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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

一つ、その心に灯火を

作者: ポン酢
掲載日:2023/05/01

(あんまり深い意味はありません。戦闘シーン的なモノのリハビリです。)



「どうだ?完璧なまでに叩きのめされた気分は?」


アイツはそう言った。

いつだってそうだ。


俺はグッと奥歯を噛み締めた。


口の中が鉄っぽい。

頬の裏が切れていて心地悪い。

飲み込むには気色悪くて、ペッと吐き捨てた。


今度こそ、前に進めると思ったのに。

苦々しい想いを抱え、ただそいつを睨みつける。


いつだってそうだ。


風向きが変わり、その風に乗れると信じてた。

今度こそ前に進むのだと。


なのに。


膝をついた状態から、立ち上がる事もできない。

悔しくて悔しくてただ前を睨む。

力の入らない膝が、痙攣する腓腹筋が、憎々しくて仕方ない。

立ち上がって1歩でも前に進もうとして、みっともなく崩れ落ちる。


「……いいザマだ。所詮、お前などその程度。身の程を知って、引き下がって打ち震えていればいい。」


その言葉にただ強く奥歯を噛む。


確かに、と思う。

今度こそと順調に積み重ね、調子づいていたのかもしれない。


俺が今まで積み重ねてきた全てをかけて築いたものを、アイツはあっさり飛び越えた。

そしてこれでもかと、さらなる高みを見せつけた。


叩きのめされた。

コテンパンに叩きのめされた。


今の俺は身動きもできず、地べたで藻掻いているだけの蛆虫だ。

それをアイツが冷ややかに笑って見下ろしている。


「諦めろ。お前には地べたがお似合いだ。」


グッと奥歯を噛む。

せめて顔だけは起こしていようと震える腕に何とか力を加え、気力だけで軽く上半身を起こした。


それを、アイツは足で踏みつけた。


「足掻くな。そんなにして何になる??」


「………………。」


何になる?

さぁな、と思う。


「もう疲れただろう?立ち向かわなければ、そんな思いをする事もないのだぞ?」


甘い誘惑だ。

諦めてしまえば楽になれる。


それでも……。


踏みつけられながらも拳だけはグッと強く握った。



「……ふん。諦めの悪いヤツだ……。いずれ死ぬぞ?」


「…………それでも……。」



諦めた。

たくさんの事を諦めてきた。


そんな自分に残された、たった一つの灯火。


何度も消してしまおうと思った。

何度も捨ててしまおうと思った。



「それでも……これが……。」



それに何の意味があると言われた。

そんなものに拘って何になると。


そんなものに時間と労力をかけて何になると、そんなものは必要ないと。

努力しても報われないのは、努力の仕方が間違っているからだと、その間違った努力がそれだと。



「……だとしても……間違った努力だとしても……何の意味もないとしても……っ!!」



俺は歯を食いしばって、アイツの足を払い除けた。

立ち上がれなくても体を起こし、前を睨んだ。



「何の炎も持たない訳じゃない!!たとえ他人にとって無駄な努力に見えようとも!何の意味も持たない努力だとしても!!」



この胸にその灯火がある。

人がどう見ようと、自分をどれだけ蔑もうと、この灯火だけは奪う事はできない。


自分ですら消す事ができないそれを、

自分ですら捨てる事ができないそれを、

どうやって他人が奪えるというのか?


どれだけ無駄な努力に映ろうとも、この灯火を持っている事が俺の全てだ。


今は立ち上がる事ができなくても、どれだけ打ちひしがれていても、この炎は消えてくれないのだ。


だからまた立ち上がる。

そして立ち向かう。



「……そうか。」



アイツはそう言って笑った。

いつだってそうだ。



「ならば、先に行く。追いたければ追ってくればいい。」



そして言葉通り、俺が望んでいた道の先を走っていく。

それを目に焼き付ける。



「……負けっぱなしでいられるかっての。」



他の事ならともかく、俺にはこれしかないのだから。


それにしても随分、派手にやられたもんだ。

全く、アイツは容赦ない。


俺は口の血を袖で拭った。

前を睨み、息を整える。


やられっぱなしじゃ目覚めが悪い。


ふらつきながらも何とか立ち上がる。

まだ走るどころか歩き出す事もできないけれど、前を睨む事はできる。


やられたらやり返せ。

倍にして返してやれ。


たとえ誰に負けても、自分自身になんか負けてらんねぇ。


理想は遥か遠くにある。

追いついても、それはいつでも果てしなく遠い。



一つ、心に灯火を。



何も持たなくても、それだけは失わない様に。

たとえ誰に何と言われようと、それだけは見失わない様に。


いつまでも蹲っている場合じゃない。

いつまでも立ち止まっている場合じゃない。



「こんだけ喧嘩売られたんだ。絶対、負けねぇ……っ!!」



それがどんなにみっともなくとも。

それがどんなに無意味に見えようとも。


自分にとっては意味のある事だから。



「他の事ならともかく……。コイツだけは譲れない……。その為に戦わない俺なんか、俺でいる意味がねぇ。たとえ負け戦でも、最後まで踏ん張って殴りかかったる……。覚悟しろ!!」



理想は遠い。

現実はいつだって冷徹で容赦ない。

生きたまま肉をえぐる。


それでも。


血まみれでボロボロになろうとも。

追いかけなかったら近づけない。


のたうつ姿をみっともないと、無駄な努力をしていると他人にせせら笑われても。


それでも……。


前を睨み、前に進むしかないのだ。

それがこの心に決めた生き様だ。


「ぜってぇアイツには負けねぇ……。」


ペッと口の中の血を吐き捨てた。

アイツが進んだ先を睨みながら……。


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