14話 ケンタウロス
「はぁはぁはぁ」
これは…かなりヤバい
時間を稼ぐとか息巻いて、ケンタウロスと戦い始めたまではよかったけど、まさかここまで力の差があるなんて…
俺の攻撃の全てが、奴の左手に持つ巨大な盾に防がれ、ただこちらの体力だけが消耗していくだけ
しかも奴の山のような右腕から滝のような剣が振り払われる、これを避けるのも毎回ギリギリだ、その度に神経がはち切れそうになる
「はぁはぁ」これ以上はもたないかもな、どうする…
その時、もの凄いスピードで木から木へと飛び移っていき、ケンタウロスの頭上に飛び現れた少女がいた
エルナだ、恐らくあの人を街まで送り終えたのだろう、タイミングとしてはナイスだ
「封印!!!」
真下のケンタウロスに向けて鎖を向かわせる
それに気づいたケンタウロスは盾を構えてそれを防ごうとしたが、防いだ瞬間に鎖が盾を巻きつき、そこから伝っていくように徐々に右腕が石化されていき、このまま全身を封印できるものだと俺もエルナも思い込んでいた
だがその考えは甘かった
ケンタウロスは左手に持つ大剣でまだ完全に石化されていない右腕を自ら切り落とし、封印の進行を防いだ
「!!!???」
そのまま反撃とばかりにエルナに剣を振り払った
俺は咄嗟に超越光速を発動してエルナとケンタウロスから少し距離を置いた位置に移動した
「あ…ありがとう///」
「いい、それより不味いかもなこれ…」
不意打ちで封印を使えば勝てると思っていたが、だめだったか
よく考えたらこいつは約400年も前とはいえ人間の戦争で使役されて生き残ったモンスターだからな
この程度の状況、慣れてるって事なのか?
けど、右腕が切れたという事は、奴はもう盾は使えないという事にもなる
それは即ちこちらの攻撃が通るようになったという事、それに封印自体が不可能になったわけではない
俺は前向きに考える事にした
「けど、お陰で盾は無効化できた、これでやっと攻撃が通る。エルナ、隙ついてもう一度封印いけるか?」
「アレスの為なら、無理でもやってみるよ」
「ごめん…無理させて」
「無理なんて全然、それよりアレスこそ大丈夫?そんなにスキルを使って…」
「大丈夫だ、今はまだな」
こうして作戦を伝え合っている時間をこれ以上与える事を許さなかったのか、ケンタウロスは俺たちに向けて突進してきた
俺たちはそれを避けたが、すぐさま奴はエルナに狙いを定めて襲っていく
さっき右腕を切らせたのを怒ってるのか?
エルナは端末から2丁の銃を取り出して何度も発砲したが、ケンタウロスの鎧のような皮膚には一切のダメージを与えられなかった
そのままエルナに剣を振り翳そうとしている
このままだと確実にやられる、エルナが死んだら全て終わりだ
奴の注意をこちらに逸らすためにダークボールを1発足下に打ち込んだが全く手応えがない
奴は何事もないかのようにエルナに向かっている
1発だけでは見向きもしないという事か…
それなら俺は16個のダークボールを1つに集約させて巨大なダークボールを作り、それを奴の背中に撃ち込んだ
これでようやく奴の注意は俺に向き、エルナからは離れていった
だが奴のスピードは右腕を失って尚全く衰える事はなく、いつの間にか空高く飛び上がっていた俺の背後に迫って、その剣を振り払ってきた
俺は超越光速ですぐさま奴の背後に逆に周り、奴を斬った
手応えは、確かにあった
それにも関わらず奴に与えられた事は僅かに出血させた程度で、奴はそのまま問題なく剣を後ろにいる俺に突き立ててきた
咄嗟に超越光速で地上に移動したものの、それと同時に俺は体が指先ひとつ動かなくなった
6回目…しかもほぼ連続で超越光速を使った代償か
隙だらけになった俺に、奴は上空から俺の腹に剣を突き刺すように落下してきた
あれが突き刺されば、今度こそ確実に死ぬだろうな…俺もようやく死ねるのか…
俺は全てを悟り、その目を閉じた―――
「スキル、封印!!!!」
エルナはこの瞬間に封印を発動した
4本の鎖が地上へダイブしているケンタウロスへと走っていく
確かに、あの体制なら鎖を避ける事はできない、今度こそいけるかもしれない
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
鎖が力強く宙を駆け、ケンタウロスへの距離を詰めていく
しかし、ケンタウロスは剣を背後へ投げ飛ばし、その剣を足で蹴って空中を大きく移動し、そのまま鎖の範囲外まで逃げた
「嘘…これでも通じないなんて…」
エルナはアレスの元へと駆け寄っていった
その時、俺の左手の人差し指が僅かに動かせた、どうやら動けそうだ
「大丈夫、アレス?」
「あぁ、お陰でなんとかな」
けど、最初の不意打ちで封印出来なかったのがやはり痛かったか
今ので無理となると…どうする?一応、今奴は武器を持っていない、手数ではこちらが有利
けど奴の鎧のような皮膚、あれがある限り攻撃はほとんど通らない、持久戦になれば結局俺たちが負けるだろう
つまり俺たちが勝つには、奴に絶対に剣を奪取されてはならないのは当然として、その上でなるべく早く封印に持ち込む必要がある
その為にはどうすればいいのか…
さっきから、1つ、脳の片隅で考えている事は、奴の行動パターンだ
エルナといい、俺といい、奴は一度何かに狙いを絞ると他がほとんど眼中になくなるくらいそれを執拗に狙う…
待てよ、なら今はどっちだ?
今奴はどちらを優先させている?
もしそれがあっちだとすれば…
「エルナ、1つ試したい事がある、協力してくれるか?」
「当たり前じゃない!どんなお願いでも協力するわよ!」
即座にそう答えてくれた
「………ありがとう、けどもしそうだとしても、それでもエルナに全てを賭ける事になる。本当に、すまない」
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