131話 初めてのクエスト 1
「着いたぞ、ここが…今回依頼されたモンスターの住むダンジョンだ」
キルがそう言った目の前には、闇の彼方まで続いているのではと思わせるほど、地平線の先が真っ暗な、巨大な坑道が広がっていた。
「行くぞ」
キルのその一言で、他の2人も坑道の奥へと入っていった。
私も躊躇いながらそれに続いて奥へと入っていく。
「……!!!」
坑道の中は、血の気が混ざったような赤い砂の上に、もう使われなくなったトロッコの線が敷かれ、申し訳程度に壁沿い置かれたランタンのみが灯りとして存在するだけの、闇夜の地平線とでもいうような場所だった。
だが道中のソナたちの話しによれば、この真っ暗な坑道の中にも、いや、こういう空間だからこそモンスターが多く住み着いているようで、道の隅から突然襲いかかる事があるという。
そもそも今回の依頼…任務自体、この坑道の最奥に住み着いている[スパルダル]というモンスターの眼を採取するのが目的なのだ。
「スパルダル…どんなモンスターなんだろ」
「ぼさっとしてねぇで行くぞ」
不意に呟いた私の言葉を阻害するように、キルは先に進むよう指示した。
だが今の呟きが聞こえていたのか、ソナが歩きながら私に近づいてスパイダルの説明をしてくれた。
「スパイダルっていうのは目が4つ、腕と同化した足をもつ大型のモンスターの事、簡単にいうとね。節足型ともいうけど」
「へぇ〜」
話を聞いた限り、前の世界でいう蜘蛛に相当するモンスターだと予想した。
「おい、前むけ!」
キルが突然声を荒げ、私たち全員の気を引き締めさせた。
私もそれに釣られて彼の方を見てみると、そこへムカデのようなモンスターが迫ってきているのが見えた。
これは…初めてのパーティでの戦闘イベントだろう。
「おい、さっさと構えてコイツ終わらせるぞ!」
キルはそう言って手元からタブレットのようなものを取り出し、その中から剣を出現させた。
「!!!」
当然、見たことのない技術に私は驚く。
そして他の2人も、同じようにタブレットから武器を取り出していた。
どうやら、これがこの異世界の技術力のようである。
…しかし、私のように無から武器を生み出す事はできないようだ。
それができるなら態々端末を一度取り出して、その中から新たに武器を取り出すなんて二度手間をするはずがないからである。
だったら、少なくともこの中でそれができるのは私だけなのではないか。
だとすれば、これは私がこのパーティの中で一際異彩を放てるチャンスなのではないか。
ここから異世界無双が始まるかもしれないかもしれないと考えると、気分が上がる。
私はその気分に従うがままに、キルよりも前に飛び出した。
「!おい!」
「任せて!ここは私が!!!」
私はナイフを生成しながら、勢いよくムカデに切り掛かった。
「はぁ!!!」
ナイフの鋭い刃先はムカデの胴体を切り込んだ。
……だが、その結果はムカデを僅かに出血させただけで、倒すことなどできなかった。
「は?」
そのまま、私を餌にかかった魚とでも言うように、その胴体を震わせて襲ってきた。
「え?え?え?」
「ちっ、めんどくせぇ」
そこにキルが私の前に飛び出してきて、手に持った剣で同じようにムカデの胴体を切り刻んだ。
「ピシャアアアアアアアア」
だがその反応は私の時とは明らかに違った、確かに斬撃に怯み踠いているようにみえた。
「アイラさん、一度離れていてください!」
続けてレイが飛び出して、タブレットから杖を取り出してムカデに構えた。
「[サイクロン]」
レイがそう叫ぶと、杖から激しい突風が放出され、その力でムカデを壁に激突させた。
「そしてトドメ!!!」
更に畳みかけるように、ソナがタブレットから弓矢を取り出し、力強く弦を引き絞った。
「[ライトアロー]」
ソナは叫ぶと同時に矢を放った、その矢は目で追うのが難しいほどの速度で射出され、傷ついたムカデの胴体に深く突き刺さった。
そして、ムカデは動かなくなった。つまり倒したのだ。
「す…すごい…」
私が思わず放心し、ただただ感心していると、
「なにしてんだよテメェ!!!」
キルがもの凄い剣幕で怒鳴ってきた。
その勢いを殺さないままに、私に近づいて胸ぐらを掴む。
「テメェ、弱ぇんだったらせめて足手纏いにならないようにしろ、でしゃばるな」
至近距離まで見えるキルの顔は、鬼か何かのように恐怖心が湧き上がってくるようで、私はただ萎縮するしかなかった。
「す…すみません…」
「ちっ、」
キルは放り投げるように私を降ろすと、そのまま坑道の奥に進んでいった。
「あ、ちょっとキルさん!」
レイが咎めようと動いたが、キルは「うるせぇ」と一蹴し構わず先に進んでいった。
仕方なく、レイもキルについていく。
「大丈夫…?」
ソナが心配そうに私に駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫、平気。出しゃばった私が悪いのは間違いないし」
そう、実際キルの言った事は何一つ間違っていなかったから、私は黙ってただ立つ事しかできなかった。
「…ごめんね、本当に根は良い人なんだけど」
「本当にいいの、気にしてないから」
だけどそれでも、ついさっきまで自身に満ちていただけに、自分の実力を自覚して、パーティの邪魔にしかならなかった事を自覚して、その事実を直視してしまって、情けなくて、歩幅が狭くなった。
他人を知り、己を知る…ここまでならよくある話なんですけどね、、、
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