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128話 レベルアップ

〔レベルが4に上がりました。新たなアビリティ、[スゥインサイン]を会得します〕


私は大きな鷹のようなモンスターに挑み、勝利した。


空を飛ぶ相手と戦うのは中々に厳しかったけど、何とか相手の行動の法則性を見抜いて勝つ事ができた。


「いい感じ、だんだん戦い方のコツが分かってきた、いける…!」


この調子で更に私はこの世界の生物たちに挑んだ。


この世界で生きていく為には、私の力は弱すぎる


モンスターっていえばいいのかな?動物に相当するであろう生き物もみんな凶暴で強いし、反面私自身の身体も前の世界より格段に強くなってる。


それは恐らく、この世界自体が前の世界とは比べ物にならないくらい危険で、この身体はそれに合わせて進化して出来たものだからだろう。


もしかすると人間に見えるこの身体は、本当は本質的に人間とは全く違う種のものなのかもしれない…


そんな世界で何の知識もなく生きていくには、やはり私の体自体をもっと強くするしかない。


幸い、私にはレベルアップという便利な力がある、これがあの子の言っていた力だとしたら、この世界でも、他の人には無い力なのだろう。


効果はRPGとかのレベルアップとほとんど同じ、たぶん私の中に経験値のようなものが内蔵されていて、それが一定数溜まるとレベルが上がるって仕組みなんだと思う。


〔レベルが5に上がりました。新たなアビリティ、[サーチフード]を会得します〕


少なくとも、ただ敵を倒せばレベルが上がるってわけではないと思う。


実際、昨日大型犬のような奴を倒したけど、そこではレベルが上がる事はなかった。


〔レベルが6に上がりました。新たなアビリティ、[エアーセーブ]を会得します〕


逆に敵を倒さなくても経験値は溜まっている可能性もある。


これはゲームなんかの仕様とは違うところかな。


さっきこの世界(ここ)へ来て初めて初めてお魚を食べたけど、そこでもレベルが上がった。


〔レベルが7に上がりました。新たなアビリティ、[ワンスアボイデンス]を会得します〕


これらの情報を私の仮説に当てはまると、経験値は文字通りの経験値で、新しく何かを経験する度に増えていくものだと考えられる。


ただ敵を倒すと経験値が増えやすいというのは間違いなさそう、事実ここまでレベルが上がった瞬間のほとんどは敵を倒した直後だ。


〔レベルが8に上がりました。新たなアビリティ、[ダークサーチ]を会得します〕


だけど、文字通り経験によって経験値が増えていくなら、ただ生きているだけでも増え続けているのかしら?


まぁそうだとしてもどうせ大した稼ぎにはなっていないのだろう。


この辺りは考察してもあまり意味のない気がしたから、深くは考えない事にした。


そんな風にして何とか生きていた私の視界に、偶然あるものが映り込んだ。


「これ…死んでる…?」


それは間違いなく、全身を打ち付けられた人間の女の人の死体が倒れていた。


激しい雨に全身が晒されながらも、尚指先一つ動かないその姿は正に骸そのものだった。


異世界に転生してもう3週間が経つが、人間の死体を見たのは初めてだ。


「誰かに…殺られたのかな…」


その時、遠くからこちらへ向かって段々と、大地を震えさせるような足音が聞こえてきた。


間違いなくそれは、私よりも遥かに大きな、だけど聞き覚えのある音だった。


「もしかして…貴方がやったの…?」


その足音を聞かせたまま、私の目の前に現れたのは、以前私を襲った、初めてここに来た日に私を襲った、あの熊だった。


「ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」


威嚇するように荒々しい叫び声を轟かせる。


コイツがこの人をやったのかどうかは分からないけど、少なくとも今私は敵として認識されている事は間違いなさそうね。


「ガルルルルルルルル」


熊は喉を振動させた静かな唸り声を聞かせながら、詰め寄るように私の周囲を歩いている。


「けど、あの時より私は見違えるくらい強くなってる…はず…だから、負けないわよ」


その瞬間、熊は勢いよく飛びかかり、全体重を持って私にのしかかろうと仕掛けてきた。


「アビリティ、ワンスアポイデンス!!!」


私は脳内に聞こえてきた技名を特撮ヒーローかの如く叫びながらそれを発動した。


効果はもう知っている、この技は相手の攻撃を1発だけ確実に避ける事ができるらしい。


それを利用して熊の背後まで回り込み、すかさずナイスを生成して熊の右足に突き刺した。


「ガグググ」


刃物で足を突き刺された痛みが回ったのか、熊は声を震わせて苦しみだした。


「よし、良い感じ!」


その後、私は熊から一度距離を離し、今度は右拳に力を込め始めた。


「あと一撃…次の一撃で決める!!!」


私は渾身拳を発動し、そのまま熊の背後へ走り詰めて行った。


「ああああああああああああああああああああ!!!!」


だが熊もすぐに振り向き、私を迎え撃とうと大木のような両腕を振り下ろしてきた。


「けどその腕が当たるより前に!お前を仕留めればいいだけのこと!!!」


有言実行、熊の両腕が届く前に、私は熊の鳩尾に渾身拳をぶつけた。


静かに鳴り響く雨音の中で、その衝撃音が辺りに激しく鳴り響いた。


そのまま、熊は背中から地面へ仰向けになりながら、強く衝突した。


しばらく待っても、どれだけ待っても、熊がその後動く事はなかった。


「はぁはぁ…勝てた…また…あの熊に…」


この瞬間、私は確信した。


強くなっている、この世界で生き抜く為に、確実にレベルアップしていっているんだと。


〔レベルが9になりました。新たなアビリティ、[オートトランスレート]を会得します〕


そう、確信できた。



その後も、私は変わらず森林での生活を続けていた。


前世の暮らしとのギャップから初めは慣れない事も多かったけど、それも時間とともになくなっていった。


今では能力の存在もあって、利便性の面で前と然程変わらないんじゃないかと思えてきたぐらいである。


そんな中、ある日私は1人の少女と偶然出会した。


「貴方…どうしたの?こんな所で」


少女は私と同い年くらいで、森の中服を汚しながら1人で獣の肉に頬張っている私を不思議そうに見つめながらそう言った。


だが私はそれ以上に、その少女を凝視していた。


「言葉が…分かる…?」


「何言ってるの?貴方…何…?」


また聞き取れた、間違いない、何故か私はこの人の言っている事は分かるようだ。


「どうしたの?急に泣きそうな顔をして」


「え?」


気づかなかった、確かに今目元の辺りに涙が上がり込んできていた。


言葉が通じないと分かった以上もう誰かと話す事はできないんだと暗黙的に思っていたから、こうして会話ができて嬉しかったのだろう。


やっぱり私も、寂しかったのかもしれない。


「いえ、何でもないです」


私は涙を引っ込めて少女の顔を見た。


こんなチャンスもう二度とないだろう、今の内に何か助けを求めておかないと。


「あの!」


「なに?」


「私…えっと、その、住む家も場所も無くって…なんていうかその、家等…紹介していただけないでしょうか?」


とはいえ私の話術では、この聞き方が精一杯だった。


今思えば本当に終わってるなと思う、もっとちゃんとした聞き方があったはずだ。


だが少女はこんな私の話にも、真摯に向き合ってくれた。


「住む場所がない!?それは大変…分かった」


少女は思いついたようにそういうと、私にそっと手を差し伸べた。


「私に付いてきてくれる?」


その時の少女の、光そのもののような眼差しは、今もずっと忘れる事なく私の脳に焼きついている。


本当に、太陽のように思えた。


「はい…!ありがとうございます!!!」


だから素直にその手を掴み、少女が手招く道へ付いて行った。


だがこの時は知る由もなかった。


私のこの選択、この少女の優しさが、後にあの惨事のきっかけとなってしまう事を。

次回、遂に人里へ。


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