121話 比法戦争終戦
サイン軍は、その後すぐにペリウムの占領を完了した。
それにはアイラやセルセなどの最高戦力は使わず、ほぼ俺の新たな力のみで行ったものである事も、敢えて高らかに宣言した。
これにより明白な戦力差を見せつけられ、フレミングはこれ以上の抗戦は無駄だと考えたのか、2日後に比法戦争からの撤退を宣言した。
そしてその14時間後、グリスがロムレスへ降伏を宣言。
10日後にグリスが10億カラーを賠償金として支払う条約が成立し、フレミングも同様に賠償金を支払う事になった。
更に消失したシュメルン共和国の国土の権利はサインに引き継がれる事となり、これを全国家が承認した。
これにて、比法戦争は完全に終わりを迎えた。
戦争によって占領された土地は全て国家に返却され、ナスカンは契約に基づいて恩給が渡された。
ミアの報告により発見されたテオとβの遺体は、それぞれの国家で埋葬された。
だが、敵同士であったはずの2人が揃って国家から逃亡し、最期は共に手を繋いで死亡したという話題は多くの人々に衝撃を与え、2人は愛し合った末に心中したのではないかという憶測が後を断たなかった。
やがてこの2人を題材にした物語が数多く作られる事になるのだが、それは少し先の話である。
一方、サイン共和国の一部の人物たちは、robotの今後について話し合っていた。
彼らが問題としているのは主に2点、
βが最終的に自身の人格を取り戻した点とその過程、もう一つはペリウムでの謎存在の件だ。
あの謎存在についての記録になりうるものは全て削除したので問題はないが、こちら側の調査であれはrobotの魔力によるものだと分かっている。
謎存在となったシオドはヒュドラを喰らって生き残った唯一の戦士であったが、時間経過でその毒が体全体に回り、結果謎存在へと肉体が変貌した事が分かっている。
ヒュドラはrobotの体内にある魔力そのものを他者に吸引させそれを毒として攻撃するアビリティである為、言い換えればrobotの魔力で謎存在が作られた事になる。
ひとまず謎存在を[emergency]と名付けたが、これの誕生経緯が問題なのだ。
ヒュドラの存在から分かる通り、robotの魔力が特別な改造を施した者以外が吸うと毒となる事は分かっていた。
だがそれは、一般的な毒の効果であり、emergencyのような未知の存在に変貌させる効果など、考えすらされていたかった。
だが現実、あの魔力にはそのような効果があった。
そして何より頭を悩ませているのは、emergencyには兵器としての利用が一切期待できない事だ。
サインはあの魔力にそのような効果があると分かってすぐに、emergencyを兵器利用できないか考えた。
だがemergencyには知性がない事が分かっており、その行動原理は目に映ったものをただ殺害するという、言い換えるならただの危険物のようなものだった。
そして現在のサインの技術ではemergencyに知性を植え付ける事は不可能というのが、研究者の意見だった。
サインといえど、兵器利用のできない危険物を野放しにする真似はしない。
すぐにヒュドラのアビリティをrobotの機能から削除しようとしたが、それでは根本的な解決にならない事が判明した。
robotがアビリティを使用する度に、その周辺に微量ながらrobotの魔力を散乱させていた事が分かったのである。
例え微量といえど、それが原因でemergencyが誕生しないとは言い切れず、また科学的にもその可能性は捨て切れないとの事だった。
では魔力からこの副作用を取り除く事が検討されたが、それをするとrobotの兵器としての効果を維持できなくなるとの結論がでた。
現状の魔力でも被験者を完全には支配できない事が分かったのにそれを更に弱めなどすれば、robotそのものが弱体化する事となり、そうなると本末転倒である。
だからといって強めなどすれば更に多くのemergencyを産む事になりかねない。
当然、魔力そのものを変化させればrobotを作る事ができなくなる…
これらの現状をみて、サインはこれ以上robotを運用する事は不可能と判断し、β計画の完全なる凍結を決定した。
これらの情報を記載した後、β記録ファイルも完全に削除された。
ようやく戦争が終わった。
俺は1人、風に打たれながら決意を新たにする。
これでやっと、転生の方法を考える事ができる。
俺のたった一つの希望、それを果たす為の時間が、やっと手に入った。
比法戦争編、これにて完結です!半年間お付き合いいただき、ありがとうございました!!!
次のアイラ過去追放編までしばらくお待ち下さい!!
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