149話 決着イコウガ
これでも仕留めきれないのか…
必死で思考を凝らした策が破られ、持ち得る全ての手札が尽きたような感覚に襲われる。
しかしまだ、ここで諦めたらその他全ても台無しだ。
イコウガは既に硬化の術を解除し、再び刀を私に突き付けている。
だから私も同じようにした。
とはいえ、万策が尽きているのもまた事実だ。
このままでは聖龍の剣を使う場面まで持っていけない。
こうなれば今からイコウガを打倒するための手札を増やすしかない、手っ取り早いのが奴の弱点を見つけること。
恐らく今から奴ともう一度至近距離で切りあう事になる、その間に何としてでも手札を増やさないと、
______そして、予想通り私たちは地面を蹴り上げ、互いに鍔迫り合いを繰り広げた。
互いの剣と刀が衝突音と共に激しくぶつかり合っている。
イコウガが右腕に穴が空いているお陰もあって、さっきまでとは違いある程度は互角にやりあえていた。
しかしそれは私の体力がもてばの話、このまま続ければ間違いなく私がじり負ける。
だから結局手札を増やすよう努めないといけない。
脳みそを限界まで回転させてこれまでの奴の行動からヒントを探す…
「______お主、何故先ほどあのような事を言った」
「は!?急に何よ」
この状況の中、イコウガが唐突に話しかけてきた。
「さっき言ってきたでござろう、盗賊の癖に随分と情に厚いと、」
「その話?別に、大した意味もなくただそう思っただけよ」
「……そうか」
少し不服そうにイコウガは答えた。
______さて、2分ほど鍔迫り合いの状況が続いているが、未だにイコウガを倒せるような手札を見つけられていない。
しかし段々と私の体力も擦り減っているのを感じ始めている。
急いで、急いで何か良い案を掬い上げないといけない。
もう何度目かも分からない脳みその高速回転を行い、とにかくこれまでで得た情報をかき集めた。
思い出せ、これまでのイコウガが何をしていたか…
必ず奇妙な共通点があるはずだ、それが存在している気がした。
そこへの妙な確信があった、というよりないと大いに困る。
これでもまだ見つからない、更に脳から情報を掘り漁れ___
______待てよ、そもそもあれは何だ?
ここに来て、ようやくある一つの疑問が脳裏に浮かんだ。
それは…そう、何故イコウガはアビリティを発動する際毎回手で印を結ぶのか…という話だ。
『それはイコウガが忍者だから』
確かにこいつの格好は正しく忍者然としていて、語尾もござる口調…
そう答える事はできるかもしれないし、私もついさっきまでそう認識していた。
だがそれは、よくよく考えればおかしな話なのだ。
何せここは異世界だ、一方で忍者というのは、私のいた世界で確立されていた概念…
ではこちらの世界で、私の思い描く忍者という概念が存在しているか問われれば、今ならはっきりとこう答えられる______NO…と。
いや、もしかしたら本来の意味でのそれに相当する役職(暗殺者とか)はあるかもしれない、
だが私の思い描く、手で印を結んで忍術を発動させる、それこそ某忍者漫画のような忍者はいないと断言できる。
何せこの世界にはアビリティがあるのだ、恐らく全人類が最低限何かしらのアビリティを使えるような世界。
それもわざわざ印なんて結ばず、ただ体内で血脈と一緒に流れてる魔力を消費するだけで…
そんな世界だから、私の思い描く忍者はいないと言い切れるのだ。
では何故、目の前のイコウガはアビリティを使う度に手で印を結んでなどいるのか、
本来そこに疑問を抱くべきだったのだ。
これは普通ではあり得ない事だとはすぐに気づける…
にも関わらず毎回わざわざ印を結んでいるという事は、つまり奴自身のスキルか何かによる制約である可能性が高いと考えるのが妥当なわけなのだ。
アビリティを使う度に印を結ばないといけないが、その分何らかの利点が生まれるとか、そういう類のスキルが…
もしそうなら…いや、そうでないと勝ち目がなくなるから今はこれで断定するものとしよう。
もしそうならイコウガはアビリティを使う度に絶対に手で印を結ぶ…その間奴はアビリティを使えないし、動きもかなり留めざるを得なくなるはずだ。
(それなら勝てる!!!)
私は奴の剣撃に弾かれたふりをして斜め後ろに飛び跳ねながら翻り、そのまま右手の爪を突きつけるケインの前動作を敢えて見せつけた。
イコウガはそれにすぐに反応し、急いで印を結んでアビリティを発動させた。
「[土遁の術]」
イコウガの目の前の地面から土の壁がせり上がってくる。
ここまでは計算通り、ここからはスピード勝負だ。
私は魔力を絞り上げてケインを高速射出し土の壁を破壊した。
___同時に体を斜めに倒してイコウガの腹部に真っ直ぐ突撃していき、手に持つ剣を思い切り振りかぶった。
「!!!」
イコウガは直前に後方へ地面を蹴り上げ躱そうとしてきたがギリギリで間に合い奴の腹部を僅かに切りつける事に成功した。
「!!!」
「っっっ、、、、、、、、、、、、、」
イコウガはそのまま私から離れようとしたが途中腹部の痛みに引っ張られたか吸い寄せられたように地面と衝突しそのまましばらく地面を引き摺った。
「っ、拙者の弱点を見抜いたか…」
私は地面に着地し、慎重にイコウガを観察した。
「はぁはぁ」
イコウガは立ち上がろうとしているが、明らかに覚束ない様子だ。
私の持つ剣も奴を切りつけた証である赤い血がポタポタと流れ落ちている。
…よし、今だ。
勝負に出るならここだろう、今が絶好にして恐らく唯一のチャンスだ。
私は剣を異空間にしまい、同時にフリーストレージを発動した。
異空間から、村長から切り札として託されたあの剣が現れる。
私はその剣の持ち手を掴み、同時に嚙みつかれたように魔力を吸い上げられた。
「っおおおおおおおおおおおおおおおお」
尚もそのまま剣を全力で魔法陣から引き抜き、それをイコウガに突きつけた。
聖龍の剣を突きつけた。
「なんでござる…それは、まぁいい」
同じ頃イコウガも完全に立ち上がり、私に剣を突きつけてきた。
こうしている間にも、この剣に私の魔力は吸われ続けている。
だがそれに呼応して身体能力も上昇していっているのが分かる。
私はその脈打ちに任せて一気に地面を蹴り上げた。
___同時、それとほぼ同時にイコウガの文字通り目の前まで接近していた。
「「!?!?!?」」
お互い余りの速度に一瞬反応できなかった。
一瞬思考が固まったが、すぐに再開させて剣を振りかぶった。
だがイコウガも反応を蘇えらせたのかすぐに剣を構えて防ごうとした。
その瞬間イコウガはもの凄い勢いで押し上げられたように後方まで押し飛ばされた。
______の直後に私がイコウガの真横まで接近した。
すぐに奴が刀で防ごうとしたがそれを逆に手元から取り外した。
追加でもう一撃加えようと試みたがこれは後方に跳ね移られて避けられた。
だがそれを認識した直後足踏みの要領で空高く跳ね上がり、そのまま斜めに急降下して奴を突き刺そうとした。
「火遁の術」
だがイコウガは即座に印を結びアビリティを繰り出してきた。
しかし聖龍の剣はそれをいとも容易く切り伏せ、そのまま奴に向かった。
ギリギリまで近づいて剣を振り付けたがこれは寸前で真後ろに飛び跳ねられて避けられる。
だが私も着地した直後すぐに180度後ろへ蹴りあがりそのままUターンしたと同時に剣を振りかぶって剣をイコウガの首の手前で止めた。
奴の防御は完全に間に合っていない。
風のような速度を急激に止めた影響で衝撃波が地面をかき上げる。
「…これは、私の勝ちでいいかしら」
「…どうやら、そのようでござるな」
空気の僅かな振動音が無音の中に響き渡った。
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