採用枠
「こんにちは。コーヒーでもいかがです?」
「あぁ、どうも。」
「採用の調子はどうです?」
「どうもこうも、例年通りですよ。」
「やっぱり例の枠が埋まりませんか。」
「えぇ、まあ。なんせ『マイノリティ』ですからね。探すだけでも一苦労ですよ。見付かったって入ってくれる訳じゃない。あの人たちも、今や引く手数多ですからね。人事としては頭が痛いですよ。」
「そうでしょうね。よく分かります。経理だって頭が痛いですよ。いったいどれだけ施設改修と維持に割かれているか。トイレ周りだけで3倍ですよ。」
「ですよねぇ。大して使う人だっていないのに。倉庫にでもしたいくらいでしょう。」
「それでも置いておかなきゃいけませんからね。」
「えぇ、まったく……失礼、電話を。もしもし、こちら〇〇株式会社人事部××と申します。」
「………」
「あぁ、入社希望の方ですか。履歴書はお手元にありますか?……でしたら、1番から5番まで読み上げて頂けますか?」
「………」
「そうですか、申し訳ないんですが、既に枠が埋まっておりまして。……えぇ、わざわざお電話頂いたのに申し訳ありません。わざわざありがとうございました。今後のご健勝とご活躍をお祈りいたします。それでは。」
「はぁ…」
「定年後は司祭になれそうですね。」
「全くですよ。このままだと、内定を検討している人の何人かにも、お祈りをすることになりそうです。」
「男性48.5%、女性48.5%、その他3%、でしたね。」
「えぇ、その3%が中々曲者で……。」
「今の方は?」
「心の性が体と一致していないと言ってくれさえすれば採用したんですがね。」
「5%の方はどうです?」
「そちらは既存の社員でなんとか。強いて言えばもう一人くらいは欲しいですが、そこまで望むのは高望みというものでしょう。今はとにかく3%の方です。」
「それもそうですね。そんな一挙両得な人材、とっくに△△商事あたりが押さえてるでしょうし。」
「そうなんですよ。とにかく、戻ってまた探します。」
「同じく、仕事に戻ります。お互い頑張りましょう。」
「それじゃあ、失礼します。」