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104話 2人の決着

「おーけー、もう用済みだー」

次にβはカタストロフィをしまうと、ガルーダを発動して空中に飛び上がり、そのまま宙を翻りながら剣を突き出して急速に突っ込んできた。


テオはこれを避けようと地面を蹴り上げて左に飛び移ろうとしたが、間に合わずバリアをすり抜け、右手の小指を斬り飛ばされた。


「っ、、、」


だがテオは痛がる姿を一切見せずにβの背後まで駆け込んで飛び上がり、robotの頭部を破壊しようとした。


だがそれに気づいたβはガルーダを使ってテオの背後に飛び回り、そのままエクスカリバーで切り掛かった。


すぐにテオも振り向いてバリアの剣をぶつける。


バリアの破壊力と、robotの巨体の圧力…互いの力で両者は弾かれ、テオはアンフィテアトルムに強く激突した。


βはぎりぎりの所で踏み止まった。


「はぁはぁ」


テオは切り落とされた小屋を見ながら、やや弱々しく息を切らしている。


(魔力を回復する注射くらいは、用意してくるんだったな…もうほとんど限界に近い)


テオはβを見上げながらとにかく次に取るべき行動を考える。


だが想像以上に、βはバリアを攻略していた。


魔力をぶつけて突破するまでの速度が明らかに早くなっている。


恐らくどの程度の魔力をバリアに当てれば素早く突破できるのか、その加減が分かってきたのだろう。


こうなってくると、防御手段としてのバリアはもうほとんど意味を成さない。


破片を投げつける攻撃手段としてのバリアが攻略されるのも時間の問題だろう、


だからなるべく早く決着をつけないといけない、そしてテオ自身の魔力が尽きるよりも先に。


テオはバリアの一部をスケートボード状に変化させ、それに乗り込んだ。


「………」


そして、テオはスケートボードを発進させ、小刻みに動き回りながらβに迫っていった。


βは返り討ちにしようとエクスカリバーを振るったが、スケートボードの細かい動きに翻弄され、全て避けられてしまった。


「!?」


その後テオはオーリーをしてrobotの頭上まで飛び上がり、その後スケートボードをバリアに戻してrobotを頭から足元まで引き摺るように破壊していった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


「ゴガアアアアアアアアアアアアアアア」


だが、robotの背中を完全に破壊する直前、βは足を蹴り降ってテオの顔面を蹴り上げた。


「ぐはぁっっっ」


テオはrobotの背面を切り終えるとすぐに飛び跳ねてβから少し離れた正面の位置まで移動した。


「はぁはぁ」


その瞬間、テオは信じられないほど一気に意識が薄らいだ。


暗闇に意識を侵食されそうな感覚だ、だがこのままだとまずい。


確実に気を失ってしまう、やめろ、ダメだ、耐えろ。


テオは地面を踏みしめてどうにか意識を保っている。


「ここで…粘らないとダメだ……」


(βを助ける、そのためには絶対に…!)


背面を大きく傷つけられて、robotの体が大きくふらついている。


βはその揺れを抑えながら、静かにテオの姿を見た。


自分の中から何かが芽生えようとしていて、それが何んなのか気づけるかと思って始めたこの戦い。


多分その賭けは、当たりだった。


その頃、丁度民間人からの通報で軍の人たちが駆けつけてきた。


大丈夫ですかと揃ってβに声をかけている。


それでも、βは何を感じなかった。


それよりもただ、この戦いの決着をつけたいとだけ考えていた。


それが、全ての答えだった。


βはただ、テオとの戦いを楽しんでいた。


戦いで出会ったテオとの交わりを、ただ楽しんでいたいと思った。


これまでずっと敵対していたから、腹を括る事で何か見出せるのではないかと思ったのも、決着をつけようといった理由の一つだった。


けどあの時から既に、内に秘めていたこの想いに何となく気づいていたのかもしれない。


そしてだからこそ、この戦いは勝たないといけないと思った。


自分の勝利で決着をつける。


それがβの、ただ純粋な願いだったから。


βはエクスカリバーとイージスを解除し、左腕にディストピアを発動した。


これを発動した理由は2つ、テオが次にとる行動が分かっていたから、そして、その一撃で決着をつけようと思ったから。


その様子を見ていたテオもまた、この戦いを楽しんでいた。


βを助けたい、それが一番の感情である事は間違いない。


けどなんだろうか、テオはそれと同じくらいに…こう思っていた。


βに、勝ちたいと。


戦いから始まったこの出会いに、決着をつけたい。


全てを終わらせたくないから、決着をつけたい。


それがテオの、本心だった。


だが残された魔力量から考えて、テオが取るべき行動がほぼ一択にまで狭まれているのも事実だった。


だが、それしか方法がないのなら、それで勝てる可能性があるのなら…やるしかないと思った。


…これはこれで向こうの思う壺なのだろうが、仕方がない。


テオはバリアの総面積のほとんどを使い、巨大な直角三角形状のバリアを作り出した。


そして、それをrobotの胸部に投げつけようと構える。


ディストピアの照準を合わせ終えたβもまた、いつでも引き金を弾ける状態になっていた。


両者の間に、無音という風が吹いた。


テオの狙いは、残りの魔力量も鑑みて、この一撃に全てを託すこと、


βの狙いは、テオのその行動を予んで、確実にテオを仕留めること、


お互いこれが最後の一撃だと考えている、そこに後悔も未練もなにもない。


テオはこうなって、ある一つの事に確信が持てた。


今自分は楽しいと。


βと戦う事、それ自体を純粋に楽しんでいるんだと。


これが自分の生きがいなんだとすら思えた。


テオの戦士として生きる意味は、他の戦士の護りたいものを護る事。


それは今でも変わらない、けど今はそれと…いや、それ以上にこの戦いを純粋に楽しんでいる。


これは開き直りなんかじゃない、戦士として育てられたテオが、始めて生まれてきた意味を感じている。


このまま、βとずっと…


「だからこそ、俺は勝つ…!!!」


テオが覚悟を決めそう言ったと同時に、βはディストピアを発射した。


テオも同時に直角三角形を投げ飛ばして攻撃した。


発射されたレーザーと三角形のバリアとが空中ですれ違い、バリアはそのままrobotの胸部を爆発音と共に破壊した。


その直後、ディストピアがテオのバリアと激突する。


「ぐっ、ぅああああああああああ………」


残り少ないバリアと魔力を限界まで駆使して、地面に足を踏みしめて、今出せる全ての力を使いテオはこれを耐えようとした。


「ぐっ…っ、、、、」


だがやはりディストピアの質量は凄まじく、テオは徐々に後ろに引き下がっていった。


(このままじゃ…だが、まだだ…)


それでも負けじと、テオはバリアに残った魔力を全て流し込み、全力で攻撃を耐えようとする。


        ッ、ズズズ…


だがそれでも、ディストピアの質量に押されていっている。


「ぐっっ、、俺は…まだ!!!………」


その時、土煙が晴れてテオの目に映ったのは、胸部(コックピット)が破壊されてむき出しになったβの姿、


その姿だった。


βはただ前を見て、握り拳を作りながら、ディストピアがバリアに打ち勝つのを期待して、その目を輝かせている姿だった。


その眼が見つめる先は、決して空虚などではなかった、テオに勝利するという、β自身の未来と願いだった。


それを見て、テオは少し微笑んで、安心した。


同時に、もの凄く力が湧いてきた。


テオは地面を力強く踏みしめながらゆっくりと前を歩いていき、徐々にディストピアを押し返していった。


「!!!」


「ぅぉぉぉおおおおおおおおおおおおお」


「あああああああああああああああああ」


そして遂に、バリアがディストピアのエネルギー砲を完全に受け止めた。


そして残ったバリア全てを使って剣を作り出し、一気にβの元まで飛び込み、彼女の目の前で剣を向けた。


βにそれを阻止するだけの力はもうなかった。


「……………」


「……………」


2人は何も言わず、ただ見つめ合う。


夜風が2人の髪をたなびかせた時、敗北の危機を察知してか、βのリフレクションが発動した。


だがテオはそれに驚くことも、抵抗する事もせず、剣を向ける事をやめる事もなかった。


βの脳内に、過去の記憶がフラッシュバックしてくる。


人体実験をされていた事、孤児院時代の事、そして、それよりも前の事…


はっきりとではない、感覚で自らの過去を一時的に取り戻したβは、その全てを理解した。


「…………」


βはそっと目を瞑り、やがて目を開いてテオにこう言った。


「貴方の言っていた意味が、やっと分かった…助けに来て…くれたのね…」


「……………」


「……ありがとう」


βは静かにテオを見つめながらそう言った。


それにテオはしばらくただ沈黙した後、優しくこう言った。


「礼言われていい資格なんて、俺にはない…けど、俺はお前を助けたいんだ…だから、」


「分かってる、ボクも、想いは同じだから」


アンティフィアトルムが解除され、軍隊達がβの元へ駆けつけられるようになった。


テオはβ()()()()()()()彼女を起き上がらせ、2人とも、そのまま大きく飛び跳ねてジャリの検問まで走っていった。


それを見ていた全員が、あの壮絶な雰囲気に圧倒され、ただ呆然と立ち尽くしているだけだったが、しばらくしてようやく今起こった状況に気がついた。


「まさか…逃げた…?」


テオとβは、2人で駆け抜け、ジャリの街から脱出した。


目的地はない、ただあてもなくサインから逃げた。


軍人達はそれに気づいたのか、遠くから「追え!奴らを追えーーー!!!!」という声が聞こえてきた。


だがそれにも構わず、テオとβは、ただ走り続けた。


2人は、ただ走り続けた。

2人はようやく、自分に気がついた。だからこそ、彼らは逃げる。


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