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100話 人として産まれた戦士

「おいー」

朝焼け、まだ日が差し込み切っていない早朝。


淡く照りつける陽光に照らされて、大きな産声が木霊する病室があった。


テオが、この世に生まれたのである。


テオがゆっくりと、この世界に手や足をつけていき、ついにその顔を見せてくれた。


それと一緒に、母親の声が止まった。


産まれる時、テオのバリアが母親の子宮を抉るように破壊したのだ。


父親は産まれてきた赤ん坊に恐怖し、そして妻を殺した事に怒りが込み上げてきた。


早く自分から遠ざけようと思った。


だから、戦士養成施設へ、テオを捨てた。



施設の人たちが、俺を育てる事にどれだけ苦労したか、想像するだけでも疲労が込み上げてくる。


生まれたての頃は当然知性もまだないから、当初はバリアに阻まれてミルクや抱きしめる事もできなかったはずだ。


聞いた話によれば、そんな俺にも献身的に、心から俺を支えてくれた人がいるという。


俺はその人にすぐに懐いて、無意識に、完全にバリアを解いていたようだ。


今の俺がいるのは間違いなくその人のお陰だ、残念ながら、既にこの世にはいないようだが。


そして5歳にもなると、物心というものも完全についてくる。


俺は自分のバリアの事についても感覚的に理解するようになってきており、更に育った環境のせいか、その事を俺の身の回りのお世話をしてくれていた人に全て報告していた。


今フレミングが持っているバリアに関する情報のほとんどは、この時に俺が話した際のものだ。


そしてもちろん、施設にいた子どもは俺だけじゃなかった。


施設には俺と同年代だけでも100人近くの子ども達が、ここで戦士としてのいろはを叩き込まれていた。


だが学校ではなく、こんな特殊な施設に通えるような子どもには、当然親がいる。


それもかなり裕福な、だから何らかの節目には必ずみんなの両親が迎えに来ていた。


当然、俺にそんなのは来ない。


俺は引き続き施設の人が育ててくれていたが、彼らが俺の親ではない事ぐらい分かっていた。


みんなとは明らかに雰囲気が違うし、どこか俺と距離を置こうとしていたのは子どもながらに明白だったから。


では俺の親はどこにいるのか、何故施設の人たちが今俺を育てているのか…


それを気にならないはずがない、俺は好奇心のままに、何度か質問した事がある。


その度に帰ってきたのは、明らかに誤魔化したような薄い内容。


どうして教えてくれないんだと思った。


だから本当の答えを教えてくれるまで、俺は何度も何度も聞き続けた。


流石にめんどくさいと思ったのか、遠回しではあったがようやく答えを教えてくれた。


「心配しなくても、生きてますよ、あなたの親は。ただ遠くに行ってしまって、いつ帰ってくるか分からないだけです」


5歳の俺には、その言葉を直接の意味で捉えてしまい、よく分からなかった。


だが、10歳にもなれば流石に理解する、俺は家族に捨てられたんだと、


そうと分かった瞬間、俺はしばらく絶望していた。


俺は一生、家族と暖かい思い出を作る事は叶わないんだと。


それがどうしようもなくやるせなくて、同時に悔しくなってきて、腹が立った。


だけど…いや、今になって思えば、親からの本当の愛情を知らないからこそ、こういう考えになったんだろうが。


親がいなくてやるせないという気持ちは、少しだけ片隅に残りながらも、すぐにほとんど消え萎んだ。



16歳になり、戦士養成学校を卒業すると、ようやく正式な戦士として認められた。


ようやくと言ってもずっとこうなる事を待ち望んでいたわけではない、この選択肢以外を考えた事がなかったから、ある種当然の出来事だと思っていた。


物心ついた時から環境の全てが戦士で囲まれていたし、スキルのせいで将来戦士となる事への期待を無意識に浴び続けていたから、妥当といえば妥当な結果なのだろう。


だからこそ、戦士として生きる事そのものについて、俺はほとんど執着がなかった。


だから周りの奴らを見て、その価値観の差に驚いた。


モンスターの狩猟や暗殺、用人の警備、政治への参加、戦時での出兵、テロの鎮圧など、とにかく色々な仕事を任される戦士という職業。


だがその根幹にあるのは、全て国のために働く仕事であるという事。


もちろん俺も、それくらい知識としては理解していた。


けど周りの人達は違った、皆んな、それを()()として理解していたんだ。


それを分かっている上で、皆んながそれぞれの理由で戦士として生きていた。


国のために働きたい、お金が欲しい、家族に見栄を張りたい、職歴が欲しい、顕示欲を満たしたい、恋人が欲しい…理由はいろいろあった。


だけどその全てが、その人にとって大切な何かを護るためというのが、根底にあるように感じた。


だけどそれは、俺には全く無いものだった。


この時ようやく、子どもの頃に感じたあのやるせなさを思い出した。


みんなには迎えに来てくれる家族がいるのに、俺にはそんなのいない。


きっと家族がいるのが普通で、いないのが変なんだろう、でも、俺にはいない。


その時初めて、俺は他とは違うんだと自覚した。


同時に、俺は間違ってて、紛い物なんだとも分かった。


戦士として、護りたいもののために生きるのが正しくて、俺のように生きる事が間違ってる。


そう考えた途端、俺は、戦士として生きてはいけないんじゃないかと思えてきた。


確かにバリアの能力を買われて、すぐにフレミング最強の戦士としての地位が手に入りはした。


でもそれは俺が偶々バリアというスキルを持っていたからだ、もしそうでなければこんな地位は手にいれられていない。


だからそれは関係ない、紛い物の俺が、このまま戦士を名乗るのは正しい事なのかと悩んだ。


けどすぐに開き直れた。


俺は確かに他とは違う紛い物だ、だけど、俺にはこうする生き方しかしらない。


例えどんな存在だったとしても、生まれ持った生き方を続ける事が、俺が戦士であり続ける事への、せめてもの償いになると思った。


そう決意できた時、ようやく、自分の護りたいものが見つかった。


世界中全ての戦士一人一人が持っている、護りたいもの…俺はそれを護りたい。


その為に戦士として生きると決めた。


だから戦争で敵の戦士を殺す時でも、その想いを無駄にしたりしない…


フレミングを守る為じゃない、戦士の護りたいものを護る、それが俺…戦士テオだ。



テオの瞳が、ゆっくりと開いた。


外はいつの間にか、朝日が優しく照りつける時間になっていた。


「今の…夢か、」


夢にしては、冒頭の部分はやや謎が残る、何故俺に家族がいないかなんて施設の人にも聞かされなければ調べた事もなかったのに…


妄想で記憶の穴が埋められたか、だけど、このタイミングであんな夢が見られてよかった。


お陰で、思い出す事ができた。


俺がなんのために戦っているのか、何を護りたくて戦士として生きているのか…


自国の為でも、戦士への冒頭をよしとしないからでもない…


「そうだ、俺は…」


心に纏わりついていた靄が晴れた気分だ。


ようやく、俺は自分に素直になれる。


大丈夫だ、例え誰かにはできない事でも、生まれ持ったこのバリアで、助けを求めていた少年を助けたように…


「俺は救う、βを、彼女をこの戦争から…助ける!!!」


その後、テオは誰にも言わず、誰にも見つからずにレンドンから出ていき、1人ジャリへと向かった。

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