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102話 分からない

「な、なんでしょう!?」


その戦士は突然悪魔に脅迫されている事実に怯え、震えながらそう言った。

ニアレン作戦に出撃する戦士たちが、ジャリから出発した。


時間は月明かりが照らす夜、βはその様子を首相官邸の窓から眺めていた。


βがわざわざ待機している理由は、テオ等の敵側の強力な戦士の奇襲に備えるため。


首都ジャリを守るための作戦の一環だ。


つまり、できればなってほしくない事だが、βは今主にテオと戦うためにここにいる。


それが命令ならばと、βは今テオと戦おうとしているという事を、再度自分に命令する。


何度も何度も。


普通ならここまで鼓舞をやり直す必要はない、だがお腹の奥の方がむずむずして、それが腹立たしかったから、何度も鼓舞をやり直した。


だがやはり、心が苛立つ事に変わりはなかった。


何故、テオの事を考えると毎回こんな気持ちになるのだろうか。


βは立場上、何としてもテオに勝たなければならない、その為に常にテオを研究し、対策し、確実に勝てるようにしないといけない。


だからどうしてもテオの事を頭で考える必要がある、だがその度にイライラする。


あの平原で、初めてテオを見た時、その時はなんとも思わなかった。


ただの厄介な敵兵、その程度の認識だった。


だが問題なのはこの後だった。


お互い弱っていて戦う体力があまり残っていなかったから、必然的に、会話という名の牽制をする事になった。


その会話が問題だったのだろう、思い出しただけでも、奴との会話は本当にイライラする。


心の奥底にある別の何かが、それに呼応して目覚めるような気分になる。気持ち悪い。


何故こんな気持ちになるのかは本当に分からない。


奴がβ自身に何かしたというわけではない、それは超新星作戦の後にきちんと検査してもらったから分かっている。


じゃあなんなの?これは、奴の何が問題なの?


向かうが何もしていないなら、必然的に、自分自身に問題があると見るべきだろう。


この世で他者に対して強い感情を抱かせる原因になる要素は、大きく2つ。


「憎しみ」と、「恋」


だけどこの2つとも、βには関係がないように感じた。


「…そう、関係ない………」


βは無意識に、しがみつくように強く自分の胸元を握り締めながらそう呟いた。


そう言えば、陽動作戦時のあれはなんだったんだろうかと気になった。


考え得る限り、あれに一番の原因があるように感じた。


あの時、テオに止めを刺されそうになった、あれは完全に負けていた、順当にいけば、今自分は倒されていてもおかしくはない。


だがそうならなかった、気がつけばジャリにある軍用施設の中で、何人かの研究員と幹部達に囲まれていた。


たぶん何らかの方法であの状況を切り抜けたのだろう、一人でどうにか切り抜けたというのは何となく分かっている…


けど、具体的にあれをどうやって切り抜けたのか覚えていない、それどころか、テオに追い詰められて、軍用施設で目覚めるまでの記憶が抜け落ちている。


いや、厳密にはうっすらとだけ覚えている。


でもそれは、まるで心の中の、自分よりもっと強い意志に支配されていたような、僅かな感覚のようなものだ。


はっきりとした記憶じゃない、でもあの間に、自分はあの状況を切り抜けたのだろう。


一体どうやって?何故あの時の記憶がないの?あの時ぼくに何が起きたの?


分からない、どれだけ考えても、思い出す事ができない…


そして分からないと焦燥する度に、自分の事についても分からないと気づかされてくる。


記憶を遡り、あの時何があったと考える度、その記憶と同じように、それよりもっと前の、自分自身の記憶も途切れる。


軍の人たちに育てていただいて、戦士として養成されていた記憶、それは確かに、過去としてはっきり覚えている。


でもそれより前の過去となると、何故か、うっすらどころか完全に記憶が途切れてしまう。


まるで線の抜かれたpcのように、完全な暗闇になってしまう。


どうしてかは分からない、明らかに異常な状態なのに、どこかこれを当然の事のように考えている自分がいる。


こんな事を考えるのも、テオと出会ったせいなのだろうか。


漠然と気になる、もし今もう一度テオと対峙した時、自分は何を想うのかと、


感情に支配されるのか、凍結したように何も感じないのか…


漠然と気になる…


「…ようやく、見つけた」


「!!!」


本当に突然に、βの目の前に、テオが現れた。


最初に考えたのは、どうやって首相官邸まで侵入してきたのか、警報のようなものは鳴っていない、誰にも見つからずにここまで来たの?それはフレミングの命令?


「…β、俺は…」


何か言っているが反応する余裕はない、とにかく諸々の考察は無視して、今テオが目の前に現れた、今考えるのはこれだけでいい。


今自分は、テオを見て、何を想うのか…


「……………」


分からない、何も変わらなかった。


今感じている事が強まりも弱まりもしなかった。


でも何か掴めそうにはなった、後少しで何か分かりそうなんだ。


だから、今ここではっきりさせると決めた。


「…テオ、今この場で、ぼくと戦え、どちらに転んだとしても、恐らく戦争はもうすぐ終わる、だから…ここで、決着を着けよう」

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