119話 戦士なら、国の為に戦って当然だ。それが例え、どんな姿であったとしても
「ゴホ、ゴホ」
「シオドさん!大丈夫ですか!?」
シオドはペリウムにある病院のベッドの中で、血を伴うほど激しく咳き込んだ。
「はぁはぁはぁ」
「すぐに魔力補助の注射を持ってきます!」
そう言って、看護師の人はしばらく病室を出て行った。
シオドはrobotと戦い、ヒュドラを喰らって生き残った唯一のヒトだ。
だがその毒は見た事のない魔力で作られていて、フレミングの医療技術では治療は愚か、症状を和らげる事すら不可能だった。
シオドは連日異様なまでの高熱と動悸に襲われ、更には体全体に動脈が浮き出ていた。
そして両目が常に青黒く発光し、だが視力に変化が見られるというわけでもなかった。
あの日、鉄の巨人に敗れてから、ずっとこんな調子だ…
熱に曝される息苦しさと、死を予感させるような激しい動悸が、シオドに自分の身体が限界に近づきつつあると痛感させ続けていた。
その事が悔しくなって、シオドは左手で両目を隠した。
戦士として戦って、戦いで死ぬのであれば、戦士として本望…なんて言葉があるが、あんなのは綺麗事だ。
やっぱり…シオドも戦士であるのなら…戦争の、最期の戦いまで…戦士として、戦いたかった。
戦いたかったよ…
シオドの瞳から、一つ雫が溢れた。
「きゃーーー」
その時、外から騒々しい物音と悲鳴が聞こえてきた。
「?なんだ…」
シオドは幕を取り、窓から外を見てみると、そこには高熱すらも冷めるような光景が広がっていた。
何人もの戦士やモンスターがペリウムの街を襲い、泣き崩れるように火が燃え広がっていた。
そして何の関係のない民間人、勇ましくも戦った兵士たちが、無慈悲に殺され続けていた。
なんだ…?この光景は、一体何が起こっている?
その時、勢いよく走る音と共に病室の扉が叩き開かれ、現れた看護師がシオドたちにこう叫んだ。
「いいですか?落ち着いて聞いて下さい!サイン軍がペリウムに攻めてきました!!患者の皆様は我々の指示をよく聞いて、落ち着いて避難して下さい!!!」
それを聞いて、シオドは考えるよりも先に、爆ぜるように病室から飛び出して行った。
「あ!ちょっと、お待ち下さい!!患者様!!!」
看護師の静止はシオドには聞こえず、まるで操られるように病院の外に出ていった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
シオドは周りの様子を見回した。
そこには、やはり地獄のような光景が広がっていた。
全ての人々が、不条理に殺され泣き叫ぶ。
そんな事になっていて…見す見す逃げ隠れていいわけがないだろ…!
「戦士なら、国の為に戦って当然だ。それが例え、どんな姿であったとしても…!!!」
シオドはゆっくりと、だが強く確実に歩を進めた。
これはシオドの…戦士として最後に巡ってきた戦いだ…絶対に、奴らの好きにはさせない。
「俺が、この街を護ってみせる!!!」
その時、6体のゴブリンがシオドに襲いかかってきた。
「ミリッドタイフーン!!!」
だがシオドは、ゴブリン全員を吹き飛ばして倒した。
シオドのスキルは[疾風]。
生涯風に関するスキルしか使えなくなる代わりに、風関連のスキルの能力が上がる。
この力で…全てを吹き飛ばしてみせる…!!!
目の前からゾンビの仮面を被り、ゴルファングに騎乗した戦士が迫ってきた。
ゴルファング…かなり厄介な相手だが倒してみせる、
「ミリッドタイフーン」
シオドはミリッドタイフーンを放ったが全て躱され、そのままゴルファングの剛力で顔面を殴りつけられて吹き飛ばされ、近くの家の壁に激突した。
額から血が垂れ流れ、意識が攫われたように遠のいていく。
やはり、今の自分に戦える力などないのだろうか。
だけど、それでも、せめて最期は戦士として散りたかったんだ…
ドクン
突然、シオドの心臓が、いつもより激しく動悸を起こした。
その瞬間、体全体から押し流されたように魔力が湧き上がってくるのを感じた。
力が漲ってきた自信が湧いてきた活力が蘇ってきた。
これならやれる、いける気がする!!!
その時、シオドの体が青白く光り輝いた。
その状態を疑うことなくただ受け入れ、シオドは光と共に現れた力をその手に掴んだ。
シオドの体は、みるみる変化していった。
巨人のように巨大化し、全身が青黒い外骨格で覆われて瞳は常に青白く発光し、額から口までは白い骨が露出した姿になった。
その様は最早ヒトとは程遠い姿、モンスターとも形容し難い、唯の怪物と呼べる姿だった。
だから何だと思った、もの凄い力を感じるんだ。
この力なら、ゴルファングに乗ったあいつを倒せる、皆んなを救える、戦士として戦えるんだ。
はは、ハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
戦士なら、国の為に戦って当然だ。それが例え、どんな姿であったとしても
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