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英雄譚 リオン編  作者: ドル チイダ
ハヴェアゴッドでの攻防
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戦いの夜明け

 外に出てギルドの大広間に行くと既に中心付近に冒険者たちが勢揃いしていて、部屋を出てすぐの所にゴカゴとウィーポが立っていた。


「着替えは済ませたか?」


 彼はボタンで留めた白シャツに袖の無い黒いジャケットを羽織り、長い足を包む白のズボンを履いている。さらに靴は黒の革製のもので、動きやすさを重視しているようだ。


「はい、一応動きやすい服装には!」


 俺が選んだ服装は、肌に吸い付くような黒い長袖の上に暗い緑色の半袖シャツ。ズボンは縦に折り目の入った薄水色と濃い青の縞模様が入ったものを。靴はウィーポと同じく革製で、深緑色のものを着用している。


「緊張してない?」

「大丈夫、気分はいいよ」


 ゴカゴは女の子だが、相変わらずクリーム色の長袖シャツにオーバーオール型の大工姿のような茶色い服。そして足首まで頑丈な素材で固められた藍色のズボンを履いていて、柔らかい布の暗い朱色の靴を身に付けている。

 いつもの服装と変わらない彼女を見て、タンジョウの呉服屋で選んだ彼女の(こだわ)りを思い出していた。


 こんな服装だが、上には簡単な鎧を着る予定だ。当然それはスミスの店で購入したものであり、今回の戦いでは(まとい)による身体能力向上だけでは怪我は避けられないと判断したからだ。

 その鎧に関してはロディジーさんの収納用魔道具の中に入れていて、現地で取り出して装着する予定である。


 何故最初から着ていないかと言うと、(まとい)をしていない時の鎧はやはり重さを感じるため、極力着ている時間を短くしたかったから。

 それはゴカゴも一緒のようで、彼女も魔道具の中に収容したスミス特製の鎧がある。

 ウィーポは……騎士団の頃の鎧を着けている様子も無く、そのままの格好で戦うのだろうか。


「行くぞ、中央で皆が待っている」


 彼の言葉の通り、冒険者の中にはブカッツらもおり、昨日名前を知ったドルバの姿も見えた。

 あの大勢の輪の中に、バルードたちが待っているんだろう。

 外から見ても圧巻される相変わらずの熱気に気圧されている間も無く、歩き出したウィーポに着いていく。


 ウィーポに気づいた彼らは道を空けてくれて、割れた観衆の先にガルマとロディジー、そしてバルードが腰に手を当てて待ち構える。

 完全に主役のような歓迎のされ方に、バツが悪い俺はずっとうつむき加減で歩いていた。


「準備はできたようだな」


 彼の眼帯姿には慣れたものだが、今日の服装は中々に強烈だ。腕は露出した筋肉を見せ、(たる)色の鎧が肩と胸に装着されている。さらに、金属の帯が僧帽筋(そうぼうきん)の部分と心臓の部分を守るように交差する形でたすき掛けされている。

 さらに腰周りにも鎖帷子(くさりかたびら)のような見た目の鎧を着ており、ブカブカに見えるズボンには針金が編み込まれているようで場内の明かりを時折反射していた。


 完全に戦闘態勢の彼に対して、ロディジーはいつも通り黒寄りの紫色のダボついた服を着ており、スカートのようになっている部分から見える黒い靴は先がとんがっている。

 さらに長い白髪を後ろに一本結っており、服の色と同じ小さなとんがり帽を被った姿は誰が見ても魔法使いそのものだった。


「なんじゃ、まだ鎧を着てないのか」


 横から発言したガルマもまた、隆々とした筋肉が見える服装で、バルードと同じような形の鎧を着ている。違いがあるとすればこちらの鎧は藍色で、靴もバルードの硬そうな素材とは違い、動き(やす)そうな布のものだというくらいか。

 彼の場合は浮遊してからの近接戦闘が主だから、きっとそこだけ動き易いものにしたんだろう。他はかなり重そうな見た目だが。


「私たちは子供よ、重すぎていつも着てられないの」

「……スミスの店で買ったものだと聞いたが、それでも重さを感じるのか?」


 同じ系統の店屋をやっているウィーポは、どうやら彼の店の防具に関してある程度の信頼を寄せているらしく、ゴカゴの発言に対して疑問を提唱する。


「普段と比べれば重いわよ」

「ウィーポよ、お前は騎士団時代に着こなしておるから分からんのじゃろう?」

「何を言う、普段と変わらぬ着こなしをしてこそ鍛錬の賜物(たまもの)というものだろう。大体なんだその靴は、お前には似合ってないぞ」

「似合う似合わんは関係無いじゃろがこの鍛錬馬鹿め」


 一体何を言い合っているんだこの人たちは……。呆れた顔のゴカゴに気づいたガルマはいち早く咳払いをして、ウィーポは鼻を鳴らして顔を背ける。


「随分と仲が良いな」


 顔を引き()らせたバルードがそう言って、両者の間に立つ。

 鍛錬を受けている時もそうだったが、ガルマとウィーポは確かに仲が良いみたいで、よく歯に衣着(きぬき)せぬ言い合いをしていた。

 きっと彼らの若い時に色々とあったんだろうと予測するが、そうなるとウィーポも割と年齢がいっているのだろうか。それともガルマが予想以上に若いのだろうか。


「まあまあ、今から団結する者が言い合ってどうするね。ほら、皆がお待ちだよ」


 最後には仲介を務めるロディジーが締め括り、頷いたバルードは中央にいつの間にか設けられていた壇上(だんじょう)に立つ。

 恐らく昨日のうちに設置されたんだろう。即席で作られたのが見て取れた。


「さて、勇気ある冒険者たちよ。ついに出発の時が来た。此処に居るタンジョウの勇者たちと共に、我らなりの気概(きがい)を見せつけようではないか」


 待ちくたびれたように呼応する観衆からの暑い声援を受けて、どんどん身体が熱くなっていくのを感じる。

 

「さあリオンくん、君からも一言頼むよ」

「えっ、俺ですか?」


 振り返った彼に突然振られて、笑うガルマに肩を押されながら壇上に進む。昨日と違い、はっきりと見渡せる冒険者たちの顔は、今や共に戦ってきた仲間のような眼差しでこちらを見つめてくる。

 その中に俺の父であるケリウスを重ねて見ている人も居るだろうが、動揺する心を沈めて深呼吸をした。


「皆さん、昨日は暖かく送り出していただきありがとうございました。今日は共に戦いますが、皆さんに負けぬよう頑張ります」

「はは、立派な演説だ。少し(かしこ)まりすぎてる気もするがな」


 煽るような声援を受けながら、バルードの言葉に理不尽さを感じた。そんな事を言われても、変なことは言えない空気なんだから仕方ないじゃないか。


「さあ、此処に居るリオンくんはお前たちに負けないときたもんだ! じゃあどうする? 彼の後ろで震えて立っているか?」


 とんでもない煽りをしだす彼を見て、血の気が引いていくのを感じる。しかし、分かりやすい反応を返す冒険者たちとギルドマスターのやり取りはどんどん熱が籠っていき、自分を燃料として投下することによって闘志という名の大火(たいか)を作っていく。


「そうだろう、負けるわけにはいかないよな! ハヴェアゴッドの戦士たちよ、ケリウスの加護を得て今、魔物を駆逐するのだ!」

「おお!!!」


 空気を揺るがす声が場内に響き渡り、最高潮に達した士気のままバルードは出陣を命じた。

 走り出したい気持ちを自制した彼らが、列を成して地上を目指す。その壮観(そうかん)な光景に惚けていると、背中を軽く叩かれた。


「ほら行くよ」


 叩いた主はゴカゴであり、まるでブシドウにするような扱いで俺の手を引いて進んでいく。恥ずかしくもあったが、高揚している気分のおかげで悪い気はしなかった。


 長蛇の列が少しずつ消化されていき、ほぼほぼ最後に順番が回ってきたタイミングで、まだ登っていなかったブカッツらが近づいてくる。

 

「いよいよね、あたしたちにとっては何回やっても慣れない戦いだけど、今回は光の壁があるからだいぶ心強いわ」


 昨日ドルバの話で心乱されていたマギは、変わらぬ笑顔で微笑みかける。

 相変わらず深紅の一体型の服を身に纏い、張り付くような見た目にも(かか)わらず動く時の機能性には優れているみたいだ。きっと伸縮性が抜群なんだろう。

 靴はかかとの部分が僅かに高いヒール型のものだったが、基本後ろで戦う彼女には問題ない代物(しろもの)だ。

 そして今回は服と同じ色のとんがり帽を被っており、戦いの格好であることを知らしめていた。


「リオンくん、共に戦うのは二年ぶりだね。よろしく頼むよ」


 相変わらず腰が低いフォクセスは、ゆったりとした白の着物を下地に、鈍く金に輝く無骨な鎧を身に付けていた。隙間は僅かしかなく、魔物の爪の攻撃や武器による攻撃を防ぐのにも適していそうだ。

 さらに腰にはスカートのように広がる鎧と、膝を守るような甲冑(かっちゅう)に、(わら)で編んだような紐を指に通して履いている珍しい靴が見える。

 二年前には着ていなかった重装備を見て度肝を抜かれていたが、その視線に気づいた彼は優しそうにはにかんだ。


「気にしないでくれ、どうせ(まとい)を使えばいつも通りに動けるから」

「当たり前だ」


 見下ろすような立ち位置で言うブカッツは、相変わらずの重装備だ。

 持つことすら難しそうな大きな銀の鎧で肩と胸、胴と腕を守っており、背中には巨大な斧を背負っている。

 脚もまた鈍色に光る銀の鎧で固められ、あらゆる攻撃を防ぐ構えを見せている。


「偉そうに言わないの、アッシュウルフの一件以来肩も守るようにした癖に」

「だから余計なこと言うなって!」


 相変わらずの仲の良さに、自然と緊張が解れていく。二年前には見られなかった一面を沢山見せてくれる彼らのことが、俺は好きだった。


 それから程無くして合流したバルードと、それを見送るセルビンが父と挨拶を交わす。ギルドマスターとして戦場には赴くが、しばらくしたら一旦戻ると息子に告げ、涙目の彼を抱き締める。

 

「よし、行こうか」


 振り返った彼はあくまで笑みを浮かべていたが、セルビンの頭を撫でる腕は名残惜しそうに彼の頬へと伝い、ゆっくりと離れる。

 ブカッツらが上がり、次にウィーポと俺が続く。胸の高鳴りが思い出したように主張しだし、階段を登りながら深呼吸をした。


「……それでいい、緊張感は大事だ」


 呟いた彼の背中もまた、緊張感に溢れている。

 恐怖は抱け、だが呑まれるな。鍛錬の際に彼が口癖のように使っていた言葉だが、今なら理解できる。怒りで恐怖に打ち勝っていた頃とは違い、今は自制できるようにならなければならないんだ。さもないと、判断を見誤る事になる。ディードの時のように……。


 後ろに居るゴカゴを気にしつつ、やがて地上の光が淡く出迎える。霧はあるが晴れを感じさせる明るさで地上を照らしており、大勢の足跡が西へと伸びていた。

 ウィーポに続くように歩き出した矢先に、カバンの中に仕舞った光の玉の様子を見てみる。それは都合良く西の方へと向いており、進行方向を指し示していた。


 思い当たるものがあるとすれば、父の銅像跡を示しているのかもしれない。


「それが言っていた玉?」


 隣に並んだゴカゴはカバンの中を覗き込み、光が指す方向へと視線を移す。


「こっちに伸びてるのね」

「うん、今のところはよく分からないけど、とりあえず行ってみるしかないね」


 そもそも今から戦闘が始まるのだ、それどころでは無かった。

 少し離れてしまったウィーポの後を追いかけて、駆け足気味に進み出す。


「何をしていた?」


 追いついた彼の背中から、俺の行動を咎めるような声色で質問が飛ぶ。


「えっと、実は」


 昨日の出来事を話してみると、彼は急に立ち止まってこちらを向いた。

 

「クリストが渡してきただと?」

「は、はい、これなんですけど」


 恐る恐る光の玉を手に乗せて見せると、彼はそれを手に取ってじっくりと眺めた。

 光の筋は未だに進行方向へと伸びており、ちょうど彼を指すような形になっている。


「起きたら握っていたんだな?」

「はい」

「ふむ……これは、恐らくだが魔石だ」

「魔石?」


 成長した魔物の体内にあると言われている魔石、それが俺の手に握られていたということはやはり悪意ある者の仕業だったのか。

 固唾を飲んで彼の次の発言を待っていると、目を合わせてきたウィーポは何も言わずに玉を返してきた。


「えっと、これは持っていても大丈夫なんですか?」

「ああ、身体に支障は無い。そもそも魔石は武具や防具の加工に使われたりするもので、魔物の体内にあったものとはいえ基本的に害は無い」


 説明を聞いて納得するが、じゃあ一体この光は何故伸びているんだろう。

 腑に落ちないまま玉を見下ろしていると、彼は踵を返して背中を向けたまま呟いた。


「今は気にするな、魔物を止めてから考えろ」


 それは彼なりに戦いに集中しろという意味だったのかもしれない。そう言い聞かせて、カバンの中に玉を仕舞う。名残惜しそうに光を漏らしていたそれは完全に仕舞われて、気持ちを切り替えた俺は再び歩き出した。

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