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140話 木の家を見て森を見ず

男の子は必死に助けてを求めてきた。


私はその意図を十分に汲み取っていたつもりだし、助けてあげたいとも思っている。


その上で、私はその悲鳴を拒んだ。


「なんで!?どうして!?」


男の子は焦って私に問い詰めようとしてくる。


「なら、もう一度きくわ。さっき食べてた虎の肉、あれ、まだ少し余ってるけど、食べる?」


「いまそんなの関係ないだろ!!」


「あるから訊いてるの、答えて」


私は尋問でもしているかのような口調で訊いた。


男の子は一瞬それに怯んだが、すぐに前へ出てこう答えた。


「いらない!僕はまだもらえないよ、だって…」


男の子は母親の方を見た後、振り向いて、切なげな眼をしてこう言った。


「母ちゃんが、あんなになってんだもん、おれだけちゃんとした食事を貰うことなんて…できないよ」


それは、凡そ想定通りの回答だった。


この子が母親を思う気持ちは本物だと思うし、そのための覚悟も確かなものだと感じた。


だからこそ、私はわざと冷たい眼とため息をつくり、男の子にこう告げた。


「だから駄目なのよ」


「!?」


男の子は思いもしないことを口にされたようで、訳の分からないという顔をした。


「なんで!?意味分かんない!おれはただ!!!」


「貴方、そう言ってこれまでも碌な食事取ってなかったんでしょ?その瘦せ方を見れば分かる、病気のお母さんと同じくらい瘦せてるなんておかしいもの」


「でもそれは…分かってよ!!!」


「分からないわ。自分の身一つ守ろうとしないでよくお母さんを助けたいなんて思えたわね、本当にお母さんを想ってるなら、もっと自分をぶつけなさい」


私はただそう一蹴して、家から外に出ていった。



男の子たちの家を出た後、私はしばらく外を歩き、近くにあった切り株に座った。


そこで顎に手をつけ、大きくため息をついた。


分かってる、私だって流石に分かってる。


あの家には、本当に最低限の家具しかなかった。


それに、こんな森の奥に子連れで生活している理由、体型を抜きにしても質素すぎる2人の服装。


間違いなく、あの家族にはカラーがないのだろう。


ケルシアの街並みしか知らない私じゃ資料不足かもしれないが、それでもあれがこの世界の一般生活レベルだとは思えなかったし、思いたくなかった。


その上で、あの子の母親が病気だと言うなら…


正直今すぐにでも、少しでも助けになりたいというのが本音なのだ。


だけど、だからこそあの子を放っておけなかった。


あの子は両親が疲弊していくのを他所に、自分が幸せになるのが許せないと思っている。


きっと、今までも両親に心から愛情を与えられてきたのだろう。


でもそれが逆に、彼に余計な罪悪感を芽生えさせ続けたんだと思う。


たぶん今のままじゃ、お父さんを探せたとしてもあの子は自分の体を傷つけ続ける。


それじゃ意味がないと思った。


ここで出逢ったのも何かの縁だと思うから、せっかくなら完璧にあの家族を助けたい。


そう思った。


虎肉を食べない理由を話した時のあの切なげな眼、


あの子も、どこかでは楽になる事を望んでいるように感じた。


だとすれば、あの子が抱えてるものが軽くなって欲しい…


そう思ってしまった事を、ふつふつと後悔し始めている。


「どうにかしてあげたい、マジで早く助けたい」


そう考えばかりで居ても立っても居られなくなったいる。


かといって、ああ言ってしまった手前今さら無償で探しにいくのは気まずい、


「本当に、お願いだからご飯食べにきて…」



アイラが去った後も、男の子は変わらず母親の看病を続けていた。


「ごめんね母ちゃん、惜しい人を逃がしちゃった…」


そう言いながら使い古した雑巾で水を絞り額を冷やしてあげた。


「本当に人が見つからなかったら、最悪おれが…」


「リュ…カ…」


男の子の横から、微かな母親の声が聞こえてきた。


「母ちゃん!!!」


リュカはすぐに母親の元へ飛び込む。


「母ちゃん、安静にしてないと駄目だよ、ほら、もうすぐ父ちゃんが薬草持って帰ってくるから」


「リュカ…あんた、ちゃんとご飯は食べているのかい…?」


「そんな、何言って…当たり前だよ」


その時、リュカのお腹は隠さずに大きな悲鳴を上げた。


「っ、こ、これは…!」


「いいんだよ、たふらく食べても」


「え?」


母親は優しい声で、撫でるようにそう言った。


「ごめんね、さっきのお客さんとの話、聞こえてたんだ」


「…そう、なんだ。でも大丈夫!他に優しい人はきっといるから!」


リュカは言い聞かせるようにそう話した。


そこに、母親は優しく諭す。


「いいんだよ、本当に、あんたはまだ小さいんだから、そんなに無理をしなくって」


しかし、それを聞いてリュカは固まった。


「そんな、こと…言わないでよ、おれ、本当に大丈夫だから、最後まで母ちゃんと一緒に、その病気と戦うから!だから!!!」


「うんうん、違うの、母ちゃんは、父ちゃんも、リュカが健康で、幸せでいてくれるだけでいいんだよ」


「でも母ちゃん!!!」


「リュカ」


母親はリュカの頭を、優しく、そっと撫でてあげた。


「母ちゃんね、本当は毎日辛いんだよ、辛いし…苦しい。でも、今みたいに頑張っていられてる、なんでだと思う?」


「それは…母ちゃんが強いから」


「うんうん、そんなことない、母さんはこう見えてとっても弱いんだ、だけどね」


母親は頭を撫でている手を使い、リュカを自分のすぐ側まで引き寄せてこう言った。


「リュカ、あんたが、いつも元気でいてくれるから、母ちゃんも頑張っていられるんだよ」


「….…!!!!!」


母ちゃんの、その言葉が耳に届いて、リュカの瞳に涙がこみ上げてきた。


「だから、リュカにはこんな時でも、元気でいてほしな」


「………うん………うん………!!!!!!」



突然、あの家の扉が勢いよく開いて、同時にあの子が全速力でこちらに駆け抜けてきた。


その表情はさっきまでの蔑んだものとは違う、晴れやかに澄んだ表情をしていた。


そのまま、私の目の前まで走って止まった。


「はぁ、はぁ、良かった、お姉ちゃんまだいた」


私は驚きながらも、すぐに冷たいふりをしてこう訊いた。


「どうしたの、まだ何か用?」


「はぁ、はぁ、お姉ちゃん、さっきの肉!ちょうだい!!!」


その言葉が聞けて、私の心は一気に晴れ晴れた。


「オッケー、待ってなさい!!!」


私はすぐにランスコールを発動させ、それでくし肉にしておいた虎の肉を男の子に渡した。


よっぽどお腹が空いていたのだろう、男の子はもの凄い勢いでそれを食べつくした。


「ぶっっはー、ごちそうさまでした!!!!!」


男の子は元気よくそう言う。


「ふふ、お母さんの事はいいの?」


「…うん、母ちゃんだってきっと、おれが苦しんでるとこ、見たくないと思うから」


男の子は迷いなくそう答えた。


この一瞬で何があったのか知らないけど、これならもう心配はいらなそうだ。


「…分かったわ、前言撤回よ!」


「え!?」


「貴方のお父さん、絶対に見つけてきてみせるわ」

リュカのお父さんの捜索が始まる


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