10話 決死の作戦
ノアっていうおじいちゃんとの面会の結果、彼が私の無実を晴らすよう尽力してくれる事になった
それはいいとして、どうしても1つ気になる事がある。それは…
「そういえば、もし仮に私がスパイ確定って事になったとして、その時は私どうなるんですか?」
「そうなれば、ほぼ確実に死刑だろう」
これから無実を晴らしてくれるとは思えないほどに、ものすごくしれっと答えてきた
まぁなんとなく予想はしてたし、別に驚きはしなかったけど
「で?死刑って具体的になにされるのかしら?」
「我が国は基本的に銃殺による死刑を行う」
銃殺か…西洋風な世界にしては妙に現代的な方法なのね
まぁ、私を銃如きで殺せると本気で思ってるなら滑稽だけれども
「そういえば…私からも君に聞いておきたい事があった」
「?なに」
「巨大な物を効率的に運ぶ方法を知らないか?」
?それは…どういう、質問だろうか
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私は追いかけるように急ぎながら、センターエリアの扉を押し開いた
「ノア様?どうされました?」
私はマスターのギルベルトに、切り込むように聞きつけた
「確か今、4人の戦士がゴルファングの抹殺任務に向かっていると小耳に挟んだのだが」
「え、えぇ、そうですが…」
よし、間違いないようだ
そして恐らく、そのゴルファングも凶暴化している。だがあれほどのモンスターなら、私のスキルにも耐え切る事ができるはず
だとすれば、これほど都合の良い話はない
「その任務、私も救援として参加させてはくれないか?」
「え?し、しかし、これはあなたの任務では…」
「君が向かわせたこのメンバーで、ゴルファングに勝てるとは思えん…自惚れしているわけではないが、あれに勝てるのはこの国でも私か、ミアしかいないだろう……… ただでさえ、スパイや凶暴化したモンスターで国全体が混乱している状況だ、モンスターの犠牲となる者を少しでも減らすためにも、その任務に私を加えさせてくれないだろうか」
ギルベルトはしばらく、手を顎につけて長考したが、ついに意を決したようだ
「わかりました、すぐに彼女達の元へ向かって下さい、今ならまだ間に合います」
「そうか、ありがとう…行ってこよう」
私は彼に可能な限りの感謝を告げて、急ぎ彼女達の元へ向かった
とはいえ、さっき彼に言った事は建前だ。私をこの任務に参加させた本当の狙いは…
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「どうするんですか!ソラナさん!もう2人死んじゃいましたよ!」
クラウド君が私を急かしてくる
わかってる、これがやばい状況だって事は
国民達の平和を掲げて、ゴルファングに戦いを挑んだはいいものの、その力に私たちは完膚なきまでに圧倒され、4人いた仲間の内の2人が既に殺されてしまった
かくいう私たちも、このまま戦い続けていけば、いつ殺されてもおかしくない
それほどに、私たちとゴルファングには、比にならないほどの力の差があった
正直、予想外だった。
まさか、ここまで力の差があるなんて…
駄目。
絶対勝てない。
なにをやっても殺される。
絶え間のない絶望感が私たちを襲い、もはや逃げるしか方法がないという現実を直視せざるを得なくなった
いや、そもそも逃げられるかもわからない、っていうか多分無理、このままただ無慈悲に、ゴルファングに殺されていくだけ
「逃げましょう!ソラナさん!もうそれしかないです!」
その通りだ、もし死ぬのが嫌ならば、たとえどれだけ可能性が低くても、生き延びるために、命を懸けてこの場から逃げ去るだけ
それが、私たちに許された、唯一の悪あがきだった
だけど……………
「駄目、私は逃げない」
「は!?なに言ってるんですか!?確かにここで逃げたら僕たちは腰抜けだとか言われて、国中から猛批判されるかもしれないですけど…でも!命には変えられないでしょう!?生きてこその人生です!ソラナさん!早く逃げましょう!!!」
「わかってる!だから貴方だけは逃げて!!!」
「え?」
確かに、クラウド君の言う通り、批判されるのが怖いと言うのももちろんあるし、生きている事が大事だって言うのも、わかってるつもりだ…
…だけど!!!
ここで逃げたら、街のみんなはどうなるの?いつかゴルファングが街の中に入ってきて、大勢の人の命が、2人のように消されるかもしれない
みんなの平和が、ある日突然消えるかもしれない
その可能性の1つを増やして、後悔と罪悪感に苛まれながら、私はずっと生きていくの?
そんなの…真っ平ごめんよ
私は、街のみんなを守るために戦士になった
ここで戦わなくて、誰が戦士を名乗れるのよ!
私が…私が戦わなくちゃ駄目なんだ
「私だけでも、みんなを守る、だから、貴方はすぐに逃げて」
「………バカにしないで下さい」
「!!!」
「ソラナさんを置いて、逃げられませんよ。えぇ、いいですよ、2人でゴルファングに抗いましょう!」
「クラウド君…ありがとう、安心して、2人で戦うとなれば、1つだけ、たった1つだけ作戦があるの」
「え?まだなにかあったんですか!?」
「最も確実で、最も成功率の低い作戦が…1つだけ、ね」
私はクラウド君に作戦を伝え終えると、私はスキル、
[浮遊]を発動した
これでゴルファングの攻撃を紙一重で避けながら周囲を飛び回った
その隙に、クラウド君が弓矢の弦を弾き絞り、ゴルファングの心臓がある胸の部分に狙いを定めている
尤も、ゴルファングはそれを常に警戒していて、胸をガードするように腕の位置を工夫されてきているから、私がそれを動かさせるために、そうなるようゴルファングを揺動するために、私は周囲を浮遊している
クラウド君のスキル、[状態変化]は、生涯アビリティが取得できなくなるのを代償に、あらゆる物質を自由な状態に変化させる事のできるスキル
私が上手くゴルファングを誘導して、クラウド君が矢を電気を纏った巨大な矢に変化させてそれを心臓に当て、こいつが感電した隙に私が頭部を何度も叩いて撲殺するというのが、私が考えうる精一杯の作戦
けどこれは私がゴルファングの攻撃を全て避けられるという事が前提条件。いくら浮遊できるといってもこいつの、建物のような巨大な腕からの攻撃を避け続けるなんて、普通成功出来るわけがない
だけどやるしかない、やるしかないんだ
みんなを守るために
17回、紙一重で攻撃をかわした時、こいつが腕を胸から一瞬遠ざけた
クラウド君がこの隙を逃すまいと、矢を電気が纏う状態に変化させて弦を引き絞る
そして、心臓部目掛けて全力で矢を放ち、と同時に矢を扉のように巨大に変化させた
矢がゴルファングの胸部に…突き刺さった
「ゴガァァァァァァァァ」
ゴルファングが激しく絶叫する
私はこの隙に、こいつの頭部に急いだ
勝てる、みんなの平和を守る事が出来る…!
私もクラウド君も、心からそう安堵したその時、想定外の事態が起こった
心臓に電流を流したにも関わらず、ゴルファングが私を握り潰そうと腕を奮ってきた
効果が、なかったんだ
ゴルファングの前では、私の考えた全てなど、雪のように簡単に散っていく
ここで死ぬ、まだ、死にたくはないと、体の奥底から恐怖を感じたその時
ふわっ
突然、身体が浮いたような感じがした
気がつくと私はゆっくり地上に着地していて、目の前には対象を失って混乱しているゴルファングの姿があった
「大丈夫ですね!?ソラナさん!!」クラウド君が、私に駆け寄ってきてくれている
一体なにが起きたのかと、辺りを見渡そうとした瞬間―――
「大丈夫か?」
聞き覚えのある声が聞こえた
この、分厚く、貫禄がありそうな、優しく安心感のある声
間違いない、王国最強の戦士、ノア様が助けにきてくれたんだ
次回、ノアが活躍します…評価・ブクマよろしくお願いします!