせてくれるような。


少なくとも、盗っ人のイコウガを、盗っ人として嫌うことはなかったのでござるから…


そんな彼女が、アクアドラゴンというモンスターに目の前で殺されそうになっている瞬間があった。


嫌だと思った、助けたいと思った、どんな手を使ってでも死なせてたまるかと思った。


だから拙者は、この時始めてアダマスの力を使った。


その瞬間、拙者の皮膚が全体的に薄黒く変色し、瞳も、強膜は赤に、眼球は黄色に変色した。


この瞳の色はアダマスと同じ色でござる。


更に髪の色も白く変色したところで立ち上がり、直後に左眼でレナトスを発動した。


レナトスの力は両目に宿っていて、片目使うごとに一回使えるという仕様でござる。


両目同時に使えばアダマスと同規模のレナトスを使えるが、それだとその戦闘で使えるレナトスはそれっきりになってしまうでござる。


すまない、レナトスについて詳しく説明すると長くなるので省くござる、実はもうあまり時間がないのだ。


拙者はその力でさっきアクアドラゴンに切断された右腕を復活させた。


これにより左眼が元の青色に戻った、力を失ったのだ。


そのまま拙者はアクアドラゴンの前に立ちふさがった、見ると奴が何かとてつもない大技を出そうとしているようでござった。


奴はそれを放った、技は大波のように超巨大な水流を放つというものでござった。


拙者は右手を受け止めるようにかざし、右目のレナトスを使って何とかそれを消し去った。


右目も元の色に戻った所で、奴に()()()()()雷遁の術というアビリティを放った。


そう、この状態ではスキルが一時的にレナトスになるので印を結ぶ必要がなくなるのでござる。


様子見のために一度雷遁を止めると、今度は奴は巨大な水流を放ってきた。


拙者は対抗して風神雷神の術というアビリティをぶつけた。


2つは一瞬両者の中心で拮抗したがすぐに拙者のアビリティが勝り、奴を後方まで吹き飛ばした。


しばらく静寂が続いて、これで勝ったかと一瞬で思ったでござるが、その矢先に奴がしがみつくような執念で拙者の首筋まで現れた。


拙者はすぐに刀を構えてそれを受け止めたでござるが受け止め切れず、後方にある木まで吹き飛ばされた。


アダマスの力の状態は一定以上のダメージを受けると消滅して24時間使えなくなるでござるが、この衝撃でそこまで到達し、元の姿に戻ってしまったでござる。


しかしその時、アイラ殿が拙者を護るかのように目の前まで現れ、「何か分かんないけどありがとう、私を助けてくれて、あそこまで奴を追い詰めてくれて…後は任せて」といって聖龍の剣という武器を装備したのを…


その時の光景がまるでヒーローのように輝いていたのを、今でも覚えているでござる…


_____すまない、時間がきてしまったでござる。


本当はこの後の事を話したかったのでござるが、まぁこれも運命でござろう。


ありがとうでござる、こんな訳のわからない奴の昔話を聞いてくれて、


これで拙者も…悔いなく死ねそうでござる。


本当に、ありがとうでござる!お主はどうか元気で!!さらば!!!

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