111話 ようやく見つけた
「しっかりとカメラを起動して撮影をしー、俺がテオを殺す瞬間を確実に捉えねばー」
アジエルは[アクアブレード]という水を付与した手刀を放つアビリティを発動し、テオのすぐ近くまで近づいた。
「さぁ、やるかー」
βの目の前で、テオが背後から腹部を貫かれ、弾き出るように血が吹き出た。
そしてそのまま、テオは倒れた。
「やったー、これで任務達成ーー、そして撮影終了ー!で?お前は邪魔するのかー?」
アジエルは頭のカメラを停止し、ある場所へその録画データを送った。
βは考えるよりも先に、感情が爆発した。
「…何を…した…お前…」
内から引き摺り下ろされたように湧き出てくる感情を、βは制御できなかった。
それ故に、βはいつも以上に声が低く小さくなった。
「んー、俺がなにしたかってー?俺のスキル、時間停止を使ったんだよー」
「…時間…停止…」
知っている、兵器としてサインに育てられていた時、この世にある粗方のスキルはデータとして脳内にインストールされた。
確か約10秒間、時を止めるスキルだったはず、そして使用後は約5分間スキルを発動できない…というもの。
…どうでもいい、
そんな事どうでもいい、テオを傷つけられた痛み…
今βは、それだけだった。
「いい…やっぱりどうでもいい…ボクはお前を…」
βは歯を食いしばりながら、強くはっきりとこう言った。
「殺す…」
βはrobotを発動した。
「なんだー、お前もやるのかー、まぁ多い方がいいだろうー、殺るかーーー」
アジエルはそう言って、再びカメラを起動した。
「お前は俺より遥かに強いーー、時間停止が今すぐ使えたとしても勝てないだろー、だけどお前、見たところ相当弱っているー、だから俺でも勝てるーー」
…正直彼奴のいう通りだ、もうβに残った魔力は無いに等しい。
恐らくアビリティを使う魔力も残っていないだろう、だから、それを一切使わずに戦う。
βはテオを優しく手の中に入れ、胸部を開いてrobotの中に匿った。
(これで大丈夫…)
そう思いつつも、腹部を貫かれたテオを見て、つい…テオの無事が気になってしまった。
顔色からまだ生きている事は分かる、だけどそれ以上は分からない。
テオは助かるのか、もう助からないのか…それは分からない。
βは震えながら、恐る恐るテオへ手を近づけた。
そして、テオの身体に触れた。
「…!大丈夫、テオは死んでない」
だがそれ以上の事を確かめるのは、これでもやはり恐怖して出来なかった。
「ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
robotは雄叫びを上げ、真っ直ぐアジエルへ走っていった。
「今からお前も殺してやるー、行くぞー」
βはrobotの巨大な腕を振り下ろした。
アジエルはそれを後方へ飛んで躱すと、アビリティ、ウォーターショットを放ってきた。
それが振り下ろした右腕に着弾し、やや形が変形した。
「おー?どうやら思っている以上に弱体化してるらしいなー、これはいけるー」
βは再びアジエルへ駆け抜けていき、その勢いを残したまま蹴りを繰り出した。
だが度重なる連戦でβは魔力だけでなく体力そのものも疾うになくなっていた。
だから威力だけでなく速度までも衰えている事はアジエルでなくとも明白であり、この攻撃も簡単に避けられて背後に回り込まれ、そのまま[インファイトアクア]という水を纏った拳で連打するアビリティを左足に喰らわされた。
「ガググググ」
βは大きくよろけたが、踏みとどまってその足を薙ぎ払い、反撃に転じようとするも、避けられる。
「どうしたー?もう終わりかー?アビリティ、[シャークインベーダー]!!」
アジエルは全身を水で纏ったような姿をしたメガレドンというモンスターを象った魔力の塊を生み出すアビリティを発動し、それをβへ襲わせた。
シャークインベーダーはrobotの体をドコドコと隅々まで切り裂いていき、robotの膝を地につかせた。
「くっ、、、」
「これでトドメーー!アビリティ、ブラストアクア!!」
βはそれを避ける事ができず、ブラストアクアがrobotの腹部に直撃し、そのまま大きく吹き飛ばされた。
そのままrobotが爆発してスキルが解除され、βもテオも地面に強く激突してそのまま引き摺られた。
「…っ、、、」
しかし、βの意識はまだ、ほんの僅かだが残っていた。
だがテオは突き刺された腹部からの出血が止まらないまま、地面に倒れて動かなかった。
「テオ…」
そんなβを、アジエルは煽る。
「よしよしー、びっくりするほど簡単にオマケも殺せそうだー、目的物はもう直死ぬだろうしなー」
「…………」
そんな事を言われて、何も思わない訳がない。
だが今の状態では、このまま戦っても勝ち目は一切無いというのが、考えるまでもない事実な事くらい、β自身も分かっていた。
それに、先程まで感情に気を取られて気付かなかったが、奴は恐らく幹部の悪魔だ。
唯でさえ持久戦に持ち込むのは不利な相手という覆しようのない確固たる事実が、更に己の状況を自覚させられる。
…それでも、今彼奴に言われた事を、黙って見過ごしたくなかった。
許さなかった、殺す…殺意だけが湧き出てきた。
そうしたいと思わないと、気がすまなかった。
「…ボクは」
βははっきりと強い眼をして立ち上がった。
そのまま足を引き摺らせながらも、アリエルに近づいていく。
「許せない…ボクは、お前が…」
「何をしたって無駄だー、ごちゃごちゃ抜かすなー、俺がお前を殺せばそんなのどうだっていいーー」
「黙れ」
全てを否定したように、βはアジエルを一蹴した。
「ボクは必ずお前を殺す、いや…殺さなきゃいけないんだ…!だから…」
βはテオのすぐ横で立ち止まってこう言った。
「後の事は…どうでもいい…」
βはもう一度、robotを発動した。横にいたテオも、それに連れて行く形で胸部に隠した。
「すぅ〜〜〜… はぁ〜〜〜〜〜」
深呼吸をして、意識を集中させる。
隣で横たわるテオを見て、改めて覚悟を固めた。
「ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
robotは力強い雄叫びと共に、迷わずアジエルへと真っ直ぐ向かっていった。
「何をしても無駄だー」
アジエルは返り討とうとウォーターショットを放った。
だがβはそれを避ける素振りを一切見せず、アビリティが右肩に直撃して大きく凹みを作らされながらも構わず走り続けた。
「なにーー!?」
アジエルはその後何発もウォーターショットを放ち、robotの体のあちこちに命中させたが、それでも尚βは止まらなかった。
「なんだー、なにをするk…!!!」
そしていつの間にか、βはアジエルの目の前まで迫っていた。
(まずいーー)
「これで…決める…!!!」
robotの口が大きく開け、中から砲身が出現した。
βに残っている魔力はもう無い、これ以上使えばもう、決して無事ではすまないだろう…だが、
(最期の一撃…全てはこの瞬間に懸けた)
「これで終わらせる!!!」
βは残っている魔力の全てをかけ集め、最後のカタストロフィのチャージを始め、そしてすぐに完了させた。
「殺す!!!」
その瞬間、アジエルがテオを刺してから、5分の時が経過した。
「スキル、時間停止ーー!!!」
その瞬間、世界の時間が、完全に停止した。
「ふー、危なかったーー、だがまぁ、これで終わりだなー」
次回、その全てに決着がつく…
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