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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

一つ、その心に灯火を

作者: ポン酢

(あんまり深い意味はありません。戦闘シーン的なモノのリハビリです。)



「どうだ?完璧なまでに叩きのめされた気分は?」


アイツはそう言った。

いつだってそうだ。


俺はグッと奥歯を噛み締めた。


口の中が鉄っぽい。

頬の裏が切れていて心地悪い。

飲み込むには気色悪くて、ペッと吐き捨てた。


今度こそ、前に進めると思ったのに。

苦々しい想いを抱え、ただそいつを睨みつける。


いつだってそうだ。


風向きが変わり、その風に乗れると信じてた。

今度こそ前に進むのだと。


なのに。


膝をついた状態から、立ち上がる事もできない。

悔しくて悔しくてただ前を睨む。

力の入らない膝が、痙攣する腓腹筋が、憎々しくて仕方ない。

立ち上がって1歩でも前に進もうとして、みっともなく崩れ落ちる。


「……いいザマだ。所詮、お前などその程度。身の程を知って、引き下がって打ち震えていればいい。」


その言葉にただ強く奥歯を噛む。


確かに、と思う。

今度こそと順調に積み重ね、調子づいていたのかもしれない。


俺が今まで積み重ねてきた全てをかけて築いたものを、アイツはあっさり飛び越えた。

そしてこれでもかと、さらなる高みを見せつけた。


叩きのめされた。

コテンパンに叩きのめされた。


今の俺は身動きもできず、地べたで藻掻いているだけの蛆虫だ。

それをアイツが冷ややかに笑って見下ろしている。


「諦めろ。お前には地べたがお似合いだ。」


グッと奥歯を噛む。

せめて顔だけは起こしていようと震える腕に何とか力を加え、気力だけで軽く上半身を起こした。


それを、アイツは足で踏みつけた。


「足掻くな。そんなにして何になる??」


「………………。」


何になる?

さぁな、と思う。


「もう疲れただろう?立ち向かわなければ、そんな思いをする事もないのだぞ?」


甘い誘惑だ。

諦めてしまえば楽になれる。


それでも……。


踏みつけられながらも拳だけはグッと強く握った。



「……ふん。諦めの悪いヤツだ……。いずれ死ぬぞ?」


「…………それでも……。」



諦めた。

たくさんの事を諦めてきた。


そんな自分に残された、たった一つの灯火。


何度も消してしまおうと思った。

何度も捨ててしまおうと思った。



「それでも……これが……。」



それに何の意味があると言われた。

そんなものに拘って何になると。


そんなものに時間と労力をかけて何になると、そんなものは必要ないと。

努力しても報われないのは、努力の仕方が間違っているからだと、その間違った努力がそれだと。



「……だとしても……間違った努力だとしても……何の意味もないとしても……っ!!」



俺は歯を食いしばって、アイツの足を払い除けた。

立ち上がれなくても体を起こし、前を睨んだ。



「何の炎も持たない訳じゃない!!たとえ他人にとって無駄な努力に見えようとも!何の意味も持たない努力だとしても!!」



この胸にその灯火がある。

人がどう見ようと、自分をどれだけ蔑もうと、この灯火だけは奪う事はできない。


自分ですら消す事ができないそれを、

自分ですら捨てる事ができないそれを、

どうやって他人が奪えるというのか?


どれだけ無駄な努力に映ろうとも、この灯火を持っている事が俺の全てだ。


今は立ち上がる事ができなくても、どれだけ打ちひしがれていても、この炎は消えてくれないのだ。


だからまた立ち上がる。

そして立ち向かう。



「……そうか。」



アイツはそう言って笑った。

いつだってそうだ。



「ならば、先に行く。追いたければ追ってくればいい。」



そして言葉通り、俺が望んでいた道の先を走っていく。

それを目に焼き付ける。



「……負けっぱなしでいられるかっての。」



他の事ならともかく、俺にはこれしかないのだから。


それにしても随分、派手にやられたもんだ。

全く、アイツは容赦ない。


俺は口の血を袖で拭った。

前を睨み、息を整える。


やられっぱなしじゃ目覚めが悪い。


ふらつきながらも何とか立ち上がる。

まだ走るどころか歩き出す事もできないけれど、前を睨む事はできる。


やられたらやり返せ。

倍にして返してやれ。


たとえ誰に負けても、自分自身になんか負けてらんねぇ。


理想は遥か遠くにある。

追いついても、それはいつでも果てしなく遠い。



一つ、心に灯火を。



何も持たなくても、それだけは失わない様に。

たとえ誰に何と言われようと、それだけは見失わない様に。


いつまでも蹲っている場合じゃない。

いつまでも立ち止まっている場合じゃない。



「こんだけ喧嘩売られたんだ。絶対、負けねぇ……っ!!」



それがどんなにみっともなくとも。

それがどんなに無意味に見えようとも。


自分にとっては意味のある事だから。



「他の事ならともかく……。コイツだけは譲れない……。その為に戦わない俺なんか、俺でいる意味がねぇ。たとえ負け戦でも、最後まで踏ん張って殴りかかったる……。覚悟しろ!!」



理想は遠い。

現実はいつだって冷徹で容赦ない。

生きたまま肉をえぐる。


それでも。


血まみれでボロボロになろうとも。

追いかけなかったら近づけない。


のたうつ姿をみっともないと、無駄な努力をしていると他人にせせら笑われても。


それでも……。


前を睨み、前に進むしかないのだ。

それがこの心に決めた生き様だ。


「ぜってぇアイツには負けねぇ……。」


ペッと口の中の血を吐き捨てた。

アイツが進んだ先を睨みながら……。


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