130話 ギルド
優しげな小鳥の囀りに起こされ、朝、私は目を覚ました。
私の全てを包み込んでくれるような快適な部屋の中、取り込まれそうなくらい心地よいベットの上で、昨日私は眠った。
「あら、もう起きたの?」
部屋の外からソナの声が聞こえた。
そう、ここはソナの家だ。ソナは私をギルドに入れてくれるだけでなく、家にまで泊めさせてくれたのだ。
本当に、心から感謝しかない。
「うん」
「そう、じゃあ私待ってるね、準備ができたら言って、ギルドパーティーと顔合わせする準備が」
ソナはそう言って、この家の食卓に向かっていった。
「……ギルドかぁ」
私は不意に独り言を呟く。
この世界に来てから、日にちにして大体3週間、色々な事があったけど、その全てに未だに慣れる事ができない。
「まさか家帰ってギャルゲーか深夜アニメ観るかしかしてなかった私が、異世界のギルドに入る事になるなんてね…」
本当に、慣れないし信じられない。
そんな事を考えながらベットから起き上がり、クローゼットから服を取り出して着替えてから、ソナの待つ食卓へ向かった。
「おはよう」
ソナの家は二階建て、私が階段を降りてすぐのところにある食卓へ着くと、それとほぼ同時にソナが挨拶をしてくれた。
「うん、おはよう」
私もそれに答え、既に並べられていた朝食の列に目を向ける。
「えぇ〜すごぉ〜い、これ全部1人で作ったの?」
それは、控えめながらも確かな存在感を放つフレンチトーストに、色とりどりの山菜が使われた野菜、痒いところに手を届かせるコーンスープがそれぞれ人数分机に置かれていた。
私はろくに自炊をした事がないから分からないが、恐らく朝早くに起きて、私が起きる前に手早くこれを準備するのは相当大変だっただろう。
私を泊めたのも突然決まった事の筈だし、本当に凄い。
「別にこれくらいそうでもないわよ、じゃ、早速食べましょう」
ソナは横に流すようにそう言った。
「それで、ギルドの話なんだけど、」
2人が席に座り、朝食を口にし始めてしばらくしてからソナが話しかけてきた。
「昨日あんまり詳しく説明してなかったから、ここで説明するね」
確かに、大凡の想像ができるとはいえ、詳しい説明はされてなかったな。
あの後も2人で会話して、お互い名前で呼び合えるくらいには距離が近くなったけど、それに惑わされて全く気がつかなかった。
「ギルドっていうのは、この国独自の戦士のシステムの名前なの、昨日もいったけど、この国は戦士を病的なくらい重宝しているの、それだけに人数も膨大な数になってきたけど、それを一括で管理できるシステムが作られる事になった。それがギルドなの」
「なんか紙みたいなのが貼られてたし、あれで戦士に仕事依頼させてるの?」
「お、よく分かったわね。そうなの、外国では戦士はマスターっていう役職の人から仕事を貰うんだけど、ギルドではあの紙、[クエストボード]に書かれてるものから選んでいくの」
「なるほど、その依頼を達成して報酬を貰うってわけね」
なるほど、大体のシステムは理解できた。
私の想像していたものと同じ認識で問題なさそうだ。
「後[ランク]とか色々説明しないといけないのがあるんだけど、それは追々言っていくわ」
「オッケー、ありがとう」
その後、私はかぶりつくように朝食を食べた。
ソナの作ったご飯が美味しいのもそうだが、それ以上に、久しぶりにまともな…それも仲良くなれた人と一緒に食べられるというのが、心から嬉しかったのだ。
ご飯を食べ終えた私は、ソナに言われて、早速ギルドとしての仕事をする事になった。
その仕事の事を[クエスト]と呼ぶらしく、クエストをする為に先ずはギルドメンバーと顔合わせをする事になった。
少し人里から離れた森の中で、ソナと一緒にギルドのメンバーを待っている。
「いつもこんな所でメンバーを待つの?」
「いや、今日は顔合わせの後そのままクエストに行くからね、普段は集会所で終わらせるわよ」
「なるほど」
そんな事を話していると、遠くから私たちに向かって歩いてくる2人組が近づいてきた。
「あ、来た来た」
どうやらあれがギルドのメンバーのようだ。
「おーい」
ソナが手を振って私たちの居場所を伝える、2人はそれに従って更にこっちに近づいてきた。
「?なんだコイツ」
1人の、体格は控えめだが筋肉質な少年がガンを飛ばしてきやがった。
「紹介するわ、この子が昨日ギルドに新しく入ったアイラって子」
「あ、よろしくお願いします」
一応失礼にならないように、深くお辞儀をした。
「ふーん、俺らの足だけは引っ張んなよ」
少年はそう言って私から離れる、あまりいい気分はしない。
「すみません、[キル]はちょっと気が強くて、でも根は良い人ですよ」
私にそう話しかけて来たのは、緑色の長髪、少し幼なげな印象を持つ美しい顔つきをした少年だった。
「僕は[レイ]、よろしくお願いします」
さっきのキルとかいう奴とは違い、丁寧な挨拶だ。
3人とも、見た目的に歳は16歳くらい、つまりこの子は見た目歳下である私にも礼儀正しく接しようとしているという事だ。
「うんうん、大丈夫です。あ、私アイラっていいます。よろしくお願いします」
だから私も丁寧な返答を返して、軽く会釈をした。
「よし」
と同時に、ソナが景気よく両掌を叩いた音が聞こえた。
「これで顔合わせ終わり、早速クエストに行きましょう」
ソナが優しくそう言うと、キルが邪魔をするように突っかかってきた。
「なにお前が仕切ってんだよ、このパーティのリーダーは俺だぞ」
「ごめんごめん」
だがそれを、ソナは慣れた手つきで躱した。
いや、冗談で済ませたというべきだろうか。
「とにかく行くぞ」
キルはそう言って2人を森の奥まで連れて行った。
「あ、待って」
私も少し遅れてそれに着いて行く
「着いたぞ、ここが…今回依頼されたモンスターの住むダンジョンだ」
キルがそう言った目の前には、闇の彼方まで続いているのではと思わせるほど、地平線の先が真っ暗な、巨大な通路広がる坑道だった。
ここが…私の、ギルドとしての…そして、異世界に来て初めて、「人らしい事」をする場か。