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129話 ケルシア帝国

天使のように優しく手招きしてくれる少女に着いていった先で、私は、この世界では見ることのないと思っていた景色を見た。


「す…すごい…」


それは、見るからに頑丈な鉄で作られた、一つの巨大な門であった。


一見無防備にも全身を開けているように思いきや、どこか外からのものを拒むかのような気配が感じられた。


それは、紛れもなく人の気配を漂わせたものだった。


「貴方、強い?」


「え?」


少女は突然、よくわからない事を聞いてきた。


「誰か敵と戦う事になっても、十分にやれるくらいの強さはある?」


そんな事をいきなり言われてもよく分からない。


「闘う…まぁ、森で熊とかと戦ったし、はい!大丈夫だと思います!」


よく分からないが、ここで闘えると答えないと街に入れてもらえない気がしたのでそう答える事にした。


「そう!じゃあ大丈夫ね」


少女は了承したようにそう言って、再び私を手招いた。


恐らく門番であろう男性2人と中に入れてもらえるかの交渉をした後、そのまま私を街へと連れて行った。


「ようこそ!ケルシア帝国へ!!」


少女がそう言ったと同時に、私はその街の景色に圧倒された。


レンガ状の建物が犇めき合う中世ヨーロッパ風の街並み。


そこで多くの人々が生活している様子が確認できる華やかな様子。


どれをとっても、この世界に来てからは見る事を諦めていた人間の文明で、そんな当たり前を見る事ができた私の瞳に涙が込み上げてきた。


「すごい…こんな光景…また見る事ができるなんて…」


少女はそんな私を見て微笑みながら、「貴方、帰るところないんでしょう?」と聞いてきた。


「はい!」


私は一瞬、少女の家に泊まらせてくれる事を期待して大きく返事をした…が、すぐにその口を止めた。


「いや…でも、そもそも私、さり気なくここに入っちゃってますけど、いいんですか!?その…入国許可書みたいなやつなんて持ってないですし、それに!いくらなんでも見ず知らずの他人にそこまでの事をさせるなんて、不味いですよ!」


あのまま話を進めれば、少女は私を家に泊まらせてくれそうな雰囲気だった。


正直それは願ってもない事だし、住む家が見つかるのは私としても本望だ。


でもだからといって、私と少女は会って1時間も経ってないような関係だ。


赤の他人も同然のようなものなのに、いきなりそこまでの事をさせるなんて流石に申し訳がない。


それにそもそも、戸籍云々も大丈夫なのかという話にもなる。


「あぁ、それについては大丈夫よ、この国では許可証なんてなくても住んでいける手段があるし、そうなれば、貴方が望むように、自分の家もすぐ建てられるわ」


少女は微笑むそう言った。


「え…?それってどういう…」


私の質問に、少女は優しく答えた。


「この国はね、[戦士]の存在が最も重要視されているの」


「戦士?」


「依頼を受けてモンスターと戦って、その報酬で生計を立てる職業のこと、私もその1人なの。でね、この国ではその戦士がものすごく重宝されているのよ、この職にさえつけば人生安泰…って言えるくらい」


「そう…なんですか」


「そう、[ギルド]っていう独自のシステムを国の主導で作っちゃうくらいにはね」


ギルド…なるほど、その言葉で戦士というのがどういったものなのか、大凡の想像をする事ができた。


「とにかく戦士になっちゃえば例え戸籍がなくても生活するだけなら普通にできるから、大丈夫よ」


少女は常識を語るようにそう言った。


そんなに凄いものなんだ…戦士って、


もし私が初めからこの世界に住んでいたら、心の底から仰天するような事を言っているのが雰囲気で感じられた。


だがそんな話をわざわざすると言う事は、私に戦士になれと言っているんだろう。


「つまり、私にその戦士というのになれと言う事ですか?」


「そうなるわね、それが貴方がここで生活する唯一の手段みたいなものだから。けど、戦士は常に命の危機に晒されるような仕事なの、だから無理になれとは言わないわ」


少女は途端に深刻な表情をして私にそう言った。


この豹変ぐあいから、本当に危ない仕事なんだと言うのが十分に伝わってくる。


だからさっき私が強いかどうかを聞いたんだろうなと、今になって思い出した。


それでも、生きる手段がそれしかないのなら…人間らしい生活をする手段が、それしかないのなら…


「いいえ、やります。もう森での生活は懲り懲りですから」


私は晴れ晴れた顔ではっきりと、少女に意思を伝えた。


その姿を確認した少女は、頷くように微笑んだ。


「分かったわ、付いてきて」


少女は私をある場所に連れて行った。


その方向の先には、街に入った時から遠くに見えていた、王宮のような建物があった。


「あら、またトマト高くなってる」

「近頃物価高だしねぇ」


少女に連れられている間、私はようやく冷静になれたのか、今まで気づくべきだった事にようやく気がついた。


街の人達が何を言っているのか、分かるのである。


勿論あの人たちだけではない、さっきからガヤガヤと聞こえる話し声の内容が、耳を澄ませさえすれば全て聞き取る事ができるのだ。


これは…一体どういう事なのだろうか。


その時、脳裏が私に教えるようにある事を思い出させた。


『〔レベルが9になりました。新たなアビリティ、[オートトランスレート]を会得します〕』


オートトランスレート…オートは日本語で自動、トランスレートはたぶん翻訳って意味のtrancerate…だとすれば、


もしかすると、レベルが9になった段階で、この世界の言語が分かるようになったのかもしれない。


かもしれないと言うより、現状そうとしか考えられないだろう、通りで9で手に入れた能力だけ使い方が分からなかったわけだ。


だとすると、もう私はこの世界の住民と一緒に胸を張って生活する事ができるのかもしれない。


そんなタイミングでこの子が私に声をかけてくれたのは、本当によかった。



少女に連れられ、やはり私は王宮のような建物の中に連れてこられた。


入り口の扉を超えると、そこには多くの人が集まって賑わう居酒屋のような空間が広がっていた。


正面には受付嬢のような女性が2人ほど、透明なガラス越しに待ち構えており、部屋全体に何かが記された紙が貼られている。


「ちょっと待っててね」


少女はそう言うと、受付嬢の元へ向かっていった。


「おう、お前サーペントの討伐なんて受けるのか?」

「あいつ強いんだよな〜」

「でもその分、報酬はワンサカ貰えるぜ!」


分かる、やはりここにいる人たちが何を話しているのかが聞き取れる。


会話の内容からして、ここが私の想像するギルドで間違いなさそうだ。


「終わったわよ〜」


そうこうしている内に、少女は私の元へ戻ってきた。


「終わったって何がですか?」


「ギルドの登録よ、とりあえず貴方には私が所属してるパーティに入ってもらうわ、大丈夫?」


「あ、はい、大丈夫です」


ギルドの登録ってそんなすぐに終わるものなんだ…


「それより…本当にいいんですか?」


「なにが?」


「だって…なんの用もなくあんな森には行かないでしょう?本当は、私なんかより大事な用事があったんじゃ…」


「あぁ、大丈夫大丈夫」


少女は軽々しくそう言った。


「私あの森にお姉ちゃん探しに行っただけだから」


「え?じょあ尚更…」


少女はそんな私の言葉を遮って続けた。


「いいのいいの、お姉ちゃんも戦士なんだけど、そこまで強くないのね、だから偶々ちょっと心配になって森まで言ったってだけ、今考えれば私の方がバカだと思ってるわ。そこまで心配する事ないのに」


「そ…そうですか、」


だがそれは、お姉さんの事本気で想ってないと心配しようともならないはず。


「大事なんですね、お姉さんのこと」


「まぁ人並みにはね」


少女は謙遜するようにそう言った。


「で…では、これからよろしくお願いします…遅くなりましたが、私…」


その時、私は自己紹介として、普通に自分の名前を言おうとした。前世の時と同じ名前を…


だがその瞬間、私の口は操られたように無意識に動き、気づけば自分の事をこう名乗っていた。


「アイラです、よろしくお願いします」


「アイラちゃんね、私は[ソナ]、よろしく」


ソナは私に、森で私に差し伸べた時と同じように、暖かく手を伸ばしてきた。


「はい、よろしくお願いします!」


私もそれに応え、ソナと深く握手を交わした。

この後、結局ソナの家に住まわせていただく事になりました。


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