135話 想定外の事態
「どういう事ですか!?」
ギルドの受付に向かって、私は勢いよく怒鳴った。
坑道から脱出した私は、ひとまず街の中に入り、キルたちの行方を探そうとした。
だが住民たちで賑わう街中で、特定の3人を見つけるというのはやはり至難の業であり、案の定一向に見つかる気配がないまま1日が過ぎた。
だんだんと日も暮れてきたが、お金は持っていなかったから仕方なく一度街を出て野宿した。
次の日私は作戦を変え、彼らの名前が登録されているギルドの受付に向かった。
そこの人ならキルたちの居場所を知っているか、そうでなくても待機するだけで会えると思ったからだ。
だが、そこで受付から全く想定外の話を突きつけられた。
「キル?どなたの事でしょう?」
「え?どういう事ですか!?」
突然そんな事を言われて、意味がわからないのは当然のはずだ。
なにせ私は確かにこの受付からのクエストであの坑道に入ったし、それにはここでパーティーとして登録されている必要があるはずだからだ。
だから言うまでもないが、受付がキルたちの事を知らないというのはあり得ないのである。
「よく調べてください!いるはずです!キル、ソナ、レイの3人のパーティーが!」
私は受付に何度もそう催促したが、返ってくる回答は同じ。
何度調べてもそんなパーティーは存在しないというものだった。
一体何が起きているだろう、何かがあって、記録が抹消されたとでもいうのだろうか?
冗談で言っている訳ではないのは明白だ。
他の受付に聞いても同じ答えが返ってくるだろう。
「ところで、あなたこそ誰なんですか?」
「は?」
こんな中で、この受付は更に衝撃的な事を言ってきた。
「だからさっき言ったでしょ!?私はアイラ、アイラよ!!!」
「先程からその名前も調べているのですが、こちらも記録にありません」
「ちょっと待ってください!!!私は確かにここに戦士として登録されt…」
そう言いかけて言葉を詰まらせた。
私が登録されていたのはキルたちのパーティー、キルらの記録が無いなら私の記録も無くなっていると気づいたからだ。
「ここは神聖なギルドの窓口、戦士以外のヒトが入っていい場所ではないのですが」
「…………」
私はこの後、これ以上の言い争いは無駄だと理解して何も言わずに受付から出ていった。
それからしばらく、私は徘徊するように街を彷徨った。
目的もなくただただ歩いていたが、それも意味がないからやがて立ち止まって空を見上げた。
「あ〜あ、なんでこうなっちゃったのかなぁ」
ふと、ソナが話していた事を思い出す。
『この国ではその戦士がものすごく重宝されているのよ、戦士になっちゃえば例え戸籍がなくても生活するだけなら普通にできる』
言い換えればそれは、戦士でなくなれば何もできなくなるという事なのかもしれない。
私がこの国で普通に街を歩けたのも、私が曲がりなりにも戦士として認識されていたからだろう。
だからもし、本当に私の戦士という肩書きがキルたちのパーティーごと消滅しているとすれば、そして、それが周囲に認識されでもすれば…
私がこの街から追い出されてしまうかもしれない、いや、それどころか不法侵入で逮捕なんて事もあるかもしれない。
「もしそうなったらどうなるんだろ、戦士と偽った罪で死刑とかになるのかな…」
考えれば考えるほどネガティブな憶測をしそうになったから、これ以上の思考はやめた。
「でもマジでこれからどうしよ?」
半分投げやり気味に背筋を伸ばした。
「あの〜…」
「!」
そんな時、突然後ろから1人の男が話しかけてきた。
「すみません、もしかしてお嬢さん…今お仕事を探していらっしゃる…」
妙に粘り気の強い声でそう聞いてきた。
「はい…まぁそうですけど、」
「あ、でしたらよろしければぁ、私の話を聞いていただけないでしょうかぁ〜、勿論お金は弾みます」
これは…明らかに何か怪しい仕事をさせようと勧誘してきているのだろう。
この世界にもこういう事をする輩はいるんだなと一瞬呆れたが、同時に自分は運が良いとも思えた。
正直、このまま当てもなく街を歩いていても、どうせろくな仕事が見つからないのは目に見えていた。
だったらこの際、闇バイトにでも1発手を染めた方がいいのではと思ったのだ。
だから、取り敢えず話を聞いてみる事にした。
「話って、何をして欲しいんですか?」
「はい、実はこの辺りに[アクアドラゴン]というドラゴンが生息していてぇ、私それを討伐するクエストを受けているんですぅ〜、ですが私ではそれを倒せるだけの力がなくぅ、それをあなたに協力してもらいたいのですぅ、勿論、報酬の半分をあなたにお渡ししますのでぇ」
…なるほど、私のように職を失くした戦士の弱みに漬け込んで、自分は何もせずに美味しい蜜だけを吸おうという魂胆か…姑息ね。
それにアクアドラゴンか…明らかにあの蛇や蜘蛛よりも強そうな名前だ。
とはいえ、受けない訳にもいかないだろう、このチャンスを逃せば、いずれ本当に餓死してしまうかもしれない。
「わかりました、その依頼、引き受けます」
「!本当ですか!ありがとうございます!ではこちらを」
男は例の端末を手渡してきた。
「そちらにアクアドラゴンの生息地と簡単な種族情報を記載しておきましたぁ、では、頑張ってください」
男はそれだけ言って、私の元から去っていった。
「…アクアドラゴンねぇ」
私は端末のから反射している自分の顔を見て、心底哀れな気分になっていた。
「闇バイトとか、落ちるところまで落ちたって感じねぇ」
本当に、異世界に来てから碌な事が起きてない。
初めはチート能力で無双して、エロい女子たちとイチャイチャハーレムができるものとまで夢想していたが…
思ってたのと違う…というのが、この時の正直な感想だった。
しかしこれが、あの悪夢への布石となってしまう…
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