113話 最期の後に上がる舞台
遠くの池まで吹き飛ばされ、しばらく気を失っていたミアたちだったが、ようやく目を覚ましミアが全員の無事を確認した後慎重にβたちの元へ向かった。
「!!!」
そこにあったのは、身体が両断された悪魔の死体と、2人手を合わせ、向かい合いながら永眠するテオとβの姿だった。
暖かな陽光が、祝福するように2人を照らしていた。
「……………」
それを見て、ミアは端末からメモ帳を取り出し、こう記した。
『β・テオ、両者死亡』
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「はいはい、感動のお別れはオワオワリ、これでお終い」
ウイッチがまた、箒に乗って上から煽ってきた。
目の前でクラウドを殺した、その直後に…
「貴様…何でそんなにも、簡単に命を蔑ろに出来るんだ…」
俺は更に押し寄せてくる殺意を必死に抑えながら、ウイッチに問い詰めた。
「別に蔑ろにしてるんじゃないて、ただ興味ないだけ、愛情とか諸々何もかも、全部どうでもいいしオモチャにしか見えない」
ソラナはクラウドが死んだ事実を秒数が進む毎に自覚していき、立っていられずに座り込んでしまった。
ここまでされたら…もう、殺意を抑える必要はないと思った。
前のテオ戦は、ほとんど理性を忘れたような戦いになってしまったから、あぁならないようにある程度はずっと抑えていた。
けどそれもいい、もう必要ないと思った。
こいつ相手に自分を封じ込む意味が、分からなくなった。
「許せない…貴様…」
俺の体から、更に魔力が噴き出てるように放出された。
そして俺は、剣を構えた。
やる事は一つ、超越光速を発動して、そのまま奴の首を斬る。
今までどうしてこれをやらなかったんだ?こうすれば簡単に、どんな相手にも勝てた筈なのに…
「ぁあああああああああああ」
俺は超越光速を発動し、ウイッチの首に切り掛かった。
だが俺の体は通り過ぎるように首を空振り、そのまま地面に倒れ落ちた。
「!?」
それを見て、ウイッチが面白そうに笑った。
「アハハハハハハハハハ、馬鹿なのアンタ!?自分で分かってたから今までやんなかったんじゃないの?wwwwwwwwww」
…そうだ、思い出した…何故、俺は何故今あんな事やろうと思ったんだ…?
絶対に失敗するって、分かってたのに…
くそ駄目だ、やはり理性は抑えないと…こんな事も考えられなくなるのか。
「どうせあれでしょ?首は他の部位と比べて細く小さいから高速移動中だと狙いずらいみたいな感じでしょ?ガチウケるwww」
ウイッチは魔力を込め、箒を俺に向けてこう言った。
「大体どれだけ虚勢張ったところで意味ないんだし、なんで分かんないかね」
そのままパープルレーザーを放ってきた。
俺は後方へ逃げるようにしてそれを避けていった。
「……………」
それを見て、ソラナはゆっくりと立ち上がった。
「…待ちなさい…アレス…」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」
計10発も放ってきたパープルレーザーを全て避け、俺は地面を蹴り上げて一気にウイッチへ切り掛かった。
ウイッチは反撃として火炎放射を放ってきたがそれを剣で切り裂き、俺はそのまま距離を詰めていった。
だがこれが奴の罠だった、ウイッチは間合い寸前まで接近した俺に[サンダーショット]を撃ってきた。
この距離まで接近して回避が間に合うはずがなく、俺はそれを喰らい地面に墜落させられた。
「っ、くそっ…」
「だから何やっても無駄だから、マジしょうもない」
その時、ウイッチの背後から、浮遊を使い、ソラナがもの凄い勢いで両手の剣で切り掛かってきた。
「ちっ、」
ウイッチは容易くそれを避け、ソラナは俺の目の前で着地した。
「ソラナ…お前、」
俺が言い終わる前に、ソラナは俺の顔を思いっきり殴った。
「?」
俺は訳が分からないまま、そのままソラナに鷲掴みにされ、遠くの木まで張り倒された。
「あんた…何やってんの、今、」
ソラナは冷たい声でそう聞いてきた。
「何だと?俺は彼奴を殺そうと…」
「あんた1人でどうにかなると思ってるの?」
「…どうにもならないからなんだ…奴はマイロを殺した、クラウドだって目の前で殺した、許せない…許せるはずがない、だから殺すんだよ!!!」
「できるわけないでしょ!!!」
「だったら何もせずに黙ってろってか!?無理なんだよそんな事!!お前だって悔しいし憎いだろ!?あいつが!!だから感情のままn…」
「それが無理だって言ってんの!!!!!」
ソラナは全てを遮るように、俺を必死で止めるようにそう叫んだ。
その気迫に押され、俺は無意識に口が止まった。
そんなアレスたちへ、ウイッチはそっと箒を向け魔力をチャージし始めた。
「クラウド君は…最期に好きって、笑って私たちを見送ったの、凄いと思う、そんな事…普通できない。どうしてそんな事ができたのかなんて、分からないけど、でも…確かにこれは、都合の良い妄想かもしれない、生者の妄言かもしれない、それでもはっきりと言い切れる…!!クラウド君は、私たちが死ぬ事を望んでなんかないって、私たちがこの戦いに生き残って、その時心から笑っていて欲しいって、思ってる!!!」
俺は噛み千切れるほど唇を噛みながら、下を向いた。
「勿論私は、この戦争に勝ちたい、ナスカン・サインが勝って欲しいと心から思ってる、でもそれ以上に!それ以上に私たちが生きている事…それが一番大切だと思う、それが、先に死んじゃったクラウド君への…何よりの弔いだと思う。だから…!!!」
ソラナはもう一度俺の胸ぐらを掴んで言い放った。
「クラウド君の想いを蔑ろにする奴は、絶対許せないの、何者だろうと絶対に…」
「……………」
何も、言い返せなかった。
分かってる、ソラナの言った事が全て正しいし、そんな事は俺だって分かってるんだ。
だけど、どうしても抑えられない…どう抗おうとしても、マイロを殺した世界への苛立ちが湧き出てくる。
あの日から、世界に絶望したあの日から、閉ざされてしまった俺の心を、ノア様は確かに開けてくれた。
その時見えた世界は確かに輝いて見えた、光って見えていたんだ、だからこそ、ノア様が死んで…
無意識に、すぐに何か次の拠り所を探さないと、俺は壊れると自分で分かった。
だから俺は、これまでで最も都合の良い、アイラの話を信じる事にした。
その言葉を信じて、従って、それを目標にした。
そうやって何とか、理性にしがみついていたんだ。
けど、マイロが死んだと分かって、それが完全に崩壊した。
自分の足場が崩れる音が、確かに聞こえた。
もう全てどうでもよくなった、俺の根本的な苛立ち、世界への憎しみ…その衝動に素直に従おうと思った。
「……………」
だけど、あぁそうだ。
俺だって所詮、ゴミのように捨てられていく世界の人の一部なんだ。だからこそ、世界の人にはなりたくない。
俺は殺意をありのままに受け入れて戦っていた、ただ自分の本当に従って戦っていた。
でも、確かにそうだ…そんなの、死に急いでるようなものだ。
思い出せ、俺は何がしたい?何のために生きている…?
そんなの決まってる、俺は…俺のたった一つの光は、
異世界に転生したい。
そうだ、俺にはそれがある、確かに俺には、そうなりたいという希望がある…!!!
「…確かに…そうだ…」
俺の魔力は俺の体へと戻っていき、殺意も収まっていった。
「エルナ、お前の言う通りだ。俺たちは生き残らないといけない…」
「え…?えぇ、そうよ…」
ソラナは少し困惑しながら、俺の首から手を退いた。
思えばずっと、俺の望みは変わっていない。
異世界に転生したい…ただそれだけ。
そうだ、これからは、それだけを胸に希望を抱こう。