146話 聖龍の剣
「これは聖龍の剣、この村に代々伝わる秘伝の剣だ」
「龍?」
私はその言葉に引っ掛かった。
「じゃあ、これはアクアドラゴンと何か関係g…」
「いやそうではない」
言い終える前に切られた。
「この剣がこの村に収められたのは今より遥か昔、正確な年月が失われるほど過去の話だ、まだこの星での主導権をヒトや悪魔ではなくモンスターが握っていた時代…」
「その時代のモンスターの中で最強と考えられている[ドラゴン]と対等に渡り合えたあるヒトがいたそうだ、そしてこれは、そのドラゴンの鱗を使って作られた剣…」
それが現代でもここに保管されているという事か、
「ドラゴンっていうのは、アクアドラゴンじゃないなら残り6種の内のどれか?」
あの端末に書かれてあった内容から、ドラゴンがアクアドラゴン含め大きく7種類存在している事は当時の私でも知っていた。
「…いや、それがよく分かっておらんのだ。そうかもしれないし、そうでないかも知れない。ドラゴンの起源は未だ解明されていない事が多いし、それに加えて遥か昔の話だからの」
「なるほど」
村長の含みを避けるような言い方からして、少なくとも私の質問単体にはNOと答えられるだけの根拠は用意できていそうだ、
でもそれが本当かの確証までは持っていないようにも感じた。
既に絶滅したドラゴンの種類でもいたのだろうか…
「それで、つまりこの剣を使ってイコウガを倒して欲しい…という事でしょうか?」
「そうだ、だが…」
老人は険しい眼で私に語りかけてきた。
「この剣には、ドラゴンにしか感知できない特殊な魔力を纏っているとされている、その魔力によってこの剣に触れた者の魔力がたちまち吸い取られてしまうそうだ、枯れ果てるまでな」
「!?、そんなヤバいんですかこれ!?」
確かに見た目からして禍々しいオーラは感じ取れるし、言われてみれば若干妙な魔力が込められてる気がしなくもない。
だが人の魔力を吸うような危険なものと想像できるほど壮絶なものとも思い切れない、
そもそもそんな魔力が実在するのかという衝撃もある。
「そうだ、何故龍の鱗を使ってそのような魔力が生まれたのか、今となっては分からないが…」
村長は続けてこう説明した。
「だが、この剣が魔力を吸い上げるとその間剣の威力と、更に装着者の身体能力が一時的に向上するのだ」
「マジですか!?」
思わず声が出てしまった。
それが本当なら、確かにイコウガを倒すのに大いに役立ちそうであるからだ。
それが本当なら、相応に扱いが難しそうでもあるからだ。
というより、この手の説明をされて実際は危険がなかったという展開を、私が知る限り見たことがない。
だからこれは本当に危険な代物なんだと本能よりも先に理解していた。
「正直なところ、これは本当に危険な代物じゃ、いくら貴様といえど気軽に譲れる程わしとてヒトを捨てとらん、使うかどうかは、貴様自身が決めてくれ」
「……」
私はもう一度聖龍の剣をじっと見つめた。
とはいえ、どれだけ凝視したところでその答えが変わることはない、
今最優先するべきはカラー、そのためならどんな手段も厭わない覚悟を既に済ませている。
「当然、使わせてもらうわよ、奴からカラーを取り返したいですから」
そう言って私は鼻息を強めながら剣に近づき、慎重に、針金で鍵穴を刺すように手を伸ばした。
そして剣に触れた刹那…
「痛っつ、、、」
思わず剣を手から外し、3歩後ろに引き下がった。
「………」
私はもう一度剣をじっと見る。
___あの剣に触れた瞬間、全身の全てを掃除機で吸い出されたような感覚に陥った、
その事で命が巻き上げられるような恐怖を一瞬の内に全身で感じた。
「これは…」
「今の反応からして、どうやら体験したようだな」
村長の足音が近づいてきた。
「それが、あの剣の恐ろしいところだ」
「………」
私は何も言えなかった、だがそんな私に、村長がもう一度質問してくる。
「どうだ?あの剣を使ってくれるか?」
…答えはYESだ、それは変わらない。
とはいえあの暴食、当初の想定通りの扱いをする事はできないだろう。
何か使い方を模索しなければと熟考しながら、もう一度剣の前に踏み立った。
恐る恐る、剣に手を近づける。
「!!!」
それに触れたと同時に、剣が噛みちぎるように私の魔力を吸い始めた。
右肩にも左肩にも傾かず、常に一定の速度で喰い齧っていく、
同時に、呼応するように全身の能力が上昇していくのも感じられた。
「っ…なるほど、段々分かってきたわよ」
私は徐に地面から引き抜き、知らしめるように剣を老人に突きつけた。
聖龍の剣…その効果は苦笑いするくらい老人の言っていた通りだった。
ひとたび剣を握れば起動した掃除機のように魔力を吸い取ってくる、そしてそれに呼応して身体能力が上昇する。
それを理解してきたと同時に、これの有効的な使い方もふつふつと湧き上がってきた。
それに釣られて頭が熱くなり、脳が軽くなっていく…
そうなる私をぐっと抑え、冷静にこの剣をもう一度見回した。
今こうしている間にも、この剣は私から魔力を吸い上げて力を増幅させている…
しかしそれがあくまで剣である以上、全ての事象は必ず斬撃時の一振りに帰結する。
扱い方を頭で言語化できて、この剣を振る姿が鮮明に浮かび上がってきた。
要するにこれは、全身を巡る血液が吸い上げられていくように失われゆく魔力と一緒に、私の身体能力を強化する波が出来上がっている…そういう状態だ。
それならばその波に逆らう事なく流されて、先に進めばいいだけのこと。
それが、この剣の扱い方だ。
そう信じて地面を思いっきり蹴り上げた。
私は普段の数倍速く高く飛び上がり、村の柵も軽々と乗り越えた。
「!!!」
その時目の前に一本の木が現れた。
私はそれを退かすため、聖龍の剣を振り払う。
その瞬間その木が音もなく消し飛び、更に斬撃の余波で奥に続いていた木々4本が豆腐のように粉々になって破壊された。
「!?」
破裂音と煙を帯びた風が地面に吹き荒ぶ……
私は木々があった場所に着地するとすぐに剣を手から投げ捨ててその場に倒れた。
「…はぁはぁ、ヤバすぎるでしょ、これ」
私は剣の方を振り向き、こう思った。
_____これなら間違いなくイコウガに勝てると。
一度負けているにも関わらず、あの剣にはそう確信させるだけの威力と衝撃があった。
しかし、これを常時使うとなるといずれ私の魔力が底を尽きる事も目に見えていた。
さっき握った感じから考えて、全回時で体感2分強がこの剣を持ち続けられる限界だろう。
それ以上持ち続ければ私は確実にこと切れる。
だからこれを使うタイミングは考えなければならない、切り札として使えばこれは100%必殺の剣となるはずだと確信できる。
「どうだ、大丈夫か!」
私を心配してなのか、村長が小走りで私の下に駆け寄ってきた。
「はい…なんとか」
私はレベル25で覚えたアビリティ、[フリーストレージ]で剣を異空間にしまった。
これは何でも一つだけ自由に、物を私専用の異空間に出し入れできるアビリティである。
「村長、あの剣の使い方が分かりました」
「!!!、そうか…」
村長は少し言葉を呑み込んだ。
「えぇ、任せてください。必ず、そして今度こそ、イコウガを倒し、お互いのカラーを取り戻してみせましょう」
私は笑いながら、宣言するように意気揚々とそう言った。
聖龍の剣の説明の際にした話、しばらく覚えておいてください。
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