107話 トけない感情
そして、遂にそれを見つけた。
ジャリから抜け出したテオとβは、日が昇っても尚、サインから離れるべく走り続けていた。
やがてテオとβが、2人横並びになり、
もうどれだけ後ろをみてもジャリが見えなくなるほど遠くに離れたが、それでも走って逃げ続けるのには理由があった。
βが、敵国の戦士と一緒に夜の闇へ消えていった…
これがどのように解釈されたとしても、必ずサインは追手を派遣してくる。
βを連れ戻すために…
その追手を振り切るため、2人は可能な限り遠くまで離れる必要があったのだ。
その途中、βは自分が切断したテオの右手の小指をみながらこう言った。
「その…ごめんなさい、指の事…」
「大丈夫だ、これくらい大した事ない。それに、あれは真剣勝負だったはずだ、それで負わせた傷を、気に止める必要なんてない」
「…………」
テオは優しくそう言ったが、βは割り切れないような顔をしている。
この時βが何を考えていたのか、それは分からないが、同時にテオも自分自身、今の心境に少し困惑していた。
まずβをサインの支配から解放させて、こうして自由に走らせられているという事は、本当に喜ばしい事だ。
テオの心からの望みは確かに果たされた。
だが、何故自分がそこまでの意思で、こうなる事を望んだのかが、テオはよく分かっていなかった。
確かにこうした事についての後悔はない、後悔はないが、それでもフレミングを裏切ったという事実は変わらない。
恐らくもう二度と、フレミングに帰る事はできないだろう。
そうまでしてまで、ただ自分の気持ちに気づいただけで一切の迷いなく、この行動を取ることができたのかが未だに分からなかった。
ほとんど無意識、無我夢中…言ってしまえばそうなるのだが、そうとも言い切れないような気もする。
テオがこの行動をとったのには明確な理由があって、でもその理由に自分でも気づけていないような、
そんな気がしてならなかった。
それを伝えるかのように、さっきからのテオの胸はぎこちなくも温まっていた。
「…ねぇ、」
「!」
その時、そっとβが話しかけてきた。
「本当にありがとう、ボクを…助けに来てくれて」
「………」
「貴方との戦いが終わってすぐに、ボクの頭に変な感覚が入り込んできたの。だけど、そのお陰で思い出せた気がする、ボクの事、ボクの今までの記憶を…感覚で、」
テオは何も言葉を出さずに、ただβの話を聞いた。
「そして、ボクがこうなる事を本心で望んでいた事も分かった、だから…貴方が来てくれて、本当によかった」
「………」
それを聞き、テオは突然その場に立ち止まって、βに言った。
「…俺はただ、君を助けたいだけだった…でも、君にそうやって礼を言われると、悪い気分はしないな」
テオは無意識にβに顔を見せず、ただ淡々とそう言った。
「…いや、でも…」
その後、βは少し躊躇いながら、テオにこう言った。
「助けに来てくれたのが貴方だったのは…本当に良かった」
「…………」
それを聞き、テオはまた無意識に、目を開いた。
ヒュン
その時、遠くから炎の矢が飛んできたのが一瞬見えた。
「!!!」
βはそれに気づき、すぐに右手にイージスを発動させてテオを守ろうとした。
だがテオがそれよりも前へ出て、バリアでその矢を防いだ。
「大丈夫か?」
「う、うん」
テオとβが前を見ると、そこに中央にいるまだ幼い少女を中心とした、5人の戦士が、2人の前へ現れていた。
「あれは…まさか、ミアか…?」
「…………」
ミアは2人を冷たく見ながら、こう言った。
「やっと追いついたの、β」
やはり、都合良くはいかないものですね。
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