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151話 勇者

「という事で、取り返して参りました、村長」


村へと戻った私は、そのまますぐに村長の元に急ぎ、彼にイコウガを倒した事実と村の貯蔵金が入った小袋を手渡した。


「うむ、ご苦労」


村長はそう言いながら小袋を受け取り、中見の確認を始める。


終えた後、村長は改めたような顔でこちらを見つめこう言った。


「…確かにそれのようじゃ、よくやった。礼を言うぞ」


そのまま一度、深く頭を下げた。


「いえいえいいんですお礼は、た・だ♪」


私はあからさまにがめつい顔をしながら親指と中指のつま先をくっつけて輪を作り、それを村長に見せつけた。


「分かってますよね?」


わざとらしく作り笑顔を披露する。


「…よかろう、これが約束の報酬じゃ」


村長はそう言った後、私に端末を手渡してきた。


「この中に400000カラー丁度が入っておる、貴様の自由に使うといい」


「…ありがとうございます」


そのまま端末を受け取り、小型化させてポケットに入れた。


___その時何かを期待して、少し辺りを見回してみた。


やはり村の大人たちは私を疑いながら見続けており、全員が冷気を帯びた槍のように感じた。


「それと、これはわしとしても本当に申し訳ないと思っているのだが…」


「はい、何でしょう?」


村長の方に視線を戻す。


「…単刀直入に言う、貴様は金輪際、二度とこの村に姿を見せるな」


これまた鋭い視線でそう告げられた。


それに私は一瞬怯んだが、その後はそれほど驚きはしなかった。


私はこの村を相手に堂々と詐欺を働こうとした人間だ。


その事実が消せない以上、この村にとっては今なお危険因子である事に他ならない。


村長はそれはそれとして、私をイコウガから貯蔵金を取り返させる為にある種利用していただけだ。


…まぁ、だからこそ私は彼を尊重しているのだが、


「そうですよね、分かりました。今すぐここを出てききます。その前にこれを」


私はフリーストレージを発動し、聖龍の剣を取り出した。


「これにもお世話になりました。村の秘伝の剣を託していただいたその寛大な心に、何とお礼を言えばいいか…」


「あぁ、それは貴様が持っていってくれ」


「…え?」


また固まった。


「いやでも、これはこの村に伝わる神聖なものなのでは…それにこんなドンデン返しみたいな展開そろそろみんな飽きてる頃かと」


「何の話じゃ?お主には敢えて伝えておらんかったが、あの剣の伝承には続きがある」


村長は改まった顔をした。


「以前にも話した通り、その剣はかつての()()()()()()()()()()の皮膚を剥ぎ取って作られたもの、貴様の時には魔法学に説明したが、一応伝承では「その(皮膚が使われている)剣は他者からの接触を拒み、故に剣に選ばれし者でなければそれを扱えないし触れられない」と記されておる」


続けて村長はこう話す。


「じゃがその後にこう記されておる。「この剣に選ばれし者_____[勇者]となった者であればこれを扱う事ができる、その者が現れるまでこの剣はこの村で護り続け、そして現れた時には、どうかその者にこの剣を託して欲しい」…と」


____ますますよく分からなくなった。


さっきまでの話、そしてここまでの村長との会話の流れからして、あたかも私が勇者とでも言うような口調だが、


「それは、私がその勇者に當るとでも言うんですか?」


「…事実として、聖龍の剣は間違いなくお主を拒んだ、歴史上、勇者かと思われる人物に剣を託そうとした事はあったそうじゃが、いずれの状況においても剣はその者を拒んだそうじゃ。今回の貴様もそれは同じ、しかし…」


村長は一瞬躊躇いのような間を置いてから話を再開した。


「過去に剣に拒まれた者は、伝承の通り皆その剣を扱うことすら出来なかった、長時間触れられた者は何人かいたようじゃが扱えた者となれば1人もな、しかし…」


私だけは、不完全ながら扱う事ができたと言った。


「そのヒトが言った勇者と言うものが何なのか、現在(いま)では肝心な部分が遺されていないのじゃが…わしは、貴様がその勇者に相応しいのではないかと思っておる、疑わしくはあるが少なくともわしは」


村長は変わらない真剣な眼差しを私に向けた。


そこまでされれば、私の遠慮というのも却って失礼というものだ。


「分かりました。村長の寛大な御心に甘えて、この剣は私が責任を持ってお預かりします」


村長が頷いたのを確認すると、私はフリーストレージを解除し、聖龍の剣を異空間にしまった。


「では、これ以上長居するのも何でしょう。私はこれで失礼します。報酬の方は本当にありがとうございます。村長さんもお元気で」


「あぁ、こちらこそ、イコウガを倒し、貯蔵金を取り返してくれた事、心から感謝する。二度とここに来るでないぞ」


私は村長に笑顔を送り、そのまま手を振って村の出口に向かった。


その間、村の大人たちはやはり懐疑的な目で私を見つめていた。


憎悪と感謝と罪悪感が入り混じったような、色にすると茶色い、形にするととても気持ち悪いような視線だった。


その一方で、子どもたちは無邪気に外で遊んでいる、何人かは私を見ているが、それは些細な好奇心の以上にも以下にも満たない程度の動機だろう。


尤も、多分子どもたちは私が貯蔵金を取り戻したその人とは、恐らく知らないのだと思うが、


そのまま足を運び、村の出口の前まで来た。


以前モンスターが襲来した出口とは反対の、村に入って来た時と同じ場所にある出口だ。


もう3、4歩進んで、私はこの村を出る。


「_____あの!!!すみません!貯蔵金を取り返していただき、どうもありがとうございました!!!」


その時、後ろから若い男性の声が聞こえてきた。


「!!!」


驚いて振り返った直後、その声に感化されたように、若い村の大人と一部の高齢者を中心に、次々とありがとうの声が聞こえてきた。


段々とその間にいる年代であろう大人たちもその声に駆け寄り、ありがとうと伝え始めた。


それを見て面白がるように、子どもたちも私にありがとうと呼んできた。


「ねぇお母さん、何でみんなあの女の人に、「ありがとう」って言ってるの?」


「それはね、あの人が取り返してくれたからだよ。村の大事なお金を取り返してくれたからだよ…!!!」


こんな会話も聞こえてきた。


このシャワーが、私への心からの気持ちなのか、ただの触発の伝染なのか、同調圧力に押し出された末の賜物なのかは分からない。


もちろん全員が言っている訳ではなく、中には尚も私やこの流れに嫌悪を示す人も見受けられる。


…だけど、何だろう。一瞬でそんな事どうでもいいと思えた。


今向けられてるこの好意が本物かどうかなんて、どうでもいいと。


ただまるで報われたようなこの感覚が、悪いとは微塵も思えなかった。


だから私は思いっきり手を振って、この人たちに言いたいことを叫ぶように言った。


「ありがとう!!!行ってきます!!!」


私はそのまま足を進め、村の入口を出て行った。

次回より、遂にアクアドラゴンとの再戦スタート


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