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117話 レッペル橋事件 後編

「アレス…どうしてここに…」


「君があの2人と何処かに行くのを見たんだよ、その後いつまで経っても戻ってこないから、心配して探してここに来た」


エルナが本当に聞きたかったのはどうやって一瞬でここに来れたのか…だったが、本当はそれもどうでもよかった。


自分を助けに来てくれた…それが心から嬉しかったし、感謝でいっぱいになった。


「ありがとう…」


「それは、此処を脱出できたからにした方がいい」


アレスがそう言った理由もすぐに分かった。


壁に激突されて気絶した男以外は皆、アレスが現れた現状を受け入れ始め臨戦体制に入っていた。


「てめぇ!よくもやってくれたな!!だがそれもここまでだ!!!」

「てめぇはアキラさんの逆鱗に触れた、それが運の尽きだ!!」


「アキラ…?」


その時、ガレージの奥からさっきエルナを背後から気絶した屈強な男がゆっくりと姿を現した。


「テメェ、よくも弟をやってくれたな…」


その男は歩くたびに、大地を震撼させるような地響きを鳴らしているのではと錯覚させられるほどに、男の足踏み1つに威圧感があった。


すぐに感覚で分かった、この男は、エルナやアレスとは比にならないほどの魔力を持っていると、


到底敵う相手ではないと…


「ハハハ!これでお前らも終わりだな!アキラさんは、今てめぇが気絶させた奴のお兄様で、弟の為ならどんな奴でもぶっ殺す、本物の戦士なのだーーー!!!ギャハハハハハハハハハハハ」


それを聞き、エルナは絶望した。


その男たちの話が本当なら、今目の前に現れたのは本物の戦士…という事になる。


勿論あの男たちの言っている事など信用するに値しないのだが、奴から感じられる魔力が、自分は本物の戦士であるとエルナたちに教えていた。


「…そん…な…」


戦士、本物の戦士、自分がかつて盲目的に憧れていた本物の戦士が…自分を襲わせるために立ちはだかっている。


絶望、漠然とそう感じた。


「やったのは男の方だな、殺す…行くぞ」


その瞬間、男は目で追い切れない速度でエルナたちへタックルを繰り出してきた。


2人は左右別々に飛び移るようにしてこれを避けた、それを知った男は地面を殴りつけて強制的にタックルを止めた。


その際、鈍い音と振動と共に、軽々と地面がひび割れた。


「!!」


かとお前ば、回避途中でまだ着地していないアレスへ、男は一瞬で迫り込み、アレス君の首を掴んだ。


「!?アレス君!!!」


「ギャハハハハハ、これで終わりだぜーーー」


「う…あ…ぁ…」


アレスは凄まじい筋力で首を締め付けられている。


苦しそうに足をバタつかせ、視線が不自然に天井を見つめながら、意識が朦朧としていっている。


「くっ…ぁぁ…」


「弟の仇ーーーーー!!!!」


その瞬間、アレスが瞬時に男の背後まで一瞬で移動した。


どうやって移動したのか分からなかった、この場にいた誰も…


だけどアレスは男が驚き、混乱している隙に、剣で背中を切り裂いた。


「ぐああああああああ」


男は激痛に耐えられず地面に倒れた。


アレスはその隙を見逃さず手に持った剣でその男の背中を刺し続けた。


「ぐああああああ、ぐあああああああああ、あああああああああああああああああああ」


そのまま、男は絶命した。


「はぁはぁはぁ」


その様子を見せられて、男たちは何も声を出せていなかった。


正当防衛とはいえ、目の前で平然と人の命を殺めたアレス。


だがエルナにはその事以上に、あれだけの強さを持っていた男を倒してみせたアレスの強さに驚いていた。


同時にまた、自分を悲観して見てしまっていた。


もしかすると既に枯れ果ててしまったのかもしれないが、それでも成りたいと願う戦士…同じくそこを目指しているアレスの才能を目の当たりにしてしまった。


例え自分が、前のように戦士への憧れを取り戻せても、絶対にこうはなれないと思い知らされた。


上には上がいる、それは当たり前の事だけど、それでもいざこうして現実を突きつけられると、どうしようもなく…悲しくなる。


それに、その悲しみを乗り越えて戦士になれたとしても、今殺された男のようになってしまうかもしれない。


そんな事を考えてしまった。


「今だエルナ、ここから逃げるぞ!」


「う、うん…」


エルナはただ頷き、アレスの方へ近づき、2人は離れないよう手を繋ぎながらガレージを出ていった。


その事に、ようやく男たちは気がつき、同時に我に帰って別の仲間に連絡を呼んだ。


「今ガレージから出た奴らを追ってください!奴らアキラさんを刺しました、たぶん殺されてます!絶対に鉄拳制裁を!!!」



外は雲が完全に太陽を覆って、光が届かなくなっていた。


エルナたちはとにかく教官たちに助けてもらおうととにかく走っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「…ねぇ、」


「どうした?」


「聞いていい?さっきの男を殺したあれ、どうやったの…?」


「あぁ、別に、ただのスキルだよ、あのガレージに一瞬で移動したのも同じくスキル」


「そう…なんだ」


なんだか腑に落ちたような、そくでないような気持ちだ。


「けど、」


「!」


「あのスキル、使うたびにかなり体に負担が掛かかるんだよな、正直、後1回使えるかどうかだ」


「え、嘘!?」


それを聞いて、エルナはただ心配する事しかできなくなった。


「どうして、そこまでしてまで私を助けてくれたの!?」


同時に、こうまでしてまで自分を助けようとしてくれるアレスの事が気になった。


助けに来てくれた事には本当に感謝しているが、それでも、それを聞かないとやり切れないと思ったからだ。


だが帰ってきた言葉は、全く予想だにしないものだった。


「別に、どうでもいいだろそんな事、」


意味が分からなかった、どうでもいい?だが今間違いなくそのせいで命に関わる事態になっている。


突入前だけでなく、こうなった今でもそう思っているの…?


一体なぜ、まるで理由を考えるのも面倒くさいとでも言うような返しができるのよ、


戦士になる者は、皆こうでないといけないの…?これが戦士の心構えなの?


いやそれは違う、あの男はそんな仁義なんて何もないような奴だったし、それでも、曲がりなりにもあの智子たちには慕われていた。


あれも戦士の一つの形だとしたら、何も全ての戦士がアレス君のようというわけではない。


ならこれは、アレス君という人間…


一体それは何なの…?


「もう逃さんぞ」


いつの間にか、目の前にさっきの男の仲間と思われる男たちが行手を阻んできていた。


先回りされていたのだろう…


「お前たち、よくもアキラを殺ってくれたな、当然覚悟はできているよな?」


「…エルナ、こいつら…たぶん全員戦士だ」


「そう…でしょうね」


「お前は逃げろ、こいつらは俺がどうにかする」


「そんな無茶よ、これだけの人数…相手は本物の戦士なんでしょ!?」


「お前さえ逃げれば、俺は超越光速で逃げられる、だから早く行け!」


アレスが首を後ろに振ってそう言った直後、「2人共々殺せ!!!」と中心にいた男が命令した。


その瞬間、全ての男たちが一言も発さず一斉に殴りかかってきた。


「ちっ、いいから早く逃げろ!!」


「で…でも!!!」


その時、黒い雲から、ポツポツと雨が降り始めた。


アレスはエルナを心配しながらも、向かってくる男たちに向かっていった。


刀やナイフ、ハンドガン…全員が武装した戦士を相手に、アレスは1人で立ち向かっていた。


どうしてそこまでの事ができるのか、考えれば考えるほどに分からなくなった。


どうして、赤の他人も同然である自分を、そうまでしてまで助けようとしてくれるのか…


どうしてそんな簡単に、自分の命を投げ出す覚悟が持てるのか、


本当にわけが、分からなくなった。


だけどその時、必死に戦士たちと戦うアレスの瞳を見れた時、エルナはその瞳から、不思議と全てを感じ取れた。


その瞬間で、エルナは全てを呑み込めたんだ。


その瞳と、そこから覗かせるアレスの姿からは、僅かな光明すらも見えなかったから。


いや、今になって思えば、この時はまだ十分なくらい光があったと思うけど、それでもエルナが一目見ただけで分かるくらい、そこには暗闇しかなかった。


それはエルナに、全てを納得させた。


アレスは希望も光明も、何もない中生きている。


生きる事に希望がないんだ、だから自分の命も平然と投げ出せるし、死地に飛び込む事に理由がいらない。


そんな彼に、酔いしれていたいと思えた。


エルナの気づかない内にずっと探していた、それでも戦士を目指そうとする理由。


それはこれでいいと思えた。


アレスが抱える闇を自分が共に支えて、アレスをその闇から救おうとする。


それを言い訳にして戦士を目指し続ける…これだ、これがエルナの、失ってしまった戦士への情熱の代わりになるだろう。そう思えた。


これで戦士に憧れる事に無意味に固執する必要もなくなる、前みたいに心から、純粋に戦士に憧れる事ができる…!!!


「最高じゃない」


(私はアレス君が好き、アレス君が好き、アレス君が好き、、、)


洗脳するように心で何度もそう叫び続け、そして無意識に、エルナはアレスの前に飛び出した。


「エルナ!?やめろ、逃げろって言っただろ!」


「大丈夫!!」


エルナは一切の迷いなく、歪んだ笑顔でそう返した。


「コイツらは私を完全に舐めてるから、だからやれる、私が、貴方を助けられる!!!!」


エルナは意識を集中させ、スキルを発動した。


「スキル、封印!!!」


そう叫んだ直後、エルナの体から4本の巨大な鎖が現れた。


男たちは余りに突然現れたそれに対処し切れず、全員が次々と封印されていった。


「あはははははは、ははははははははは」



やがて雨は止み、同時に男たちが全員エルナに封印された。


「はぁはぁはぁ」


エルナは残った鎖を落として、自分も地面に倒れ込んだ。


「エルナ…お前、」


アレスが心配してエルナに歩み寄っていった。


「ごめんなさい、アレス君」


「え?」


「私…まだこのスキル上手く扱えてなくて、使った後…しばらく鎖が残っちゃうの、5時間くらい…」


「………いいよ、そんな事」


アレスはエルナの前まで歩いていき、そして、ゆっくりと右手を手を差し出した。


「正直…あのままだとやばかったから…その、ありがとう」


雲に隠れていた太陽が、僅かに輝きを見せアレスの全身を光らせた。


(アレス君に、ありがとうって言われた///)


エルナは頬を真っ赤に染めながら、その手を掴んで立ち上がった。


「とにかく急ごうか、教官たちの所に」


「えぇ、そうね」



2時間後、レッペル橋にて封印効果のある鎖の側で封印されている9人の戦士が、グリスの戦士により発見された。


犯人は現在も不明、その目的も、こうなった経緯も不明なままである。


また、橋から少し離れたガレージで何者かに剣で切り付けられて殺害された戦士の遺体も発見されているが、関係性は不明。


後にこの事件はレッペル橋事件と呼ばれ、グリス全土を震撼させる事となった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「どうして貴方は…自分の命を、蔑ろにするの?」


エルナの悲痛な叫びが、雨の中静かに木霊した。


「…知らねぇよ、そんなの」


それに対して、アレスはただそれだけ言って、エルナの前から立ち去っていった。


エルナは1人、雨に打たれた。


そうだ…そうよね、アレスは今も…いいえ、あの時よりもずっと深い闇の中にいる。


エルナはその闇からアレスを救い出したくて、アレスに惚れたんだ。


そんなアレスに、どこまでも心酔したいと思ったんだ。


エルナは胸に手を当て、改めて自分の想いを確認する。


「そうよね、貴方達ならそうする…大丈夫よ、アレス。私は何があっても、貴方の味方だから。」


「貴方がどれだけ深い闇にいても、ずっと、見守っていてあげるから」

アレスもそうですが、それに同調するエルナも大概ですね


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